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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)333号 決定 1958年3月31日

抗告人 松原幸一(仮名)

主文

原審判を取消す。

理由

抗告代理人の抗告の趣旨並に理由は別紙記載のとおりである。

職権を以て調査するに、原審は抗告人を相手方として松原千代子より申立てた大阪家庭裁判所堺支部昭和三二年(家)(イ)第四〇号離婚等調停申立事件について抗告人が昭和三二年六月二五日午前一〇時の期日に調停委員会から呼出を受けながら正当の事由なしに出頭しなかつたことを理由として、抗告人に過料金三千円の審判をなしたものであるが、記録によれば、抗告人に対する右調停期日の呼出は、調停委員会が郵便はがきによつてなしたことが明かである。

ところで家事審判法による調停事件(審判事件も同様)の期日に関しては、同法及び家事審判規則に特別の定がないから、同法第七条及び非訟事件手続法第一〇条により結局民事訴訟法が準用されることになり、従つて事件の当事者その他の利害関係人に対する期日の呼出は民事訴訟法第一五四条の準用により原則として呼出状を送達してなすことを要する。なお呼出状には同法第二七六条、第三四二条が準用されるから、不出頭に対する法律上の制裁を記載しなければならない。家事審判法第二七条にいう「呼出」とは、かかる適式の呼出を指しているのである。尤も家庭裁判所の実務上民事訴訟法第一五四条の方法以外の方法例えば郵便はがき、電話等によつて関係人を呼出すことが行われているとしてもそれは費用が安く呼出事務が簡易迅速化してしかも通常期日通知の目的を達しうるところから用いられるもので、あくまで便宜的な呼出方法に過ぎず、決して法の建前とする適式の呼出方法ではない。しかも上記の適式の呼出こそは家事審判法第二七条により期日不出頭に対する可罰的前提条件として必ず守られなければならず、裁判所や関係人の意向や態度によつてこれを排除することは許されない。家庭裁判所が調停期日に出頭しない関係人に過料の制裁を課すには、調停委員会が適式に期日の呼出をなした場合でなければならないのであつて、前記の便宜的な方法によつた呼出に対して、関係人が期日に出頭しない場合は、これに法律上の制裁を課しえない。この理は民事訴訟法第三五六条の二の規定に徴しても明かなところである。

従つて、本件においては前記調停期日につき調停委員会は抗告人に対し以上説示の適式の呼出をなさず、単に郵便はがきによる便宜的な呼出方法をとつたに止まるから、抗告人の右期日における不出頭は未だ可罰条件を充たしていないのに拘らず、原審がこれに過料の制裁を課したのは違法である。よつて、抗告代理人提出の抗告理由を判断するまでもなく原審判を取消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 神戸敬太郎 裁判官 木下忠良 裁判官 鈴木敏夫)

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