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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)220号 決定 1958年7月01日

抗告人 加藤貞子(仮名)

相手方 大木哲郎(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人代理人は原審判を取消す、相手方の申立を却下する、申立費用は相手方の負担とする、との裁判を求め、その主張する申立理由は別紙の通りであり、これに対する当裁判所の判断は以下に述べる通りである。

原裁判所及び当裁判所における相手方、抗告人、証人等の各供述、本件記録添附の各証拠書類を綜合すると、事件本人は昭和三十二年四月二十五日禁治産宣告の裁判確定により後見が開始し、同日抗告人がその後見人として就職したこと、抗告人、相手方はともに事件本人及び申立外大木正作間の姉弟であるが、抗告人と事件本人とは元来あまり仲のいい方ではなく、事件本人が○○○精神病院に入院中にもかかわらず、ほとんど見舞にも行かず、事件本人の転出証明書、布団等も持つて行かず、又米も持参するといいながら持参もせず、僅かに毛布二枚と袷一枚位を持つて行つた程度で、あとは病院の方で事件本人の面倒を見てやらねばならぬような状態であり、事件本人の入院費の如きも、同人の資産状態や抗告人の営業、その日常生活等から考えて、やろうと思えば左して困難とも思われないのに、再三に亘る病院からの督促にもかかわらず、常にその支払を怠り勝ちで、既に十二万余円もの費用を滞らせたこともありそのため同病院も困惑の末退院の通知を出さねばならぬ程の思いであつたこと、又抗告人は肥料商の営業上の必要からか、しばしば外泊旅行をして毎月半月以上も家を留守にし勝ちであり、事件本人の世話もあまりよくできない事情にあることが認められる。そうすると抗告人には事件本人の後見人としての任務に適しない事由があるものといわねばならない。

又前顕各証拠によると、相手方は真面目で、抗告人よりも責任感が強く、又事件本人との仲も抗告人よりはよく、事件本人の世話も相手方の方が抗告人よりもよくするものと考えられ、抗告人の抗告理由中相手方が後見人として不適格であるとする事情は、相手方が洋服を作るため保有米を幾らか売つたと自認する点を除き、当裁判所の信用し難い抗告人の当裁判所での供述以外にこれを認めるに足る資料はない。

しからば、これと同じ理由によつて抗告人が事件本人の後見人であることを解任し、相手方をその後見人に選任した原審判は相当であり、また記録を調査しても、原審判には他にこれを取消さねばならないような何等の瑕疵もない。

従つて本件抗告はその理由がないものといわねばならない。

よつて家事審判法第七条、非訟事件手続法第二五条、第二六条、民事訴訟法第四一四条、第三八四条に従つて主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 藤城虎雄 裁判官 亀井左取 裁判官 坂口公男)

(別紙)

抗告理由

一、原審判は抗告人は後見人として不適格であるとしてこれを解任し、相手方を後見人として選任した。しかしながらこれは事実の認定を誤まつたものである。

二、本来先代加藤庄助の家督相続人は抗告人で昭和十八年八月○○日右庄助死亡により抗告人はこれが相続をなした。

しかるところ、相手方は当時から精神にやや異常のあつた事件本人をそそのかし抗告人に家督を譲ることを迫り、遂には抗告人を井戸に首を突込む等の暴行脅迫をなし、同年十一月○○日、家督を事件本人に譲り隠居せしめたもので、事件本人名義になつている財産は抗告人の所有に属するものであつた。

三、三年前には相手方は弟吾郎と共に抗告人をその本宅の土蔵に押込め首をしめる等の監禁暴行をしたが、ようやく逃げ出し○○警察署に保護を求め、事情を述べ保護を受けたことがある。

四、相手方は審判申立には恰かも事件本人と同一住所であるかの如く記載し、審判所にもその通り載せられているが、それは偽りで、相手方は本件本人が離婚になつて抗告人方に帰来した時同人について来て抗告人方の世話になつていただけのもので、前記警察事件が起つたとき、警察の説諭により仲直りをすることにし、○○に一緒に出て商売を始め爾来○○に居住しているもので、事件本人と同じところに住居を有しているということはない。これは本件審判を有利に導がための作為である。

五、抗告人は審判書に記載されているように不当に家をあけたようなことはない。肥料商をしている関係上出張は度々するが、無意味に家をあけているものではない。然るに原審判は何か抗告人が不身持であるかの如き言廻しをしているのは全く事実の曲解である。

六、申立人が事件本人の入院料を滞らせるに至つたのは、事業の不振と、今一つには相手方が売掛金を勝手に費消したり、甚だしきは自作米(昭和三十年度、同三十一年度分)約十余石を他に売却して費消してしまつた。

事件本人の転出証明を病院に持参しないというが、自作であるため保有米の関係から現米で持参していたのが前記の売却のため持つて行けなくなつたものである。

相手方は別に生業もなくぶらぶらしているもので、到底後見人として完全に職務の遂行ができるものとは思われない。

七、抗告人としては一刻も早く病院の払をしなければならないとは思つていたが、先祖代々のものであるから何とか不動産に手をつけたくないと思つて延びていたものであるが、早急に解決しようとしていた矢先後見人を解任されたため、それもできなくなつた。

これまでの入院費用は勿論申立人が全部支払つて来たものである。

いずれの点から見ても、抗告人の後見人であることを解任し、相手方を後見人に選任した原審判は不当である。

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