大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)460号 判決 1966年3月23日

第一、三一六号控訴人(第四六〇号附帯被控訴人) 橋本裕子

右訴訟代理人弁護士 大野新一郎

同 津田勍

右訴訟復代理人弁護士 津田禎三

第一、三一六号引受参加人 黒田ひでこと 黒田ヒデ

右訴訟代理人弁護士 津田勍

同 津田禎三

同 武田隼一

第一、三一六号引受参加人 亀崎久美子こと 神藤久美子

第一、三三五号控訴人(第四六一号附帯被控訴人) 小川豊子

右訴訟代理人弁護士 野村清美

右訴訟復代理人弁護士 仲森久司

第一、三一六号、第一、三三五号被控訴人(第四六〇号、第四六一号附帯控訴人) 細田久和

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

二、控訴人小川は、被控訴人に対し、

(一)  別紙目録第五記載の建物ならびに同目録第三記載の土地を引渡し、

(二)  昭和二七年一〇月二七日から右土地明渡済みに至るまで、右土地につき一坪一ヶ月当り別紙損害金明細表第一の第四段記載の各金額の割合による金員を支払え。

三、控訴人橋本は、被控訴人に対し、

(一)  同人から金四一〇、〇四二円の支払を受けるのと引換えに、引受参加人黒田、同神藤に対する別紙目録第四記載の建物の返還請求権を被控訴人に譲渡し、かつその旨を右引受参加人らに通知し、

(二)  昭和二九年六月二二日から同三三年四月一三日まで、別紙目録第二記載の土地につき一坪一ヶ月当り別紙損害金明細表第二の第四段記載の各金額の割合による金員を支払え。

四、引受参加人黒田は、控訴人橋本が、被控訴人に対し、同人から金四一〇、〇四二円の支払を受けるのと引換えに、別紙目録第四記載の建物につき右三項(一)の指図による占有移転の手続をなすと同時に、右建物から退去して、同目録第二記載の土地を明渡せ。

五、引受参加人神藤は、被控訴人に対し、別紙目録第四記載の建物から退去して、同目録第二記載の土地を明渡せ。

六、被控訴人のその余の請求を棄却する。

七、訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人に生じた費用の十分の八と、控訴人両名に生じた総費用を合せたものの五分の四を控訴人両名の、残り五分の一を被控訴人の、被控訴人に生じた費用の十分の一及び引受参加人黒田に生じた総費用を同引受参加人の、その余は引受参加人神藤の、各負担とする。

八、この判決の、

(一)  第二項は、被控訴人が同項の(一)については金五〇〇、〇〇〇円、同項の(二)については金二〇〇、〇〇〇円各相当の担保を供し、

(二)  第三項の(二)は、被控訴人が金二〇、〇〇〇円相当の担保を供し、

(三)  第五項は、被控訴人が引受参加人神藤に対し、金一五〇、〇〇〇円相当の担保を供し、

たときは、それぞれ仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一、控訴人橋本

(一)  原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(二)  被控訴人の附帯控訴を棄却する。

との判決を求める。

二、引受参加人黒田

被控訴人の引受参加人に対する請求を棄却する。訴訟費用は、被控訴人の負担とする。との判決を求める。

三、控訴人小川

(一)  原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(二)  被控訴人の附帯控訴を棄却する。訴訟費用は、被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

四、被控訴人

(一)  本件控訴はいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

(二)  原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。

(三)  被控訴人に対し、

(イ) 控訴人橋本は、別紙損害金明細表第二の第一段記載の期間、別紙目録第二記載の土地につき一坪一ヶ月当り、右明細表第二段記載額の各割合による金員を支払い、

(ロ) 控訴人小川は、別紙損害金明細表第一の第一段記載の期間、別紙目録第三記載の土地につき一坪一ヶ月当り、右明細表第二段記載額の各割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

(四)  引受参加人黒田、同神藤は、別紙目録第四記載の建物から退去して、その敷地である同目録第二記載の土地を被控訴人に明渡せ。訴訟費用は第一、二審とも引受参加人らの負担とする。

との判決ならびに右各金員支払部分と右各土地明渡部分に対する仮執行の宣言を求める。

第二当事者の主張

一、被控訴人の主張

(請求の原因)

