大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)80号 決定 1957年9月17日
抗告人 植村慶二(仮名)
相手方 植村すみ子(仮名)
主文
本件抗告はこれを棄却する。
理由
本件抗告の理由は別紙即時抗告申立書の通りである。
右抗告理由第一点事実誤認審理不尽の主張について。
原審が扶養義務存在の理由として認定した事実はその挙示の証拠によつて優にこれを認めるに足り、その間所論のような事実の誤認があるということはできない。そうして、本件扶養の義務は右認定の事実から法律上当然に導き出されるものであつて、所論の結婚生活継続不可能の事情乃至別居の合意の事実は、これを認めることができないのみならず、そもそもこれを以て右義務を阻却するに足らない。
同第二点扶養額算定の基礎に関する事実誤認の主張について。
抗告人は、毎月、抗告人と申立外小山富子との間の生活費として原審認定の二一、五〇〇円のほか、抗告人の昼食費九〇〇円、研究費及び書藉費三、〇〇〇円、実父に対する仕送金二、〇〇〇円、煙草及び交際費二、〇〇〇円を要し、その他衣服費家庭生活器具費を必要とし、余剰金としては僅かに二、〇〇〇円内外にすぎないと主張するけれども、原審及び当審における抗告人審問の結果を総合すれば抗告人の一ヶ月の支出は、概略同居の訴外小山富子に支給する分一四、〇〇〇円、間代四、〇〇〇円、ミルク代約三、〇〇〇円、雑費約五、〇〇〇円、実父えの仕送二、〇〇〇円、煙草代及び交際費約二、〇〇〇円(抗告人は当審において煙草代四、〇〇〇円、交際費三、〇〇〇円乃至四、〇〇〇円を支出する旨供述するけれども、この点は措信しがたいから抗告状において自ら主張する合計二、〇〇〇円の限度においてこれを認定する)総計約三〇、〇〇〇円であることが認められるけれども、他方その収入は、給料手取約四〇、〇〇〇円賞与年間二ヶ月分であつて、これを平均すれば一ヶ月の手取は約四六、六〇〇円となることが認められ、差引余剰額は一ヶ月平均約一六、六〇〇円に達することが明かであつて(抗告人は別に研究費として毎月二、〇〇〇円の支給を受けているが、これを全部書藉代、実験費等に当てていることが、その当審における供述によつて明かであるから、この分は差引計算より除外した)、他に余剰額が一ヶ月二、〇〇〇円内外にすぎないことを認むべき資料はない。(なお、相手方が抗告人の官舎に居住しているけれども、その官舎費は抗告人の給料から天引せられ、前記手取月収の内に含まれていないことも、抗告人の当審における供述によつて明かである。)しかのみならず、そもそも、扶養料額は扶養義務者の収入の現在の余剰額を限度とすべきものではないのであつて、婚姻当事者双方の収入、生活費資産その他諸般の事情を綜合的に較量して相当とする額を定むべきものであり前示諸般の事情に照すときは抗告人は相手方に対し昭和三一年一〇月より別居して結婚を継続する期間中扶養料として毎月金一〇、〇〇〇円を支払うべきを相当とし、これと同趣旨に出た原決定は相当でありその他職権をもつて審査するも原決定を取消すべき理由はない。したがつて本件抗告は理由なきものとして棄却を免れない。
よつて、主文のように決定をする。
(裁判長判事 沢栄三 判事 井関照夫 判事 坂口公男)
(別紙)
抗告の理由
一、原審判は抗告人と相手方との婚姻関係の破綻の原因はすべて抗告人のみにあるように認定してゐるが之れは事実誤認であるか審理不尽であると考える
抗告人と相手方すみ子とは平凡なる見合により早々の裡に結婚したものであるが相手方の性質は従順なるところがなく頑強且偏執的であつて結婚後日ならず抗告人とは性格的にも肉体的にも円満を欠き兎角風波が絶えなかつた上結婚後二、三年を経過しても子種がないので抗告人がその淋しさをかこつと相手方は抗告人に肉体的欠陥がある様に夫として聞くに堪えない侮辱を与えたるのみならず日常些細なことにも悉く感情の衝突を来し遂に抗告人としては相手方と到底結婚生活を継続して行くことは不可能となつたのである。申立外小山富子と抗告人が結ばれたのは抗告人が右の様な家庭的寂寥と絶望の事情があつたが故であつて抗告人の勝手気儘な浮気心から右の様な家庭的不和が生じたのではないし又相手方と別居したのは相手方も抗告人と精神的肉体的に融和していない事を納得の上合意により別居したものであつて相手方を遺棄した訳ではない抗告人としては相手方と婚姻を解消して右申立外者と同棲すべきであつたのであるが抗告人が再三誠意を尽して婚姻を解消しようとしてもその同意を得るに至らなかつたのである
本来夫婦間の同居又は扶助協力義務は両性の本質的平等の精神よりしても配偶者双方の真実な愛情生活を基盤として相依り相扶けるべき筋合のものであつて単に男性の故を以て夫のみに苛酷な義務を負担せしめる筋合のものではないと考える。
原審判は右事実を全く没却し抗告人のみに本件婚姻の破綻の責任がある様に誤解してゐるのは事実誤認であるか又は審理不尽の違法があると考える
二、原審判は扶養料の額の算定基礎を誤認してゐる
原審判は抗告人と右申立外富子との生活費は毎月金弐万壱千五百円也であつて抗告人には金壱万四千五百円也の余剰金があると算定してゐるが之れは全く事実を誤認してゐる。抗告人の一ヶ月の必要生活経費は原審認定の金弐万壱千五百円也の外抗告人の昼食費約九百円也、医師として必要なる研究費書藉代約参千円也(抗告人は毎週大学研究室に於て研究中)実父生活仕送金弐千円也の外煙草及交際費として約弐千円也合計金弐万九千四百円也であつて之れが一ヶ月の最低必要経費であるのみならずこの外に父母子三人の日常衣服費、家庭生活器具費を必要とするので余剰金としては僅か、弍千円内外に過ぎないのである抗告人は現在○○病院○○分室長の地位にあり乍ら止む得ざる結果と言え六畳一間の不自由な二階借生活を続けその地位に必要なる生活も出来ない状態にあるに反し相手方すみ子は抗告人に与えられたる官舎を一人で占有し洋裁に習熟し乍ら何等積極的に生活費を求める努力をなさず無為に日々を過してゐるのである
原審判は右の様な事実を看過し前記の様に扶養料の額の算定の基礎を誤認してゐるのである
叙上の二点により本抗告に及びし次第である