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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)1510号 判決 1960年4月14日

控訴人(附帯被控訴人) 中務秀夫

被控訴人(附帯控訴人) 檜山崎証券株式会社

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)は、控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)に対し尼崎製鉄株式会社株式一千株分の株券及び大阪瓦斯株式会社株式六千株分の株券の引渡をせよ。

もし右株券の引渡について強制執行が効を奏しないときは、その限度において、被控訴人は、控訴人に対し、尼崎製鉄株式会社株式については一株につき金四九円、大阪瓦斯株式会社株式については一株につき金七一円の割合による金員の支払をせよ。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、附帯控訴費用をも含めて、被控訴人の負担とする。

この判決の主文第二、第三項は、控訴人が金一五万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、昭和三三年(ネ)第七七八号事件について、「主文第一、二項同旨及びもし右第二項の株券の引渡について強制執行ができないときは、被控訴人は、控訴人に対し前者の株式一株につき金四九円、後者の株式一株につき金八〇円の各割合による合計金五二万九、〇〇〇円の支払をせよ。なお、予備的の請求として、もし以上の請求が理由がないときは、被控訴人は控訴人に対し尼崎製鉄株式会社株式一千株分の株券及び大阪瓦斯株式会社株式二千株分の株券の引渡をせよ。もし右株券の引渡について強制執行ができないときは、被控訴人は、控訴人に対し、尼崎製鉄株式会社株式については一株につき金四八円、大阪瓦斯株式会社株式については一株につき金八〇円の割合による金員の支払をせよ。被控訴人は、控訴人に対し金一六万円及びこれに対する昭和三三年一一月一八日付訴変更の申立書の送達の翌日から右金員支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、昭和三三年(ネ)第一五一〇号事件について「被控訴人の本件附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は、昭和三三年(ネ)第七七八号事件について、「控訴人の本件控訴を棄却する。控訴人の予備的請求を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、昭和三三年(ネ)第一五一〇号事件について、附帯控訴として、「原判決中被控訴人の敗訴の部分を取り消す。控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、後記のとおり附加するほか、原判決の事実らんに記載されたところと同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人の主張)

一  控訴人が被控訴会社社員檜山忠三郎を通じて、昭和二八年三月三〇日尼崎製鉄株式会社株式一千株分の株券、同日大阪瓦斯株式会社株式一千株分の株券、同年六月一九日頃大阪瓦斯株式会社株式一千株分の株券につき被控訴会社とのあいだに返還期の定めなく消費寄託契約を締結し、右の各株券の引渡を了したことは、従来主張のとおりであるが、控訴人は、右契約存続中なる昭和三〇年三月三一日右檜山忠三郎を通じて、被控訴会社に対し、寄託にかかる前記大阪瓦斯株式会社の株式二千株に割り当てられるべきいわゆる増資新株式二千株に対する払込金として、金八万円を交付し、さらに昭和三一年一一月一五日右と同様の趣旨において、四千株に対する半額増資の新株式二千株の払込金として、檜山を通じ被控訴会社に金八万円を交付した。控訴人と被控訴会社とのあいだの、この金員授受にともなう約定の趣旨は、被控訴会社において、増資新株式に対する払込手続をなしたうえ、控訴人のため、あらたに、大阪瓦斯株式会社の株式各二千株分の株券を保管し、控訴人の請求ありしだい当該銘柄の右株数の株券を引き渡すべしという株券の消費寄託にほかならない。右約定に際して交付された金銭も、寄託の目的物たる株券も、ともに代替性を有するものであり、被控訴会社は、株券その他の有価証券の売買その他の取引を業とする証券業者であるから、株券の対価たる金員の授受により、株券そのものの授受があつたものとみることができ、消費寄託の成立に必要な要物性の要件をみたすものというべきである。

