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大阪高等裁判所 昭和33年(う)1012号 判決 1958年11月18日

控訴人 田川文則

弁護人 奥田忠策

検察官 門司恵行

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役弐年六月に処する。

原審の未決勾留日数中参拾日を本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人及び弁護人奥田忠策の提出に係る控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点(事実誤認及び擬律錯誤の主張)について、

よつて所論に鑑み、本件記録を精査し原判示第一事実を按ずるに、刑法第二三六条に所謂強盗の罪は暴行又は脅迫の手段を以つて他人の財物を強取することにより成立するものであるから、たとえ犯人において犯行に先だち暴行又は脅迫の手段を以つて他人の財物を強取するの意図があつたとしても、犯行に際しては、現実に暴行又は脅迫の手段を加えないで、他人の財物を単に窃取したに止まる場合には窃盗罪を構成するのみで強盗罪は未だその着手があつたものとは認められないし、又所謂居直り強盗即ち犯人が財物を窃取した後引続き犯行の現場において強盗の犯意を以つて同一被害者に対し暴行又は脅迫の手段を講じて更に財物を強取しようとしたが、遂げられなかつた場合には、窃盗の既遂罪と強盗の未遂罪とを包括的に観察し、単に重い強盗の未遂罪のみによつて処断すべきである。(大正三年二月三日大審院刑事聯合部判決刑録二〇輯一〇一頁参照)かかる場合に犯人の動機、目的、窃盗の既遂行為、引続く暴行又は脅迫の手段に因る強盗の未遂行為等一連の行為態様を包括的に観察し、強いて強盗既遂の一罪を認めようとする見解(広島高等裁判所松江支部昭和三二年五月二七日判決、高等裁判所判決特報第四巻第一〇号二六三頁参照)は当裁判所の採らないところである。

何となれば、先きの窃盗行為には未だ暴行又は脅迫の手段を用いていないし、又後の強盗行為によつては未だ他人の財物を強取してはいない。後の暴行又は脅迫行為が窃盗の時期に遡つてあつたものとし、先きの窃盗の既遂を以つて後の強盗の未遂をその既遂に擬制するが如きは理論上到底許されないことであるからである。

今本件につきこれを観るに、原判示第一の事実は、被告人は金品を窃取する目的で、その際場合によつてはその家人を威して金品を奪い又は逮捕を免れるために使うべく当時宿泊していた高校時代の友人鹿児島県名瀬市小湊の富勝則方から持ち出した菜切庖丁一挺を携えて、昭和三二年五月二七日午前四時過ぎ頃同名瀬市久里町一班食糧品販売業内田ウシノ(当時六三才)方に入り、現金約四五〇円及びたばこ二〇個位を盗み、更に右内田ウシノを威して現金を出させる目的で蚊帳の中に上半身を差し入れてその中に寝ていた同女に対し所持していた携帯電燈を照らし、前示庖丁を突き附けて「金を出せ」と言い、同女と一緒に寝ていた中江広子(当時一六才)河俣好男(当時一六才)のうち中江広子が逃げ出るや「騒ぐと殺すぞ」と言つてウシノを脅迫したが、続いて他の二人も逃げ出したので、被告人は前示金品を取つただけで同家から逃げたというにあるから、該事実は窃盗罪の既遂と強盗罪の未遂とを包括的に観察し重い強盗罪の未遂を以つて処断すべきであるにも拘らず、原審がこの措置に出ないで、敢て強盗罪の既遂を以つて処断したのは、事実の誤認による法律の適用を誤つた違法があり、該違法は明らかに原判決に影響を及ぼすものであるから、所論は結局理由あるに帰し、原判決はこの点において破棄を免れない。

よつて被告人及び弁護人の爾余の量刑不当の各論旨に対する判断を省略し、原判決を破棄することとし、刑事訴訟法第四〇〇条但書の規定に従い次のとおり判決する。

原判決挙示の各証拠により原判示各事実を認め、これを法律に照すと原判示第一の所為は前段論述のように窃盗と強盗未遂を包括して、重い刑法第二三六条第一項第二四三条によつて処断すべく、強盗の点は未遂であるから、同法第四三条本文第六八条第三号に則り法律上の減軽を施し(但し減軽した刑の長期は強盗未遂罪に包括せられる窃盗罪については減軽事由がないのであるから、重い強盗罪について減軽するとしても、窃盗罪の長期懲役一〇年を下ることを得ないものと解する。このことは重い強盗未遂が中止犯に係り、その刑が免除せられる場合においても軽い窃盗罪について処罰されることから当然推理されるところである。)原判示第二の所為は各刑法第二三五条に該当し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条を適用し重い原判示第一の罪の刑に法定の加重を施した刑期範囲内において被告人に対し主文の刑を量定し、なお原審における未決勾留日数中三〇日を刑法第二一条に則り右本刑に算入することとする。

よつて刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第一八一条第一項但書に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 児島謙二 裁判官 畠山成伸 裁判官 本間末吉)

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