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大阪高等裁判所 昭和33年(う)1107号 判決 1958年12月09日

控訴人 被告人 中島善造

弁護人 梅林明

検察官 門司恵行

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役弐年に処する。

訴訟費用中原審証人(中略)当審国選弁護人吉田朝彦に支給した分は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告人の弁護人梅林明の提出に係る控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

弁護人の控訴趣意第二点について、

所論は原判決が被告人に対して認定した昭和三二年八月二〇日夜の○○○○に対する強姦未遂事件については、採証の原則に反する証拠に基かない事実の認定と云うべき、破棄を免れない重大なる事実の誤認がある。証拠を精査すれば、予断をしない限り、原審判決が認定した事実を断定する証拠は存しないと主張する。

よつて按ずるに、

刑法第一七七条前段に所謂十三歳以上の婦女に対する強姦罪は犯人自ら(責任無能力者を道具として利用する場合を含む)又は他の共犯者が加えた暴行又は脅迫の手段により、婦女の反抗を著しく困難ならしめて、姦淫する場合に成立するものである。

而してその暴行又は脅迫の手段は、必ずしも強姦の手段として行つたものであることを必要とするものではなく、たとえば、犯人自ら又は他の共犯者が強盗の手段として暴行又は脅迫を加えたため婦女が畏怖しているに乗じ姦淫を遂げるが如き場合には、姦淫に際し改めて暴行又は脅迫を加えなくとも、曩に犯人又は他の共犯者が強盗の手段として加えた暴行又は脅迫を利用する場合にも、等しく強姦罪を構成する。

然しながら、犯人自ら、又は他の共犯者が暴行又は脅迫を加えることなく、他の第三者が強姦又はその他の犯罪の手段として加えた暴行又は脅迫の行為を単に利用して、他人の犯罪の実行に際し、又はその終了後において、姦淫を遂げることが如き場合には、刑法第一七八条即ち婦女の抗拒不能に乗じ姦淫した罪に該当する場合は格別、刑法第一七七条前段の強姦罪は構成しないものと解すべきである。

思うに犯人自ら暴行又は脅迫を加える行為と、他人の加えた暴行又は脅迫を単に利用する行為とは、刑法上「犯罪行為」の評価を異にするものと謂わなければならない。即ち、単なる利用行為は暴行又は脅迫行為に当らないのである。原因、結果という自然界の因果関係を論ずるときは、両者はこれを同一視することも、あながち不可能ではないし、誤りでもない。然し刑事責任負荷の対象たる刑法の構成要件該当の犯罪行為を解釈し、刑法上意義ある因果関係を論ずるときは、両者は本質的に完く異なるものである。若しそうでなく、両者の刑法上の犯罪行為の評価においても、同一であるとすると、たとえば、刑法第二三九条の人を昏酔せしめて、その財物を盗取する場合において、盗取の手段として自ら人を昏酔せしめないで、単に人の昏酔を利用してその財物を盗取するが如き場合にも、昏酔強盗罪を構成することになり、又たとえば、犯人が貨幣等を収得した後その偽造等の事情を知りながらこれを利用して行使した場合には、刑法第一五二条の犯罪を構成するのみでなく、刑法第一四八条第二項或は第一四九条第二項の行使罪が成立することになるのである。この解釈が現行刑法において到底許されないことは、以上の設例の場合は勿論、その他刑法の各条章に照し疑を容れないところである。

今本件について、これを観るに、原判決第二事実によれば、被告人は昭和三二年八月二〇日夜友人横田明男他女友達一名と共に京都市伏見区深草石峯寺山町七面山頂上附近で夕涼み中、その附近の南側斜面の叢中等で渡辺健二、林繁通称ちく、山本光利、富田健司等が○○○○(当時一七年)外一名に暴行を加えて輪姦しているのを察知したので、その暴行を利用して同女を姦淫しようと考え、同日午後一〇時頃南側斜面の叢中へ赴き、同所で通称ちく等の暴行により既に反抗を抑圧せられて仰向けに倒れている○○○○の上に乗り、強いて姦淫しようとしたが、同女がしくしく泣いていたので同情して姦淫することを断念し、その目的を遂げなかつた、というにあるから、原判決挙示の各証拠を精査検討の上右事実を按ずるに、被告人が○○○○を姦淫しようとした時には、何等の暴行を加えていないことが明らかであり、単に右林繁通称ちく等の加えた暴行行為により、○○○○が抗拒不能の状態にあるのに乗じて同女の上に乗り姦淫しようとしたことが認められる。而して前段来説明の如く、被告人において、右ちく等の輪姦のため加えた暴行行為を利用する意思があつたとしても右ちく等とは共犯の関係がありとは証拠上認め難く、自らは何等の暴行をも加えていないのであるから、刑法第一七七条前段の強姦罪を構成するに由ないが、被告人は右○○○○の抗拒不能に乗じ姦淫しようとしたものに外ならないから、正しく刑法第一七八条第一七七条前段(刑法第一七七条前段は処断刑の関係においてのみ適用せられる。以下同じ)の準強姦の犯罪を構成するものと謂わなければならない。

