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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)817号 判決 1960年8月01日

原告(第八一七号事件控訴人・第一一二〇号事件被控訴人) 田辺杢兵衛

被告(第八一七号事件被控訴人・第一一二〇号事件控訴人) 菅生義麿

主文

原判決を次のとおり変更する。

被告は原告に対し奈良県字陀郡榛原町大字萩原元萩原第二、四四五番地の六雑種地三畝一〇歩につき売買による所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は第八一七号事件につき主文と同旨の判決を、第一、一二〇号事件につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告訴訟代理人は第一、一二〇号事件つき「原判決中被告敗訴部分を取消す。原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする」との判決を、第八一七号事件につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、

原告訴訟代理人において「本件土地はもと田であつたが、昭和五年近畿日本鉄道株式会社が榛原町に鉄道を敷設してからかんがい水がなくなり荒地となつたもので、ただ戦時中の食糧難のため非農家の人々が休閑地利用の一方法としてここに野菜類を栽培し、一時的に所謂家庭菜園として利用してきたにすぎないところ、原告が昭和二五年一〇月頃被告から本件土地を含む三一〇坪を材木置場として借受けた当時は右家庭菜園もなく全くの荒蕪地であつたし、その後昭和二七年春売買の目的物が本件土地に変更せられた当時もやはり荒蕪地であつた。のみならずその後被告において本件土地の西側の土地を宅地にするため地上げをするに及んで、本件土地は低地となり、水が溜り、材木置場として使用することができなくなつたので、原告において同年一一月頃地上げをして材木置場として使用しているもので、そのとき以後はその現況は明らかに農地ではなく材木置場となつたものである。ところが、本件土地所有者である被告は公簿上の地目田を実際の地目に適合させるため地目変換の申告をしなければならないのにこれをしないので、原告は債権者代位権に基き昭和三四年八月二一日奈良地方法務局榛原出張所に地目変換の申告と地目変更登記申請をし、同出張所同日受附を以て地目が雑種地に変更登記せられたが、その後被告において同月二四日これを畑に地目変更したので、原告は再び債権者代位権に基き昭和三五年一月二二日附を以てその地目を畑から雑種地に変更登記をした。よつて、本件売買についてはもはや奈良県知事の許可を必要としなくなつたので、さきに被告に対し本件売買につき奈良県知事に対し許可申請をなすべきことを求め、その許可を条件に登記簿上田であつた本件土地の所有権移転登記手続を求め、或は右本件土地の無条件の所有権移転登記手続を求めていたのを変更し、被告に対し雑種地たる本件土地の売買による所有権移転登記手続を求める」と述べ、

被告の抗弁に対し「公簿上農地であつてもその土地の実際が農地でないときは実際に適合するように土地の異動を登録すべきもので、右登録は土地台帳法上登記官吏の職権調査により把握された土地の現況に基きなされるものであるから、農地法第四条の転用許可があつたか否かの如きは右調査の範囲外であり、登記官吏の顧慮する必要のないものであるのみならず、土地の表示変更の登記は登記官吏が登記簿上の不動産の表示と土地台帳に登録された表示とを照合してこれに符合せしめる登記であつて、土地の表示変更の登記申請をするについて農地転用の許可書を添附すべきことは何等不動産登記法第三五条に規定されていないから、これを添附せずになされた地目変更登記申請と雖も何等の瑕疵なく、これに基きなされた登記は適法である」と述べ、「被告が昭和三〇年一二月一二日なした本件土地が農地であることを前提とする抗弁は被告の故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防禦方法でこれがため訴訟の完結を遅延せしめるものであるから却下せらるべきである」と附演し、