二  仮に、右の主張が理由がないとしても、元来、控訴人と被控訴会社との当初の株券消費寄託契約においては、これらの株券の株式に対し株式発行会社から配当金の交付があれば、これを受寄者たる被控訴会社から寄託者たる控訴人に支払うべく、また、新株の発行に際し右株式につき新株式の割当があつたときは、寄託者たる控訴人から受寄者たる被控訴会社に対し、新株引受のため必要な払込金を提供することを条件として、被控訴会社は、右株数の株式に割り当てられるべき株数の株券を控訴人のためさらに保管し、その請求ありしだいこれに引き渡すべき義務を負う旨の約定がふくまれていた。そして、控訴人は、前述のとおり、被控訴会社に対し、新株引受のため必要な払込金を提供したのであるから、控訴人は、右約定にもとづいて、控訴人が当初被控訴会社に寄託した株券による株式の株数(昭和三一年一一月の増資の場合については、以下にのべるところにより、昭和三〇年三月の増資の結果、被控訴会社において控訴人ため保管することとなつた分の株券の株数をもふくめて)に対し割り当てられるべき株数の新株の株券の引渡を求めるものである。

三  仮に、右の主張が理由がないとしても、株券の消費寄託契約に右二にのべたような法律効果がともなうことは、証券業界における商慣習であり、控訴人も被控訴会社もこの慣習に従う意思をもつて契約したのであるから、これにより控訴人主張の株券の引渡を請求することができる。

四  以上の主張がすべて理由がないとしても、控訴人は、前述のとおり、新株引受の払込金にあてるため、昭和三一年三月三一日および昭和三一年一一月一五日の二回に、被控訴会社の社員檜山忠三郎を通じ、被控訴会社に合計金一六万円を交付したが、被控訴会社は右新株引受をしないで、控訴人は、昭和三三年一一月一八日付訴の変更申立書をもつて、該消費寄契約を解除し、予備的請求のとおり、右金員およびこれに対する右申立書送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める。

五  仮に、右主張が理由がないとしても、被控訴会社の社員檜山忠三郎は、控訴人に対し、大阪瓦斯株式会社の増資新株の払込金にあてる意思がないにもかかわらず、これにあてるように詐つて、前述のとおり控訴人から二回に計一六万円を交付させて騙取したもので、檜山の右行為は、有価証券の売買その他の取引を業とする被控訴会社の業務の執行につきされたものであり、控訴人は、これにより右金額の損害をうけたものであるから、被控訴会社は、民法七一五条一項の規定により、控訴人に対して、その賠償の責に任じなければならない。

六  (被控訴人の主張に対して)控訴人は、被控訴会社から、当初に寄託した尼崎製鉄株式会社株式一千株分の株券および大阪瓦斯株式会社株式二千株分の株券の返還をうけたことはない。控訴人が被控訴会社に右株券を寄託するに際し、檜山忠三郎を通じてしたことは、前述のとおりであり、控訴人が右株券を自己の名義に書き換えることなく被控訴会社の名義として寄託したこと、右株式の配当金は常に檜山忠三郎を通じて受け取つていたことは、争わない、しかし、檜山忠三郎は、当時被控訴会社の取締役兼外務員であつたのであるから、被控訴会社の代理人、または使者として行動していたものであり、控訴人において、持株の保管、売却ないし新しい株式の買付等につき同人に代理権を与えたこともなく、また代理権を与えた旨を表示したこともない。被控訴会社は、控訴人が寄託した株券を控訴人の代理人たる檜山忠三郎に返還したというが、控訴人が同人に代理権を与えていないことは、右のとおりであり、また、被控訴会社において同人に控訴人の代理権ありと信ずべき正当の理由を有しないことは、被控訴会社が右株券の返還に際し、同人から、所定の預り証を徴していない一事によつても明らかである。

(被控訴代理人の主張)

一  控訴人が尼山忠三郎に金一六万円を交付したのは、同人に詐取されたものであり、かつ、同人は、みずからこれを着服して被控訴会社に入金していないから、控訴人の主張するように、控訴人と被控訴会社とのあいだに金銭の授受があつたものとみることはできない。従つて、被控訴会社において、それによりなんらかの義務を負ういわれはない。

二  仮に、控訴人が右金員を檜山忠三郎に交付したことにより被控訴会社に交付した効果が生ずるとしても、被控訴会社がさきに控訴人から寄託をうけた大阪瓦斯株式会社の株式二千株分の株券は、当時すでに檜山を通じて控訴人に返還し、同人の手により他に売却されていたのであつて、新株割当の基本となる株式の株券が存しなかつたのであるから、控訴人の主張するような契約が成立するはずはない。控訴人は、当初の株券寄託契約じたいに、条件つきで、受寄者たる被控訴会社において保管中の株券の株式に割り当てられるべき株数の株券を寄託者たる控訴人のためにさらに保管すべき義務を負う旨の約旨がふくまれているというが、増資に際し株主が割当に応じて新株の引受をするかどうかは、もとより株主の自由であるから、あらかじめそのような約定が成立するはずがない、またそのような商慣習も存しない。