(一) 別紙目録第一記載の土地(以下本件第一の土地と言う。)は、被控訴人の所有である。

(二) ところが、控訴人橋本は、昭和二九年六月一八日から右土地のうち別紙目録第二記載の土地(以下本件第二の土地と言う。)上に同目録第四記載の建物(以下本件第四の建物と言う。)を所有して右第二の土地を、控訴人小川は、昭和二七年一〇月二一日から本件第一の土地のうち同目録第三記載の土地(以下本件第三の土地と言う。)上に同目録第五記載の建物(以下本件第五の建物と言う。)を所有して、右第三の土地を、いずれも原告に対抗しうる正当な権原もなく、不法に占拠している。

また引受参加人黒田、同神藤の両名は、被控訴人の知らぬ間に、昭和三〇年九月八日頃控訴人橋本から本件第四の建物を賃借、引受参加人黒田はこれに居住し、引受参加人神藤は使用人らを居住させて何らの正当権原もなく、右建物の敷地である本件第二の土地を不法に占拠している。

(三) そして被控訴人は、控訴人らの右不法占拠によって、被控訴人所有の右各土地に対する使用収益を妨げられ、日々賃料相当の損害を被っているが、右各土地に対する各時期における一坪一ヶ月当りの賃料相当額は、それぞれ別紙損害金明細表第一及び第二の各第一、二段記載のとおりである。

(四) よって被控訴人は、控訴人両名に対しては、それぞれ本件第四、第五の各建物を収去して本件第二、第三の各土地の明渡を求めるとともに、控訴人橋本には昭和二九年六月二二日から、控訴人小川には昭和二七年一〇月二七日から、いずれも右各土地明渡済に至るまで、各申立どおりの損害金の支払を求め、引受参加人両名に対しては、本件第四の建物から退去して、本件第二の土地の明渡を求めるものである。

(控訴人らの抗弁に対する答弁及び再抗弁)

(一) 控訴人らの抗弁事実中、被控訴人が控訴人ら主張の各建物につき訴外鈴木松三郎と請負契約を結んだこと(但し契約内容は争う。)、控訴人小川が同人主張の如き経路を経てその主張の頃本件第五の建物の所有権を取得したこと及び控訴人橋本が、本件第四の建物を訴外矢田和子から買受けてその所有権を取得したものであることは認めるが、その余の事実は否認する。

被控訴人は、本件第一の土地外一筆計一七〇坪七合三勺上に建物を建築すべく、昭和二二年八月二八日訴外藤森豊次との間に会館建物、店舗建物などの建築請負契約を締結したが、同訴外人は故意に工事を遅延させ契約と相違する建築をなし、更には建築した四戸の店舗を被控訴人に無断で他に売却してその代金を収受し、会館建物を竣工する誠意がなかったので、昭和二三年一一月に至り右請負契約は合意解除せられた。その時の同訴外人のなした建築の状況は、(イ)右土地一七〇余坪の北側西端の二八坪地上のバラック式店舗四戸(延四〇坪)(ロ)東側中央地上に会館建物として建坪延四四坪の会館建物の工事、出来高六〇%位のもの、(ハ)右建物の北隣り土地上に二戸分の店舗(延二四坪)の工事、出来高六〇%位のものであって、右のうち未完成の侭放置されていた各建物を完成さすため、被控訴人は、訴外古野周蔵弁護士を代理人として、訴外鈴木松三郎との間に、右各残工事のみの請負契約をなすことを委任したにすぎない。

なお控訴人橋本所有の本件第四の建物は、訴外渡辺某から訴外山崎多恵、同松村和子、同矢田和子を経て昭和二九年六月二二日控訴人橋本がその所有権を取得したものである。

(二) 仮に被控訴人と鈴木松三郎との間に控訴人ら主張の如き請負契約が締結されたとしても、

(イ) 右契約は、被控訴人の代理人古野周蔵弁護士が、前記委任の趣旨に反してほしいままに契約したものであるから、無権代理行為として無効であるし、

(ロ) 仮にそうでないとしても、右契約中本件第四、第五の各建物の売却に関する鈴木の代理権についての定めは、通謀虚偽表示で無効であるから、右代理権の存在を前提とする本件第二、第三の土地の賃貸に関する鈴木の代理権の定めもその効力はなく、

(ハ) さらに以上の各主張が理由ないとしても、右契約は、昭和二五年二月二四日解約され、被控訴人は、翌二五日本件各土地の当時の占有者訴外高羽八重子、同渡辺某の両名に対し、その旨を伝えるとともに右各土地の占有がいずれも不法占有であることを明らかにして、その使用を拒絶し、なお本件各建物の転売その他一切の処分行為を禁止したから、

