大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)419号 判決 1961年9月27日
堺市中三国ヶ丘町一丁一七番地
控訴人
新田元温
右控訴代理人弁護士
坂本秀之
同市南瓦町一丁五番地
被控訴人
堺税務署長 安藤真学
右指定代理人検事
山田二郎
同
大蔵事務官 平井武文
同
山口修二
同
岩崎富太郎
右当事者間の昭和三二年(ネ)第四一九号行政処分取消控訴事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和三〇年六月三〇日付でなした控訴人に対する相続税更正処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(控訴状に「控訴人」とあるは「被控訴人」の誤記と認める)の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「一、仮に本件更正処分が相続財産を時価より低額に評価しており、その財産をもつてする相続税の物納に不利益をきたすとしても、納税義務者である控訴人として納税債務額の低額な方が利益であることは明らかであり、また、物納財産の収納価額が課税価額計算の基礎となつたその財産の価額によることになつているからといつて、控訴人はその財産を物納することを法律上義務づけられておらず、全く任意にその財産を右価額で物納することにしているのであり、それに物納申請が許可になるかどうかは税務署長の裁量に委されていて(相続税法第四二条第二項)、物納の成否が遡つて課税処分に影響を及ぼすものではないから、控訴人は更正処分によつて不利益を必然的に受けるものではない。そうすると、控訴人は更正処分を争う訴の利益を欠いているというべきである。二、本件庭園について控訴人より物納申請が提出されていたところ本訴提起後である昭和三二年一二月五日頃その申請は却下され、かつその却下の処分が確定した。三、本件更正決定は控訴人の主張の範囲内でその納税義務を認めているもので、少くとも右決定の認めている納税義務を控訴人が負担すべきことは明らかであり、右決定の取消されるべきいわれがないから、右決定の取消の請求は主張自体において理由がない。」と述べ、控訴代理人において、「右二、の事実は争わない。」と述べたほかは原判決の事実摘示と同一である。
理由
控訴人主張の請求原因事実中(1)(2)(5)(7)(8)(9)(10)記載の事実は、当事者間に争がない。
控訴人の主張は、被控訴人のなした本件相続税の更正処分における相続財産の評価よりも低額であるため、控訴人は物納に際し収納価額を低く評価される結果、その権利を侵害される懼れがあり、したがつて、右更正処分の取消を訴求するというのである。
しかしながら、本訴係属中の昭和三二年一二月五日頃控訴人の物納申請が却下され、右却下の処分が確定したことは当事者間に争がないから、本件相続税の物納を前提とし前記更正処分によつて権利ないし法律上の利益侵害があるとする控訴人の主張は、主張自体訴の利益なきに帰するといわねばならない。
故に控訴人の請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴は棄却を免れない。
よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のように判決する。
(裁判長判事 沢栄三 判事 斉藤平伍 判事 石川義夫)