三  さらに、控訴人は、檜山忠三郎の違法行為にもとづき被控訴会社に使用者としての賠償責任がある旨主張する。しかし、控訴人は、当初右檜山忠三郎の勧めにより、被控訴会社において、本件株式の買付をし、かつ、この株券を同人を通じて被控訴会社に寄託したものであり、右株券を控訴人の名義に書き換えることなく被控訴会社の名義として寄託していたこと、配当金の請求、受領等すべて右檜山を通じてしていたこと等の点からしても、檜山は、控訴人から、その持株の保管、売却あるいはあらたな株式の買付等を一任されていた代理人というべきである。従つて、檜山の背信行為により控訴人がその主張するような損害をこうむつたとしても、それは、控訴人と檜山とのあいだの関係であつて、被控訴会社にその責任を転嫁することはできない。

四  右のように、檜山忠三郎は、控訴人の代理人であるから、控訴人が被控訴会社に当初寄託した尼崎製鉄株式会社株式一千株分の株券および大阪瓦斯株式会社株式二千株分の株券についても、被控訴会社としては、既に控訴人に返還ずみということになる。すなわち、これらの株券は檜山の申出により、同人が野田という架空人の名義でしていた信用取引の代用証券として差し入れられたものであるが、檜山が控訴人の代理人である以上、被控訴会社としてこの申出に応ずるのは当然であり、この場合右株券を控訴人に返還するわけではないから、預り証の返還を受けることなく差替の処置をとるのであつて、これにより右株券は、控訴人に対し有効に返還されたことになるわけである。従つて、控訴人の請求は、すべて理由がない。

(証拠関係)

控訴代理人は、証人檜山忠三郎の証言および控訴人本人の尋問の結果を援用し、被控訴代理人は、証人岡田精の証言を援用し、甲第三、第四号証の印影部分も否認すると述べた。

理由

一  控訴人は、昭和二八年三月三〇日尼崎製鉄株式会社株式一千株分の株券(以下「(一)の株券」という。)および大阪瓦斯株式会社株式一千株分の株券(以下「(二)の株券」という。)、同年六月一九日頃大阪瓦斯株式会社株式一千株分の株券(以下「(三)の株券という。)につき、それぞれ被控訴会社の社員檜山忠三郎を通じて、被控訴会社とのあいだに返還時期の定めなく消費寄託契約(この契約の性質については後にのべる)を締結し、右の各株券の引渡を了した。このことは、当事者間に争がない。

二  右一の事実と、成立に争のない甲第一、二号証と原審および当審における証人檜山忠三郎ならびに同岡田精の各証言、控訴人本人の尋問の結果を綜合すると、つぎの(一)の事実を認めることができる。

(一)  訴外檜山忠三郎は、被控訴会社の代表取締役檜山正三郎の実弟であつて、昭和一九年五月被控訴会社の専務取締役となり、ついで、昭和二五年一〇月その地位を退いて取締役となるとともに、同会社の外務員として有価証券の募集、売買等の勧誘に従事し、昭和三二年七月一五日退社したものであるが、控訴人は、檜山忠三郎と旧制中学の同窓生であつた関係から知合いとなり、昭和二八年三月、同人の勧誘を受けて、被控訴会社の媒介により前記(一)および(二)の株券を買い受けた。その際、控訴人は、檜山のすすめにより、右株券を自己の名義に書き換えることなく、直接被控訴会社の名義に書き換えるよう委託したうえ、これを前記認定のとおり、被控訴会社に寄託し、同会社から預り証(甲第一号証)を受け取つた。その後、昭和二八年六月大阪瓦斯株式会社の増資があり、旧株式一株につき一株の新株の割当があつたので、控訴人は、同月一九日頃、割当にかかる同社新株一千株分についての払込金五万円を被控訴会社に交付し、右株式の株券(前記(三)の株券)をも前記認定のとおり被控訴会社に寄託した。