いずれにしても、控訴人らが本件各土地の適法な賃借権者でありうるはずはない。

(三) また控訴人らは、本件各建物の買取請求権の行使を主張するが、被控訴人の上記主張から明らかなように、もともと鈴木は本件各土地の賃貸に関しては何らの代理権も有しておらず、仮にこれを有しておったとしても、それは前記のように昭和二五年二月二四日の解約によって消滅しているし、仮にそうでないとしても、控訴人らの主張する借地権は一時使用のためのものであったから、これに借地法第一〇条の適用はなく、いずれにしても控訴人らが本件各土地の単なる不法占有者であることに変りはないから、控訴人らの右買取請求の主張もまた失当である。

二、控訴人橋本、引受参加人黒田の主張(請求原因に対する答弁)

被控訴人主張の土地が同人の所有であること、控訴人橋本が被控訴人主張の建物を所有し、被控訴人主張のとおりその敷地である本件第二の土地を占有していることおよび引受参加人黒田が被控訴人主張の如く控訴人橋本から本件第四の建物を賃借してこれに居住し、その敷地である本件第二の土地を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(抗弁)

(一) 控訴人橋本は、本件第二の土地の適法な賃借権者である。

すなわち被控訴人は、昭和二三年一二月中訴外鈴木松三郎と、鈴木は本件第二、第三の土地上にそれぞれ本件第四、第五の建物を建築し、被控訴人は、これを第三者に売却して、その売得金を、被控訴人が別途建築を予定し、鈴木が請負っていた未亡人会館等の建築資金に充てる。鈴木は、被控訴人を代理して右建物を第三者に売却し、その買主とそれぞれの敷地たる右各土地の賃貸借契約を締結し、契約書を作成する権原を有し、右により発生した賃借権は、右未亡人会館の建築請負契約が終了するか、または右賃貸借契約書の作成により敷地賃借人の確定するまで被控訴人の承諾なくして自由に譲渡しうる旨の約旨で、本件第四、第五建物の建築工事の請負契約を結び、鈴木は、右契約にしたがって本件第四の建物を建築し、その後右建物は、その敷地の賃借権とともに転々と譲渡され、控訴人橋本は昭和二九年四月頃前主の訴外矢田和子から右賃借権とともにこれを買受けたものであるが、当時右請負契約は終了するに至らず、また敷地の賃貸借契約書の作成による敷地賃借人の確定もなされていなかったから、右控訴人は右土地の賃借権を適法に取得するに至ったのである。因みに矢田は、被控訴人の要望で賃料は被控訴人が矢田方でなした食事、飲酒をもって代物弁済をなし、また控訴人橋本は昭和二九年六月分から同三〇年二月分までの賃料を供託し、いずれもその支払義務を履行している。

(二) 仮に右賃借権の主張が認められないとすれば、本件第四の建物の前所有者矢田和子は本件第二の土地の適法な賃借権者であり、仮りにそうでないとしても、少くとも右建物の最初の買受人は、前記のように、被控訴人の代理権を有する鈴木から右建物の買受と同時にその敷地たる本件第二の土地の賃借権を取得していたものであるから、控訴人橋本は、被控訴人に対し、昭和三三年四月一四日被控訴人受領の同日付準備書面で本件第四の建物を時価八五〇、〇〇〇円で買取るよう借地法第一〇条の買取請求権を行使し、併せて、右代金の支払あるまで右建物に対する留置権を主張する。よって右代金の支払と引換えでなければ、右土地を明渡すことはできない。

(三) 引受参加人黒田は、前記(一)のように本件第二の土地の適法な賃借人の控訴人橋本から適法に本件第四の建物を賃借しているものであるから、当然その敷地の占有権原を有しているものであるし、仮にそうでないとしても、控訴人橋本が本件第四の建物を収去して、その敷地を明渡すべき時期までは、右建物に居住しうべきものである。

(四) 控訴人橋本は、右留置権行使により、被控訴人から前記買取代金の支払あるまでは、本件土地の明渡を拒絶しうる権利があるから、右権利の存在する間は、被控訴人主張の損害金を支払う義務はないし、仮にそうでないとしても、被控訴人が附帯控訴によって損害金の請求をしたのは、昭和三三年三月末日であるから、少くとも昭和三〇年二月以前の損害賠償債権は三年の時効期間の経過によって消滅している。