被告訴訟代理人において「(一)、榛原地方においては土地について売買契約を締結する場合は鄭重な契約書に実印を押捺するのが慣例であるのに本件売渡書(甲第一号証)は極めて簡略なもので、その押捺印も三文判が使用されているにすぎないし、本件土地は当時すでに一坪六、七千円の価値があつたから、わずか一坪二、〇〇〇円で売買される筈がない。従つて、本件土地は被告が原告に売渡したものではなく、被告が原告から借受けた金二〇万円の譲渡担保として提供せられたものにすぎない。

(二)、原告のなした地目変更登記は農地法第四条の農地転用の許可を受けず榛原町長の本件土地が荒蕪地である旨の一片の証明書によつてなされたものであるから無効である。即ち、土地台帳法は地租等土地に関する租税徴収のために制定せられた法律であるから、土地所有者の申告と登記官吏の調査裁量により地目変換の登録がなされるものではあろうが、農地法は自作農創設、農地の得喪を規制する等のために制定せられた法律であるから、同法第四条の農地転用の許可があつたか否かの如きは登記官吏の裁量によつて左右せられるものではない。従つて、奈良県知事の許可がないのに地目変更をすることは無効である」と述べ、

証拠として、原告訴訟代理人において、甲第六、第九、第一一乃至第一四号証、同第七号証の一乃至四、同第八、第一〇号証の各一、二を提出し、当審における証人田辺一子、同柿本万太郎、同松本常男の各証言、検証の結果、原告本人尋問の結果を援用し、

被告訴訟代理人において、当審における証人菅生七太郎(第一、二回)、同高野隆雄、同子守敬一郎の各証言並びに検証の結果を援用し、甲第六号証は不知、同第一〇号証の一、二は登記官署作成の部分の成立は認めるが、その余は不知、その余の右甲号各証の成立は認めると述べ、

た外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

よつて、両事件について併せて審究する。

原告は本件土地を被告から代金二〇万円で買受けたと主張するに対し、被告は右土地は被告が原告から借受けた金二〇万円の担保乃至売渡担保として提供したものであると抗争するのでまずこの点について考えるのに、成立に争のない甲第一号証と原審並びに当審証人田辺一子、同柿本万太郎、同松本常男、原審証人西田義一の各証言、原審並びに当審証人(第一、二回)菅生七太郎の証言の一部、原審(第一、二回)並びに当審における原告本人尋問の結果、原審(第一、二回)における被告本人尋問の結果の一部を綜合すると、被告の長男菅生七太郎は分家にあたる訴外菅生義男の債務整理のため被告所有の土地を他に売却してその資金を得ようと考え、原告を通じ福寿館こと西田義一に対し被告所有の福寿館の敷地の買取方を交渉したが、同人からこれを従来通り賃借している方が得策であるとして断わられたので、更に当時被告から材木置場として本件土地を含む奈良県字陀郡榛原町萩原元萩原二四四五番地の一土地三一〇坪を借受けていた原告に対し右材木置場の買取方を交渉したところ、原告においても右土地全部を買受けるだけの資金もなかつたので、そのうち西側即ち福寿館に隣接する土地一〇〇坪のみを代金二〇万円で買受けることになり、昭和二五年一二月二日被告から被告において右三一〇坪の残余二一〇坪が他に売却できないときは右土地のうち東側一〇〇坪(本件土地)を右西側一〇〇坪に代えて引渡す旨の約定のもとにこれを買受け、同日右代金を交付したが、その後被告において残余の土地二一〇坪を他に売却する必要がなくなり貸家を建てることになつたので、被告は昭和二七年春頃原告に対し右特約に基き右売買契約の目的物である西側一〇〇坪を本件土地と交換してもらいたい旨申出たので、その頃原告はこれに応じ右西側一〇〇坪を被告に返還すると共に本件土地の引渡を受け、爾来右土地を材木置場として使用してきたが、昭和二九年に至り他から山林を買受けその所有権移転登記手続をなすに当り、本件土地についても、その所有権移転登記に関する手続をなすべく、被告にその協力方を申出たが、地価が相当に昂謄していたため、被告は俄かにその態度をひよう変し、右土地は被告が前記菅生義男の債務整理のため原告から借受けた金二〇万円の担保として提供したにすぎないと主張し、或は被告所有の他の土地と交換してもらいたい旨申出て、右申出を拒否したことが認められ、右認定に反する証人菅生七太郎、同菅生義男、同高野隆雄、同浦野勝、被告本人の供述は前顕各証拠に照し措信し難いし、原審証人奥防利信、同浦野勝原審(第一回)並びに当審証人高野隆雄、原審(第二回)における被告本人は本件土地の右売買契約当時の時価は三、四千円乃至一万円である旨供述するが、右供述も亦当時の時価の真実を伝えるものとは考えられず、又当審証人菅生七太郎の証言によると、甲第一号証土地売渡書に押捺の印が被告の実印ではなく単なる認印であることが認められ、右売渡書自体も簡略なものではあるが、このことを以て直ちに右認定を左右することはできず、他に右認定を覆すに足る確証もない。そうすると、本件土地は金二〇万円の担保乃至売渡担保に供せられたものではなく、原告が被告からこれを買受けたものであるといわねばならない。