(二)  そこで、右株券寄託契約の性質および内容について考えてみるに、この契約は、証券業者の顧客たる控訴人が証券業者たる被控訴会社に対し、自己の株券を会社の名義としたうえ寄託した契約であつて、いわゆる名義貸契約として、かつて証券界の一部に行われていた契約の類型に属するものであるが、一般にこの種の契約の趣旨とするところは、顧客が株主たることにともなう経済上の利益(配当金、増資新株の取得等)を完全に享受する反面、これにともなう経済上の負担(所得税等の賦課)、ないし事実上の手数(株券の保管、新株引受の手続等)をできるかぎり免れようとし、これに対して、証券会社は有価証券の売買その他の取引を業とする立場から、顧客の右要望に応じこれに対する一種のサービスを提供するものであつて、受寄者たる証券会社と寄託者たる顧客とのあいだにおいては、経済的に寄託者たる顧客を寄託株券による株式の株主として取り扱うところにあるものと解せられる。そして、右契約の趣旨と株券が一般に代替性を有する有価証券であることとをあわせ考えると、受寄者たる証券会社は、寄託を受けた特定の株券そのものを保管すべき義務を負うことなく、寄託者たる顧客の請求ありしだい、受け取つた株券と同銘柄、同株数の株券を返還すべき義務を負うにすぎないものであつて、その点において、民法上の消費寄託に類する性質を有するものと認めるのを相当とする。ただ、寄託の目的が株券という有価証券であることと、前記の契約の趣旨に徴し、若干の点につき、特別の内容の合意が付随的に存するものといわなければならない。その第一は、配当の関係であつて受寄者たる証券会社は、寄託者たる顧客に対し、当該株券の株式の配当期ごとに、その期の配当金(から所定の手数料を差しひいた金額)を支払わなければならない。(そのため、通常は、証券会社が顧客に代つて、株券発行会社から配当金を受け取ることとなろう。)。第二は、新株割当の関係であつて、当該株券発行会社の増資に際して旧株主に対し新株の割当があつた場合において、寄託者たる顧客が新株引受のために必要な払込金(請求があつた場合は、これに所定の手数料を加えた金員)を受寄者たる証券会社に交付したときは、証券会社は、直接増資払込手続をすると否とにかかわりなく、新株の株券発行の時から、右割当のあつた株数の株券につき、当初の約定と同意の趣旨において、その寄託の責に任ずるものというべきである。

本件についてみるに、この冒頭に挙示した各証拠を綜合すると控訴人と被控訴会社とのあいだにおける当初の株券消費寄託契約は、以上のような性質、内容を有する契約と解せられる。そのことは、前認定のとおり、昭和二八年六月における大阪瓦斯株式会社の増資に際し、控訴人は、被控訴会社に対し、たんに新株払込金を交付したにすぎないにもかかわらず、被控訴会社のがわにおいても、寄託の目的としてあらたに新株の株券が加わつたものと取りあつかつていることからも、右契約解釈の正当性がみとめられる。

三  被控訴会社は、前記(一)、(二)、(三)の株券については、すでに返還その他の処分により被控訴会社の返還債務が消滅していると主張するから、その点について判断する。

(一)  原審および当審における証人檜山忠三郎および同岡田精の証言を綜合すると、右檜山忠三郎は、被控訴会社に保管中の右株券をほしいままに自己の信用取引の証拠金に流用しようと企て、その処分等に関する控訴人の委託がないにもかかわらず、前記(一)の株券に該当すべきものとして、尼崎製鉄株式会社一千株分の株券を、控訴人の所持する「領り証」の返還または控訴人の受取証の交付その他の手続によることなく、係から受け出して処分し、ついで、昭和三〇年にいたり、同様に、前記(二)および(三)の株券に該当するものとして、大阪瓦斯株式会社の株式二千株分の株券を受け出したうえ、自己が野田という架空人の名義でしていた信用取引における保証金の代用証券として預託したところ、右信用取引に損失を生じたため、その填補のために処分されたことを認めることができる。