(被控訴人の再抗弁に対する答弁)

被控訴人主張の再抗弁事実は否認する。

三、控訴人小川の主張

(請求原因に対する答弁)

(一) 被控訴人主張の土地が同人の所有であること及び控訴人小川が被控訴人主張の建物を所有し、被控訴人主張のとおりその敷地である本件第三の土地を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 本件第三の土地の地代は、昭和二七年一〇月一日から同二八年三月末日までは一ヶ月金四〇一円、同年四月一日から同二九年三月末日までは一ヶ月金五六〇円、同年四月一日から昭和三六年五月一六日までは一ヶ月金九三五円を相当とし、右地代のうち、昭和二七年一〇月一日から同三二年一一月末日までの分は控訴人小川において弁済供託済である。

(抗弁)

(一) 控訴人小川は、本件第三の土地の適法な賃借権者である。

すなわち被控訴人は、昭和二三年一二月中訴外鈴木松三郎と相控訴人橋本主張どおりの建築工事の請負契約を結び、鈴木は右契約にしたがって本件第五の建物を建築し、遅くとも被控訴人が鈴木との前記請負契約を解除したと主張する昭和二五年二月二四日以前に、訴外高羽八重子に被控訴人を代理して、右建物を売却すると同時にその敷地たる本件第三の土地を賃貸し、その後右建物は右敷地の賃借権とともに訴外小倉シゲ、同中浜タムヨを経て昭和二七年一〇月二七日控訴人小川に譲渡されるに至ったものであるが、当時右請負契約は終了するに至らず、また敷地の賃貸借契約書の作成による敷地賃借人の確定もなされていなかったから、右控訴人は、右土地の賃借権を適法に取得するに至ったのである。

(二) 仮に右賃借権の主張が認められないとしても、上記のように、被控訴人自ら建売の目的で本件建物を建築し、その処分権を建築請負人の鈴木に付与しておきながら、その後前記のように善意、無過失で適法に本件建物を取得した控訴人小川に対し、右建物の敷地に対する賃借権の不存在を理由に、右控訴人に莫大な損害を与える目的でなされた本件建物収去土地明渡の請求は、明らかに民法第一条第三項の権利の濫用に該当し、許さるべきものではない。

(三) 仮に以上の各主張がすべて理由ないとしても、少くとも本件第五の建物の最初の買受人高羽八重子は、前記のように被控訴人の代理人鈴木から右建物の買受と同時にその敷地たる本件第三の土地を賃借し、これが前記の経路を経て控訴人小川に右建物の所有権とともに譲渡承継せられたものであるが、このような場合、たとえ右賃借権の各譲渡につき賃貸人の承諾がなくても、最後の譲渡人は当該建物の買取請求権を失うものではないから、控訴人小川は、被控訴人に対し、借地法第一〇条により、昭和三六年二月一六日被控訴人受領の同日付準備書面で本件第五建物の買取を請求する。したがってまた控訴人小川は、同日以後は本件第三の土地上に本件第五の建物は所有しないことになるから、同日以後の被控訴人主張の損害金支払の義務はない。

(被控訴人の再抗弁に対する答弁)

被控訴人主張の再抗弁事実は否認する。

四、引受参加人神藤

引受参加人神藤は、適式の呼出を受けながらいずれの口頭弁論期日にも出頭しないが、訴訟引受の結果その主張があったとみられる右引受参加人関係の主張事実は、次のとおりである。

(請求原因に対する答弁)

被控訴人主張の土地が同人の所有であり、控訴人橋本が被控訴人主張の建物を所有し、被控訴人主張のとおり、その敷地である本件第二の土地を占有していることは認める。

(抗弁)

控訴人橋本主張の抗弁(一)、(二)のとおりであるから右記載を引用する。

第三証拠関係 ≪省略≫

理由

第一  控訴人橋本、同小川、引受参加人黒田に対する請求について。

一、被控訴人主張の請求原因事実中、被控訴人主張の本件第一の土地が被控訴人の所有であること、控訴人橋本が被控訴人主張の頃から右土地の一部である本件第二の土地上に本件第四の建物を所有して右第二の土地を、控訴人小川が被控訴人主張の頃から本件第一の土地の一部である本件第三の土地上に本件第五の建物を所有して右第三の土地を、いずれも占有し、また引受参加人黒田が被控訴人主張の如く控訴人橋本から右第四の建物を賃借してこれに居住し、その敷地である右第二の土地を占有していることは、当事者間に争いがない。