ところで、原告は本件土地は右売買当時非農地であつたと主張するに対し、被告は農地であつたと抗争するので考えるのに、原告はこの点につき被告の本件土地が農地であることを前提とする抗弁は時機に後れた攻撃防禦方法であるから却下せられるべきであると主張するが、右抗弁が故意又は重大な過失に因り時機に後れてなされたものとは到底認められないからこれを採用するに由ないところ、成立に争のない甲第四号証と原審証人奥防利信、同浦野勝、同稲森竹蔵、同西田義一、原審(第二回)並びに当審証人高野隆雄、当審(第一回)証人菅生七太郎、当審証人子守敬一郎の各証言、原審における被告本人尋問の結果(第二回)、原告本人尋問の結果(二回)の一部を綜合すると、右三一〇坪の土地はもと田として稲作されていたが、昭和五年頃近畿日本鉄道株式会社(当時参宮急行電鉄株式会社)により榛原町に鉄道が敷設されるに至つたため、かんがいの便が悪くなり、稲作が不向となつたので、被告においてはその後終戦までこれを畑地として自作し、終戦後は米穀供出の対象から除外されてはいたが、附近の人々にその一部を所謂家庭菜園として使用させると共に、自らもこれを耕作してきたところ、昭和二五年初頃榛原町の都市計画により右土地の南部に道路が開設されるに至つたので、被告はこれを他の用途に利用すべく、同年夏頃から右出地を不耕作のまま放置し、同年九月頃原告に右土地を材木置場として貸与し、前記売買契約の締結せられるまでは本件土地も材木置場として使用せられ、その後は一時休閑地又は不耕作地となつていたが、その後昭和二七年春頃前記の如く本件土地が西側一〇〇坪の土地と交換せられるに至つて以来再び材木置場として使用せられているものであるが、その間本件土地の地況には何等の変化も加えられず、従来のままであつて、これを耕作しようとすれば何時でも耕作しうる状態にあつたことが認められ、右認定に反する証人田辺一子、同柿本万太郎、同松本常男、原告本人の供述は前顕各証拠に照し措信し難いし、甲第三号証も右認定を左右するに足らず、他に右認定を覆すに足る確証はない。してみると、本件土地は不耕作地又は休閑地となるまでは田或は畑として引続き耕作せられていたもので、前記家庭菜園も宅地等を一時的に耕作の用に供する場合とはその趣を異にするから、それが家庭菜園と呼ばれる性質のものであるからといつて本件土地が農地であることを左右するものではないし、その後被告においてこれを他の用途に使用すベく、昭和二五年春頃から不耕作地にしてはいるが、農地か否かは所有者の主観的目的によることなく、その土地の客観的な事実状態に基いて「耕作の目的に供される土地」かどうかによつて判定すべきものであるから、たとえ被告において本件土地を農地以外のものに転用する目的があつても、本件土地について地上げをしたりしてその地況に変化を加えたものでもなく、正常な状態であれば耕作されている筈であり、耕作しようとすれば何時でも耕作しうる状態にあつたのであるから、その間僅か二ケ月間材木置場として使用せられても農地たる性質を左右するものではないし、又二ケ年間休閑地又は不耕作地として放置されていても、他に特段の事情のない限りこの事実を以て直ちに非農地となつたものとすることもできない。従つて前記売買契約当時は勿論本件土地が右売買の目的物となつた当時も、本件土地は依然農地であつたものといわねばならない。