然るに原審は右の如き事実を認定し、刑法第一七七条前段を適用し、刑法第一七八条第一七七条前段を適用しなかつたのは、弁護人所論の如く事実の誤認を犯し、法律の適用を誤つた違法があるから、所論は結局理由あるに帰する。

而して本件については、検察官から刑法第一七八条の準強姦事実を訴因として起訴があつたのであるから、当裁判所が右の如く認定することは、訴因変更の問題を生じない。

よつて同弁護人の量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し原判決を破棄することとし、刑事訴訟法第三九七条第四〇〇条但書の規定に従い次のとおり判決する。

一、罪となるべき事実

被告人は

第一、昭和三二年八月一五日夜京都市伏見区砂川小学校で盆踊りを見ていた際友人林繁通称しげるちやん、渡辺健二その他顔見知りの林繁通称ちく、布施淳二、武邦夫、辻井一郎、山本光利、石田国征と共謀の上同じく盆踊りを見に来ていた□□□□□(当時一七年)及び△△△△(同年)を同区深草石峯寺山町七面山へ連れて行つて口説き同女等がそれに応じないなら強いて輪姦しようとたくらみ、通称ちく及び渡辺健二が甘言を以て同女等を誘い七面山頂墓園下の石段へ連れて行き、被告人は□□□□□を、通称しげるちやんは△△△△をそれぞれ同山頂へ連れて上つた。被告人は同山頂墓地の東側で□□□□□を口説こうとしたが同女は被告人の傍に坐ることさえ肯じなかつた。そこで通称ちくが同女の傍へ行き矢庭に同女の首に手を掛けて仰向に倒し被告人は同女の肩や手足を抑えつけ同女が悲鳴をあげて救を求めると棒切れ様の物を同女の頭髪に当て声を出したら髪を切るぞと怒鳴つて脅し通称ちくも平手で同女の頬を数回殴打して同女の反抗を抑圧し先ず通称ちくが同女の上に乗りズロースを脱がせ将に姦淫しよろとした際被告人は替れと言つて同人を退け同女の上に乗つて強いて姦淫した。その時墓園下石段附近で待機していた武邦夫、山本光利、辻井一郎、布施淳二、石田国征の五名は□□□□□の悲鳴を聞いてその現場へ馳けつけたが姦淫中の被告人が彼方へ行つてくれと言つたので約二〇メートル東(奥)方へ避けたところ△△△△が通称しげるちやんの要求を拒んで東方から戻つて来たのを見て共同して同女を押し倒し口や手足を押え或は平手で頬を殴りズロースを脱がせ被告人も加勢して同女の顔面を殴つて暴行を加え辻井一郎、山本光利等が同女の上に乗り姦淫しようとしたが同女が尚烈しく抵抗し大声を出して救を求めたので附近の崖下に山寺もあり事の発覚することを恐れて暴行を止め姦淫の目的を遂げなかつた。

その間渡辺健二は前記墓園下石段附近で待機中頂上から肖然として降りて来た□□□□□の左手を引張つて約一五メートル北方の柿の木の点在する叢中へ連れて行き既に前記暴行により反抗を抑圧されている同女の肩に手を掛けて再び仰向けに押し倒し同女のズロースを説がせ同女が止めてくれと哀願するのを顧ずに強いて姦淫し引続き山本光利、辻井一郎、石田国征が同女を強いて姦淫した後被告人も同所に来合せ先に射精しなかつたので再び同女の上に乗り強いて姦淫しようとしたが同女が後日その要求に応ずるから今日は勘弁してくれと哀願したので断念し姦淫するに至らず

第二、同月二〇日夜友人横田明男他女友達一名と共に前記七面山頂上附近で夕涼み中、その附近の南側斜面の叢中で、渡辺健二、林繁通称ちく、山本光利、富田健司等が○○○○(当時一七年)外一名に暴行を加えて輪姦しているのを察知し、その暴行を利用して同女を姦淫しようと考え、同日午後一〇時頃、南側斜面の叢中に赴き同所で通称ちく等の暴行によつて既に反抗を抑圧せられて仰向けに倒れて抗拒不能の状態になつているのに乗じて○○○○の上に乗り姦淫しようとしたが、同女がしくしく泣いていたので同情して姦淫することを断念しその目的を遂げなかつた

ものである。

一、証拠の標目

原判決挙示の各証拠を総て引用する。

一、法律の適用

判示第一の所為は何れも刑法第六〇条第一七七条前段(強姦未遂に付いては尚同法第一七九条適用)に、同第二の所為は同法第一七九条第一七八条第一七七条前段に各該当するが、第二の所為は中止未遂であるから、同法第四三条但書第六八条第三号によりその刑を減軽し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条によつて最も重い第一の柳森に対する強姦既遂罪の刑に従い併合罪の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役二年に処し、主文第三項掲記の原審及当審における訴訟費用は全部刑事訴訟法第一八一条第一項本文によつて被告人に負担せしめることとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 児島謙二 裁判官 畠山成伸 裁判官 本間末吉)

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