二、そこで以下控訴人ら主張の各抗弁ならびにこれに対する被控訴人の主張ないし再抗弁について順次判断する。

(一)  控訴人らは本件各土地の適法な賃借権者である旨の抗弁について。

(1) 控訴人橋本、同小川は、その主張の如き事情で、同人らは、いずれも本件各土地の適法な賃借権者であり、引受参加人黒田は適法な賃借権者の控訴人橋本から本件第四の建物を賃借しているのだから、本件土地の占有権原がある旨抗弁し、右抗弁事実中、被控訴人が本件各建物につき訴外鈴木松三郎と請負契約を結んだこと、控訴人小川が同人主張の如き経路を経てその主張の頃本件第五の建物の所有権を取得したこと及び控訴人橋本が訴外矢田和子から本件第四の建物を買受けてその所有権を取得したものであることは、当事者間に争いがない。

そして≪証拠省略≫を綜合すると、

被控訴人は、同人所有の本件第一の土地外一筆計一七〇坪七合三勺の地上に婦人政治会館(未亡人会館)、その他の建物を建築すべく、昭和二二年八月頃訴外藤森豊次にその建築工事を請負わせたが、その後右建築工事をめぐって藤森との間に紛議を生ずるに至ったので、被控訴人は、藤森との請負契約を解除してその後を訴外鈴木松三郎に施工させるため、その交渉、契約の締結等を訴外古野周蔵弁護士に依頼したこと、しかし同弁護士は、鈴木とは同町内に居住し、面識もあるので、直接被控訴人の代理人になるのを避け、被控訴人の了解を得て同人の代理人には訴外陶山三郎弁護士を、又鈴木の代理人には訴外大野新一郎弁護士をそれぞれ委嘱し、古野が両当事者の仲介斡旋役となり、昭和二三年一二月一〇日過ぎ頃、堂ビル七階の清交社に、右三弁護士と被控訴人及び鈴木らが集って協議を重ねた結果、同月一六日、被控訴人と鈴木との間に、(イ)鈴木は、藤森の後を受けて、当時同人が別紙敷地配置図(以下別図と略称する。)に基き同図E地上に建築中の婦人政治会館及び同図D地上に建築中の建物をそれぞれ建築完成する。(ロ)被控訴人は、右建築資金に充てるため、鈴木をして、別図B、G地上に計九戸の建売家屋を鈴木名義で建築させ、鈴木は、これを当該各敷地の賃借権付きで自由に売却処分して、その代金を、右D地上の家屋の利用に伴う収入金とともに、前記婦人政治会館の建築費用に充てる。(ハ)別図B、D、G各地上の家屋の敷地に対する賃料は一坪当り一ヶ月金三〇円とし、鈴木から被控訴人に支払うが、鈴木が右各建物を他に売却したときは、鈴木は、被控訴人のために同人を代理して、右買受人と当該敷地の賃貸借契約を結び、その賃料を徴収すること等の委任を含む建築請負契約が結ばれ、鈴木は右約旨に基いて本件第四、第五の各建物をそれぞれ本件第二、第三の各地上に建築し、被控訴人の承諾を得て、昭和二四年頃、右第四の建物は訴外渡辺某に、右第五の建物は訴外高羽八重子に、いずれも右各敷地に対する賃借権付きでこれを売却し、右各敷地の賃料も半年毎に纒めて二回分程は右各訴外人から徴収して、これを被控訴人に納金していることが認められ、≪証拠認否省略≫

(2) 控訴人らは、本件第二、第三の敷地賃借権は、被控訴人の承諾を要せず、自由に転々譲渡し得るものであった旨主張するが、前記認定のように、鈴木が本件各建物の最初の買受人との間に、被控訴人を代理して、本件各敷地の賃借権を設定し得る権限を被控訴人から授与されていたことまでは、これを認め得るけれども、控訴人らの主張するように、その後の右各賃借権の譲渡まで被控訴人の承諾なくして自由にこれをなし得る旨の約旨であったことまでは、本件全証拠によるも到底これを肯認することができないから、その後の右各賃借権の譲渡は、やはり民法の原則どおり、賃貸人たる被控訴人の承諾なき限り、これをもって被控訴人に対抗し得ないものと解するほかはない。

