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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)524号 判決 1961年6月21日

控訴人(原告) 長谷川清策

被控訴人(被告) 奈良県知事

主文

原判決を取り消す。

被控訴人が控訴人に対し、別紙目録記載の農地(一)について昭和二三年一二月二日を買収期日としてなした買収処分および同目録記載の農地(二)について昭和二四年七月二日を買収期日としてなした買収処分は、いずれも無効であることを確認する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は、控訴代理人において、「仮りに被控訴人が別紙目録記載の(一)(二)の各農地(以下、本件農地という)の買収につきその主張のごとき買収令書の交付に代る各公告をしたとしても、その公告には、自作農創設特別措置法第九条第一項但し書および第二項による同法第六条第五項所定の買収すべき農地の地番、地目、面積等が公告されていないから、右各公告は買収令書の交付に代る公告としての効果を生ずるに由なく、したがつて、本件各買収処分は無効である」と述べ、(証拠省略)

被控訴代理人において、「控訴人が本件各農地を訴外西川林之助より買受けて所有権を取得したことは認める」と述べ(証拠省略)たほか、

原判決の事実摘示と同一であるから(ただし、原判決五枚目末行の「仮に」以下同七枚目二行目の「べきものである」までの部分と、同三枚目九行目の「又」以下同四枚目裏終わりから二行目の「法律上の利益がある。」までの部分は、当審でその主張が撤回せられたから、これをのぞく。なお、同九枚目八行目の「西川音次郎」とあるのを「西川音治郎」と訂正する)、こゝにこれを引用する。

理由

当事者適格に関する被控訴人の本案前の抗弁について、当裁判所の判断は、原審と同一であるから、ここに原判決の理由(冒頭から原判決一〇枚目七行目の「本訴は適法である。」までの部分)を引用する。

そこで本案について判断する。

被控訴人が控訴人所有の本件(一)および(二)の各農地につき、訴外磐城村農地委員会の定めた各買収計画に基いて、控訴人主張の各日時に買収処分をなしたことは、当事者間に争がない。

一、保有面積侵害の瑕疵について

右買収処分が控訴人の小作地保有面積を侵すとの控訴人の主張についてみるのに、かかる保有面積侵害の瑕疵は、買収処分の取消事由となるにすぎず、買収処分を当然に無効ならしめるものではないから、控訴人が本件買収処分の無効事由として、かかる瑕疵を主張することは、許されない。したがつて、この点に関する控訴人の主張は、その他の点について判断するまでもなく、理由がない。

二、買収計画の公告に関する瑕疵について

成立に争のない乙第五号証の一、二、第一六号証、作成者の名下の印影につき争がないから真正に成立したものと推定される乙第六号証の一、二、原審証人河井清八、木村作司の各証言によつて成立の認められる乙第四号証の一、二と右各証言および当審証人西川幸一の証言を綜合すると、訴外磐城村農地委員会は、昭和二三年一〇月一一日本件(一)の農地につき買収計画を定め、同月一三日同村役場の掲示場において、「自作農創設特別措置法第三条に依る農地買収に関する件」と記して、これに関する買収計画書を同月一五日から同月二五日まで縦覧に供する旨の公示をなして、公示どおり縦覧に供したこと、また同農地委員会は、本件(二)の農地につき昭和二四年五月一四日その買収計画を定め、同日前記掲示場において、「自作農創設特別措置法第三条に依る農地買収計画書(第十六号号)」と記して、これに関する買収計画書を同月一六日から同月二五日まで縦覧に供する旨を公示し、公示どおり縦覧に供したこと、右各買収計画書には、自作農創設特別措置法(以下、自創法と略称する)第六条第五項所定の要件の記載がなされていたことが認められる。当審証人長谷川宇三郎の証言中右認定に反する部分は、前掲の各証拠に照らして信用しない。

