大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)297号 決定 1958年6月17日
抗告人 山田照夫(仮名)
主文
原審判を取消す。
本件を原裁判所に差戻す。
理由
抗告人の抗告の趣旨及びその理由の要旨は別紙の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。
記録を調査すると、筆頭者大原忠雄の戸籍謄本には、その姉として、父大原吾助、母山下コト間の庶子で明治三十六年五月○日生れの花子の記載があり、同人は抗告人と婚姻し夫の氏を称する旨昭和三十一年八月○○日○○市長宛届出をなし受理せられた旨の記載があることが認められるし、又他方筆頭者大原ハナの戸籍謄本及び大原吾助の除籍抄本によると、大原ハナは父大原吾助及び母(同人妻)マツ間の子として明治二十九年十一月○○日に出生したことも明かである。
そうすると大原ハナと大原花子とは父を同じくするが母を異にする姉妹の間柄である。
ところで抗告人は抗告の理由として、抗告人は昭和八年四月頃から大原ハナと内縁関係を結び昭和三十一年八月○○日正式に婚姻の届出をなしたものであるが、抗告人としては大原ハナには大原花子なる異母妹の居ることを知らなかつたのとまた大原ハナが抗告人と内縁関係を結んで以来ずつと自ら大原ハナコと称していたので、筆頭者大原忠雄の戸籍謄本に記載の大原花子が自己の配偶者である大原ハナと同一であると誤信し、婚姻届には、妻大原ハナと記載すべきを、右大原忠雄の戸籍謄本に基き、誤まつて大原花子と記載した婚姻届を作成し、これを受理せられたため、抗告人、大原ハナ、大原花子の各戸籍の関係部分の記載に抗告人主張のような錯誤が生じたことを、この度抗告人夫婦が養子縁組をする必要から詳しく調査した結果発見したので、戸籍法第一一三条第一一九条、家事審判法第九条に基き、これが訂正の許可を求める、というにあつて、記録添附の抗告人の婚姻届謄本によると、同届の妻の欄には抗告人主張通りの記載がなされていることを認めることができる。
以上の事実関係の下においては、抗告人の主張するような錯誤の生じうることは容易に考えうるところであり、もし証拠調の結果抗告人主張の事情に基く戸籍の錯誤が認められるにおいては、原裁判所としては、前記の法条に基きこれが訂正許可の審判をなすべき権限を有している訳であるから、右事実関係を理由として前示の許可審判を求める抗告人の本件申立は適法であるといわねばならない。
しかるに、これと異なる見解の下に、事案につき何等の審理をもすることなく、抗告人の本件申立を不適法として却下した原審判は失当で、本件抗告は理由があるから、家事審判規則第一九条第一項により主文の通り決定する。
(裁判長裁判官 藤城虎雄 裁判官 亀井左取 裁判官 坂口公男)
(別紙)
抗告の趣旨
原審判はこれを取消し、本件を神戸家庭裁判所竜野支部に差し戻す。との裁判を求める。
抗告の原因
(一) 申立人は事件本人大原ハナと昭和八年四月より内縁関係を結び昭和三一年八月○○日正式に結婚届をしたのでありますがハナは以前よりハナコと通称していたので申立人も又同人をハナコと呼んで居り従つて婚姻届を出すに当つて同人の弟大原忠雄の戸籍謄本に花子の記載あるところから同人の戸籍と誤信し誤つて花子との婚姻届を作成して提出受理された次第であります。
(二) この度養子縁組をする必要から詳しく戸籍を調べましたところ花子はハナの父吾助の外妾の子でハナは花子の顔を見たこともなく全く所在も知らぬ状態にある人をハナの本名と誤信して間違つた婚姻届をしたことが判明致したので戸籍訂正の許可を求めた次第であります。然るに神戸家庭裁判所竜野支部においては本件が戸籍法第一一三条に該当する事案であり従つて家事審判法第九条乙類一〇の(二)に該当するものであるに拘らず、訂正許可は当裁判所のなし得ないところなりとして一回の陳述も聞かずこれを却下される審判は抗告人において承服し得ないのでこの抗告をする次第であります。