しかして、原審における原告本人尋問の結果(第一、二回)と被告本人尋問の結果の一部を綜合すると、原告は前記西側一〇〇坪の土地乃至本件土地を材木置場に使用するため買受けたものであるが、右売買に際し当事者はこれらの土地が法律上農地に該当するか否かをせんさくせず、ただ漠然と荒地と考えて取引したものであることが認められ、右売買契約において当事者が所有権の移転及び使用目的変更について奈良県知事に許可申請手続をすることの明示の意思表示があつたことはこれを認めるべき何等の証拠もないけれども、前記認定事実と弁論の全趣旨を綜合すると、反証のない限り、前記売買契約の目的を達するために必要な場合には当事者双方が右許可申請手続をするについて協力する旨の暗黙の合意があつたものと認めるのを相当とするところ、この点に関する被告本人の供述は直ちに措信しえないし、原告本人の農地の地目変換、売買について知事の許可が必要であることは知らなかつた旨の供述(原審第二回)も、本件土地が非農地であり県知事の許可を必要としないものであることを強調する余りになされたものと解するに難くないから、これを以て右反証とすることはできない。

そうすると、右売買契約は結局所有権移転及び使用目的変更についての知事の許可を停止条件としてなされ有効に成立したものといわねばならない。

被告はこの点につき原告は農地三反歩以上の耕作者でないから本件土地の所有権を取得することは農地法第三条に違反し無効であると主張するので考えるのに、なるほど、農地調整法乃至農地法が自作地創設と農業生産力向上の見地から買手の資格を制限し、農地を買つた者が自ら耕作しない場合、三反歩以上耕作しない場合等には農地をそのままで売買することを禁じており、原告が製材業を営み、農地三反歩以上の耕作者でないことは当事者間に争のないところであるが、農地をそれ以外のものに転用する目的で売買することはそれが知事の許可を条件としてなされる限り有効であることは当時施行せられていた農地調整法第六条同施行規則第六条の趣旨に照し明らかであるから、右売買が転用を目的としてなされたものであるあること前記認定の如くである以上、右売買契約は有効に成立したものといわねばならない。

更に被告は本件土地を材木置場にするため奈良県知事に許可申請手続をしたとしても、該土地は榛原町の都市計画に基き住宅並びに商業地域に指定されているので、これが許可をうる見込がないから、本件売買契約は無効であると主張するが、たとえ本件土地が原告主張の如く住宅並びに商業地域に指定されているとしても、右土地を製材業を営む原告の材木置場に転用するという一事を以て直ちに右許可申請が不許可になるとも解せられないし、且つ右許可不許可は知事の専権に属するものであるから、その許否があるまでは右契約は有効というべく、被告の右抗弁は採用できない。