ところで、縦覧に供せられる買収計画書には、自創法第六条第五項所定の要件の記載を要するが、買収計画の公告における公告の事項については、単に買収計画を定めた旨の記載があれば足り、右六条五項の規定する買収すべき農地の所在、所有者、その他の要件の記載を要するものではない。(最高裁、昭和二六年八月一日判決、民集五巻九号四八九頁参照)。したがつて、本件における前記認定の買収計画の公告には、なんら瑕疵はなく、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

三、買収令書の交付に代わる公告の瑕疵について

成立に争のない乙第七号証の一、二、第一四、第一五号証、公文書として真正に成立したものと推定される乙第八号証の一、二、前記証人木村作司、原審および当審証人西川幸一の各証言を綜合すると、奈良県知事は、本件(一)の農地につき昭和二四年二月一〇日、本件(二)の農地につき同年七月二日、各買収令書を発行し、それぞれその当時前記地区農地委員会を経て控訴人に右各買収令書を交付しようとしたが、控訴人が買収を不服としてその都度受領を拒んだので、同知事は、農地の所有者に買収令書の交付をすることができない場合にあたるとして、前者につき同年六月二日付の県報に、後者につき昭和二五年四月二八日付の県報に各公告をしたことが認められる。原審および当審における証人長谷川宇三郎の証言、当審における控訴人本人の供述中、右認定に反する部分は、前掲の各証拠に照らして信用しない。

ところで、自創法第三条の規定による農地の買収において、買収令書の交付に代わる公告は、買収令書の交付と同様の効力を有し、買収処分の効力発生要件をなし、買収令書の交付に代えて公告された「買収の時期」にその所有権が政府に帰属するばかりでなく、その農地の所有者にとつては、買収処分の内容を最も的確に知ることができ、買収に関する瑕疵を追及する最後の機会を与えられる重要なものである。したがつて、買収令書の交付に代わる公告において、買収の目的たる農地を特定し、その買収の時期を明確にすることを要するのは、明かである。しかるに、前記乙第七、第八号証の各一、二を照合検討すると、本件(一)の農地に関する前記昭和二四年六月二日付の県報による公告には、買収令書の記号番号として「北葛五三三」なる記載があるだけで、買収すべき農地の所在、地番、地目および面積ならびに買収の時期についての記載がなく、しかもその対価については本件(一)および(二)の農地に対する各買収令書記載の対価を合算した金額が記載せられており、また、本件(二)の農地に関する前記昭和二五年四月二八日付の県報による公告には、令書等番号として「北葛一五八」の記載があるだけで、買収すべき農地およびその所有者ならびに買収の時期に関するなんらの記載もない。そして、買収令書の交付に代えてなされる公告に右のごとく買収令書の記号番号を掲載しても、それは公告における前記の要件を充たすものではない。

そうすると、結局、本件買収令書の交付に代わる各公告は、買収の目的たる農地ならびに買収の時期を特定しない違法があり、この違法は農地買収処分における重大かつ明白な瑕疵というべきであるから、かかる瑕疵ある公告に基いてなされた本件農地買収処分は無効といわなければならない。

被控訴代理人は、「控訴人は知事の前記公告後に本件(一)の農地に対する買収令書の受領と対価の委任状を提出して来たので、被控訴人は控訴人に対し、日本勧業銀行奈良支店を通じてその対価を支払つた」と主張し、前記公告における瑕疵が完全に治癒された趣旨の主張をするのであるが、この点に関する乙第九号証の成立を証する証拠はないし、その他に控訴人が右買収令書の受領証を被控訴人に提出して対価の支払を受けたことが認められるような証拠は全然ないから、被控訴代理人の右主張は採用の限りでない。

結論

以上の次第で、本件農地買収処分の無効確認を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものであり、原判決がこれを棄却したのは不当であるから、取消を免れない。よつて、民事訴訟法第三八六条、第八九条、第九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 寺田治郎)

(別紙目録省略)

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