(3) 又被控訴人は、鈴木との前記契約は、被控訴人主張の如き事情で、古野周蔵弁護士の無権代理行為であるから無効であり、仮にそうでないとしても右契約中本件各土地の賃貸に関する鈴木の代理権に関する定めは、被控訴人主張の如き事由でその効力はない旨再抗弁するが、この点に関する≪証拠省略≫は、前掲の各証拠に照らしてたやすくこれを信用することができないし、他に前段の認定を覆えし、被控訴人の再右抗弁事実を認め得るような証拠はないから、右再抗弁は、いずれもこれを容れることができない。

(4) してみれば、本件第四、第五の各建物の最初の買受人たる渡辺某及び高羽八重子がそれぞれその敷地たる本件第二、第三の各土地に対して適法な賃借権を有していたこと及び控訴人らが右両名からそれぞれ転々第三者を経て本件各建物とともに本件各土地の賃借権の譲渡を受けたものであることまではこれを認め得るけれども、控訴人らの前主からの譲渡も含めて、右賃借権の譲渡に関する被控訴人の承諾の存否につき何らの主張、立証もない本訴においては、やはり控訴人らは右賃借権の譲受をもって被控訴人に対抗し得ないものと言うべく、したがって控訴人らは本件各土地の適法な賃借権者である旨の右抗弁は、いずれもその理由がない。

(二)  控訴人小川の権利濫用の抗弁について。

控訴人小川は、被控訴人の本訴請求は、同控訴人主張の如き理由で権利の濫用である旨主張し、なるほど被控訴人が本件各建物を建売の目的で建築し、その処分権と敷地賃貸の代理権を建築請負人の鈴木に授与したことは前記認定のとおりであるけれども、同時にまた被控訴人は、本件土地の賃借権が同人の承諾を要せずして自由に第三者に転々譲渡されることまでも承諾していたものとは認め難く、したがって控訴人小川が本件土地の賃借権をもって被控訴人に対抗し得るためには、右賃借権の譲受につき、被控訴人の承諾を要するのに、右承諾の存否につき何らの主張、立証もないこと前説示の如くである以上、被控訴人がこのような控訴人小川に対し、後段説示の如く買取請求権の行使が認容される場合の如きは格別、本件土地の不法占拠を理由に本訴の如き建物収去、土地明渡の請求に及び得るのは当然のことであって、他に特段の事由もなく、右請求を目して権利の濫用に当るとは到底言えないから、控訴人小川の右抗弁もまた失当である。

(三)  控訴人らの買取請求の抗弁について。

被控訴人において、控訴人橋本が本件建物の買取を求めた昭和三三年四月一四日付の準備書面を右同日、また控訴人小川の本件建物の買取を請求した昭和三六年二月一六日付準備書面は右同日、いずれもこれを受取っていることは、本件記録に徴してこれを認めることができるので、次に右各請求の当否について検討する。

(1) 本来借地法第一〇条の法意は、第三者が借地上に存在する建物を取得したにかかわらず、賃貸人が右借地権の譲渡または転貸を承諾せず、したがって右第三者が当該借地権をもって賃貸人に対抗し得ない場合に、右第三者に右取得建物の買取請求権を与え、もって右建物の存続を図り、間接には事実上敷地賃借権に譲渡性を与える作用を営ましめようとするにあるものと解すべきであるから、右規定は、第三者が最初の借地人から其の賃借権及び地上建物の所有権を譲受けた場合は勿論のこと、これらの権利が最初の借地人から数次にわたって転々譲渡せられて第三者に帰属するに至った場合にもその適用をみ、また後者の場合数次の賃借権の譲渡のいずれについても賃貸人の承諾がなく、ために第三者及びその前主(但し最初の借地人を除く)が、ともに当該賃借権をもって賃貸人に対抗し得ないときであっても、最後の譲受人たる第三者は賃貸人に対し、建物の買取請求権を有するものと解するを相当とし(大審院昭和九年四月二四日判決、民集一三巻七号五五一頁参照)、これを本件についてみるに、上来認定のように、本件各建物は、最初の買受人たる渡辺某及び高羽八重子が、昭和二四年頃これを買受けて、その各敷地たる本件各土地の賃借権とともに適法にその所有権を取得し、それがその後右各賃借権とともに数次にわたって転々譲渡され、その結果これら権利がそれぞれ控訴人らに帰属するに至ったものであるが、右数次にわたる賃借権のいずれの譲渡についても被控訴人承諾の事実が認められないため、控訴人らも右各賃借権をもって被控訴人に対抗し得ないものであることが明らかであるから、控訴人らは、まさに借地法第一〇条により、被控訴人に対し、本件各建物の買取りを請求し得べき場合に当り、控訴人らの本件建物買取請求権の行使は適法と言わなければならない。