ところが、原審並びに当審(第一回)証人菅生七太郎、原審並びに当審証人田辺一子の各証言、原審(第一回)並びに当審における原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は昭和二七年五月頃被告において本件土地の西側の土地を宅地にするため地上げをしたため、本件土地が低地となつて、水が溜り、材木置場として使用することができなくなつたので、同年八月頃から本件土地の埋立工事に取りかかり、山土を以て約三尺の地上げをし同年一一月これを完成し、これを材木置場として使用してきたことが認められ、本件土地は右地上げにより畑としての農地は潰廃せられたものというべきであるが、右潰廃につき知事の許可を得ていないことは弁論の全趣旨により明らかなところ、当時施行の農地法によれば同法所定の制限に違反して農地を農地以外のものに転用してもそのため同法所定の刑罰が科せられるのは格別これを農地に復元すべきことを義務づけた規定もないのであるから、右潰廃が知事の許可を得ずになされたからといつてその現況を左右することはできず、右地上げ後は本件土地は知事の許可の有無に拘らずもはや農地でなくなつたものというべきである。ところで地方長官の許可を条件として農地の売買がなされた場合において、その後該農地が非農地に転化し最早地方長官の許可を要しなくなつた場合には此の時以後無条件の売買として完全にその効力を生じるものと解するのが相当であるから、本件土地についても前記認定の地上げ以後完全に売買の効力を生じ原告の所有に帰したものと認めるべきである。しかして右地上げは宅地を造成するためになされたものではなく、地上げ後も材木置場として使用せられている事実からみると、本件土地は右地上げにより雑種地となつたものと解するのが相当であり、成立に争のない甲第九、第一四号証によると、本件土地は昭和二九年一二月四日原告の代位により前記榛原町大字萩原元萩原二四四五番地の一田一反六畝一七歩内畦畔七歩から同所第二四四五番地の六田三畝一〇歩として分筆登記せられその後昭和三五年一月二二日原告の代位によりその地目が雑種地として変更登記せられていることが認められるところ、被告はこの点につき農地を農地以外のものに変更登記するには農地法第四条の知事の許可を得た上なさるべきであるところ、右変更登記は知事の許可を得ることなく、榛原町長の証明書のみによつてなされたものであるから無効であると主張するので考えるのに、土地台帳は従来土地の状況を明確に把握し、地租(府県税)の課税標準たる土地の賃貸価格の均衡適正を図るのが目的であつたが、その後土地台帳法が改正せられた結果、土地台帳は専ら土地の状況を明確にする地籍簿たる性質を有するに至つたところ、異動地の地籍決定については窮極において登記所の職権調査がなされ、その客観的状況の把握を以つてその目的とするものであるから、土地台帳においては該土地が知事の転用許可のもとに変換せられたか否かに関係なく、その客観的状況を登録すべきものであり、土地台帳と不動産登記簿とは同一事項に関する記載である限り常に一致すべきものとされてはいるが、不動産登記は土地(又は家屋)に関する権利関係を登記して公示するものであり、その不動産の表示は権利変動乃至権利関係の基礎となるべきものであるから、これを一致させることが統制法規等から権利変動乃至権利関係の基礎として不当と認められる場合には、右一致が要請せられるものとは解せられないし、農地法施行後は統制の実効を期するための農地調整法施行令第二条第三項の如き「権利ノ取得又ハ設定ノ登記ノ申請ヲ為スニハ其ノ申請書ニ都道府県知事ノ許可書又ハ市町村農業委員会ノ承認書ヲ添附スルコトヲ要ス」る旨の規定を欠くに至つたが、農地転用についての知事の許可書は不動産登記法第三五条第一項第四号の第三者の許可を証する書面に該当するものと解するのを相当とするから、弁論の全趣旨に徴し明らかな右許可書の添附なくしてなされた前記変更登記はその手続において瑕疵があるものというべきであるが、かかる瑕疵は右登記を無効ならしめるものではなく、又農地法第四条は前記の如く単なる取締法規にすぎず、知事の転用許可は登記の有効要件ではないから、被告の右主張は理由がなく、前記変更登記は有効といわねばならない。

そうすると、被告は原告に対し雑種地たる本件土地につき前記売買による所有権移転登記手続をなす義務があるものといわねばならない。

よつて、これと符合しない原判決を変更し、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉村正道 竹内貞次 大野千里)

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