しかし、右檜山が、控訴人の代理人として、または控訴人の委託をうけて、控訴人のために、被控訴会社から前記株券の返還をうけたことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  かえつて、前記二の(一)において認定したところによると、檜山忠三郎は、被控訴会社の外務員たる社員として控訴人との取引の衝に当つたものであるが、およそ外務員は、証券業者が自己の営業所以外の場所において有価証券の募集もしくは売買または有価証券市場における売買取引の委託の勧誘に従事させるため雇傭する使用人であるから(証券取引法五六条)、証券業者と顧客とのあいだにおける有価証券の売買その他の取引においては、特段の事情のないかぎり、証券業者のがわにあるものであることはいうまでもない。本件において、顧客たる控訴人と右檜山とのあいだには、学校の同窓生という以外に特別の個人的関係なく、控訴人が檜山に対して有価証券の買付、売却、保管等を包括的に委託していたことを認めるに足りる証拠もなく、その他特段の事情の認めるべきものはないから、檜山は、被控訴会社の使用人たる地位における職務執行として、控訴人との取引に当つたものというべきである。従つて、檜山による前記株券の受け出しは、被控訴会社の内部における問題たるにすぎず、控訴人に対する株券返還の効力を有するものではないから、被控訴会社の主張は、理由がない。

四  つぎに、原審および当審における証人檜山忠三郎の証言と控訴人本人の尋問の結果を綜合すると、つぎの(一)の事実を認めることができる。

(一)  昭和三〇年三月、大阪瓦斯株式会社の増資があり、旧株式一株につき一株の新株の割当があつたので、控訴人は、同月三一日頃、被控訴会社に寄託中の前記大阪瓦斯株式会社株式二千株に対して割当にかかる同社新株二千株分についての払込金八万円を被控訴会社外務員として執務中の右檜山の手を経て被控訴会社に交付し、ついで、昭和三一年一一月、またも大阪瓦斯株式会社の増資があり、旧株式二株につき一株の新株の割合があつたので、控訴人は同月一五日頃、割当にかかる同社新株二千株分についての払込金八万円を同様の方法により被控訴会社に交付し、当時、新株式が発行されていた。

(二)  従つて、二において認定した当初の契約の趣旨により、それぞれ、大阪瓦斯株式会社の株式各二千株計四千株があらたに寄託契約の目的に加えられたものというべきである。

(三)  被控訴会社は、控訴人による右新株払込金の交付は、檜山忠三郎個人に対するものであつて、被控訴会社に対してされたものでないと主張し、証人岡田精(原審および当審)および被控訴会社代表者檜山正三郎(原審)は、これにそう供述しているけれども、これらの供述は、前記の証拠に対比して採用することができない。

(四)  被控訴会社は、また、大阪瓦斯株式会社の前記増資当時控訴人の寄託にかかる同会社の旧株式の株券(前記(二)、(三)の株券)は、すでに控訴人に返還されていたから、新株の割当をうける余地がない、と主張する。しかし、前記(二)、(三)の株券が控訴人に返還されたものと認めることができないことは、三において認定したとおりであり、控訴人に返還されていない以上、実際に(二)、(三)の株券そのものが被控訴会社の支配内に存しなくなつていたとしても、当該消費寄託契約にともなう前記認定の効果が存することは、いうまでもないから、被控訴会社の主張は、理由がない。

五  以上のとおり、被控訴会社は、控訴人から、尼崎製鉄株式会社の株式一千株分の株券、および大阪瓦斯株式会社の株式合計六千株分の株分の寄託をうけたことが明らかであるから、その返還の義務を有するものといわなければならない。そして右返還義務の執行不能の場合における填補賠償の予備的請求については、その請求の範囲内において弁論終結当時の本来の給付たる右株式の時価をもつて算定すべきところ、当審における控訴人本人の尋問の結果によると、本件口頭弁論終結の日である昭和三五年二月一三日当時における株式価格は、尼崎製鉄株式会社株式は一株につき金七二円、大阪瓦斯株式会社株式は一株につき金七一円であることを認めることができる。

六  従つて、前記株券の返還および予備的にその執行不奏効の場合における損害賠償を求める控訴人の本訴請求は、主文第二項掲記の限度において相当であるから、その限度において認容しその余の請求は理由がないから棄却すべく、これと異なる限度において、原判決は失当であるから、原判決を主文のとおり変更し、訴訟費用は第一、二審とも、附帯控訴費用をも含めて、被控訴人の負担とすることとし、仮執行の宣言につき民事訴訟法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 寺田治郎)

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