(2) 被控訴人は、もともと鈴木は本件各土地の賃貸に関しては何らの代理権も有しておらず、仮にこれを有していたとしても、右代理権授与の基本契約たる鈴木との請負契約は、昭和二五年二月二四日に解約され、右代理権は消滅しているし、仮にそうでないとしても、前記借地権は一時使用のためのものであったから借地法第一〇条の適用はなく、いずれにしても控訴人らに借地法第一〇条の買取請求権はない旨主張するけれども、本件各建物の最初の買受人たる渡辺某及び高羽八重子がそれぞれ本件各建物を買受けると同時に、その敷地たる本件各土地の賃借権を取得した昭和二四年当時、被控訴人を代理してその衝に当った鈴木が被控訴人の正当な代理権を有していたことは、既に認定のとおりであるし、また仮に被控訴人の言う代理権授与の基本契約たる鈴木との請負契約が被控訴人主張のように昭和二五年二月二四日解約されたとしても、このような場合右基本契約と合体して授与された委任に因る代理権は単に将来に向ってのみその効力を失うにすぎないものと解する(民法第六五二条)のを相当とするから、右解約の故に、他に特段の事由もなく、それ以前に適法に取得した渡辺某及び高羽八重子の本件各土地に対する賃借権が消滅するいわれはなく、また右賃借権が一時使用のためのものであったことの確証はないし、その他控訴人両名が前主から本件各土地の賃借権を譲り受ける以前に右各賃借権消滅の事実を認めるに足る証拠は何もないから、被控訴人の右抗弁はこれを容れることができない。

(3) したがって、控訴人らは、右買取請求権行使の結果、本件第四の建物については昭和三三年四月一四日被控訴人と控訴人橋本との間に、また本件第五の建物については昭和三六年二月一六日、被控訴人と控訴人小川との間において、それぞれ右各同日現在における右各建物の時価を代金額とする売買契約が成立したのと同一の効果を生ずるに至ったものと言うべく、しかして右時価の算定に当っては、これを取毀した動産として評価したり、あるいはまた土地使用権の価格を加算したりすべきものではなくして、土地の附属物として有すべき価格を算定すべき(大審院昭和七年六月二日判決民集一三〇九頁)ものと解すべきところ、鑑定人佃順太郎の鑑定結果に徴すれば、右時価は本件第四の建物については金四一〇、〇四二円、本件第五の建物については金七一〇、六三四円をもって相当と認められ、これと異る鑑定人中村忠の鑑定結果は、右答申中に一部脱漏がある等いささか粗略のきらいがあり、当裁判所はこれを採用しない。

三、してみれば、控訴人らの右買取請求行使の効果として、本件第四の建物は昭和三三年四月一四日、また本件第五の建物は昭和三六年二月一六日限り、いずれも被控訴人の所有に属するに至ったものと言わなければならないから、控訴人両名の被控訴人に対する本件建物収去義務は右各同日限り消滅し、したがって被控訴人の控訴人両名に対する本訴請求中右各建物の収去を求める部分は失当たるを免れないが、本件の如く地上建物の収去とその敷地の明渡を求めている場合に、右地上建物につき借地法第一〇条の買取請求がなされたときは、右収去明渡請求は、右地上建物の引渡を求め、さらには控訴人橋本の場合のように、同控訴人が本件第四の建物を引受参加人らに賃貸し、その間接占有のみを有するにすぎない場合の如きは、右請求は右建物の指図による占有移転を求める趣旨をも包含しているものと解すべきである(大審院昭和一四年八月二四日判決、民集一八巻八七七頁、最高裁昭和三三年六月六日判決、民集一二巻一三八四頁、同昭和三六年二月二八日判決、民集一五巻二号三二四頁各参照)から、被控訴人の本訴建物収去、土地明渡の請求は、控訴人小川に対しては本件第五の建物とその敷地たる本件第三の土地の引渡を求め、控訴人橋本に対しては本件第四の建物の指図による占有移転を求める限度において理由あるものと言わなければならないところ、控訴人橋本は、本件第四の建物につき留置権を主張するので、同控訴人に対しては、右建物の買取代金四一〇、〇四二円の支払と引換えに本件第四の建物の指図による占有移転を求め得るに止り、その余は失当たるを免れない。

また引受参加人黒田が、被控訴人主張の如く控訴人橋本から本件第四の建物を賃借、これに居住し、その敷地である本件第二の土地を占有していることは、当事者間に争いのないところであるから、右引受参加人は、同人がその主張の如き抗弁をなしている限りにおいては、控訴人橋本が上記買取代金の支払と引換えに被控訴人に対し、本件第四の建物の指図による占有移転の手続をなすと同時に、右第四の建物から退去して、本件第二の土地を被控訴人に明渡す義務があり、被控訴人の右引受参加人に対する本訴請求も右限度においてその理由あるものと言うべきである。もっとも上記買取請求権行使の結果、昭和三三年四月一四日限り、右建物が被控訴人の所有に帰したこと前示のとおりであるから、同日以降被控訴人と引受参加人黒田との間には、借家法第一条により右建物の賃貸借関係が生じ、右引受参加人の右建物及びその敷地に対する占有関係は正当権原に基づくものとなる(大審院昭和一四年八月二四日判決民集一八巻八七七頁参照)わけではあるが、右の如き占有権限については、右引受参加人において何らその主張をしていないので、右の如き法律効果の発生を理由に被控訴人の右引受参加人に対する本訴請求を前記理由ある限度以上に排斥するわけにはいかない。

四、そこで次に、被控訴人の損害金請求について判断する。

(一)  ひとしく他人所有地の不法占拠とは言っても、本件の如く借地上の建物をその賃借権とともに譲渡を受けた第三者が右賃借権譲渡につき敷地賃貸人の承諾を得られない結果、右賃借権を賃貸人に対抗し得ない場合、果して右第三者に対して不法占拠による損害の賠償を請求し得るか、どうかについては、議論の分かれるところであり、本件原判決のように、賃貸人は、最初の賃貸借を解除しない限り、その賃料債権を有しおることを理由にこれを消極に解する見解もあるが、賃貸人が単に右の如き賃料債権を有すると言うだけで、その間賃料相当の損害を生じないとは言い難く、賃貸人が現に右賃料の支払を受けたような場合は格別、そうでない限り、賃貸人は賃借権の無断譲受人に対し賃料相当の損害金を請求するを妨げないものと解するを相当とし(最高裁昭和三五年九月二〇日判決民集一四巻一一号二二二七頁参照)、控訴人両名が被控訴人主張の頃から、いずれも被控訴人に対抗し得る正当な権原もなくして、控訴人橋本は本件第二の土地を、控訴人小川は本件第三の土地を、それぞれ不法に占有していることは上記説示のとおりであるから、控訴人両名は、他に特段の事由なき限り、被控訴人に対し、右不法占拠による損害を賠償すべき義務があるものと言わなければならない。

(二)  しかし控訴人橋本は、前記留置権行使を理由に、被控訴人主張の損害賠償義務はない旨抗弁し、同控訴人の本件建物の買取請求が理由あること前説示のとおりである以上、右買取請求後の敷地占有は違法性を欠くに至り、被控訴人の本訴請求が当該敷地の不法占拠を原因とするものである限り(被控訴人が不当利得の請求をする趣旨は本件の弁論に全く顕れていない。)、控訴人橋本の右抗弁は理由があり、したがって、被控訴人の本訴損害金の請求は、控訴人橋本に関する限り、同控訴人から本件建物の買取請求がなされた前日の昭和三三年四月一三日までの分についてはこれを肯認し得るが、その余は失当たるを免れない。

なお控訴人橋本は、その主張の如き理由で昭和三〇年二月末日以前の損害賠償債権は時効消滅している旨を主張するが、被控訴人が昭和三〇年二月二五日原裁判所に本訴を提起して以来本訴損害金の請求をしていることは、本件記録に徴し明白であるから、控訴人橋本の右抗弁の理由なきことは断るまでもない。

(三)  また控訴人小川は、前記買取請求権行使の結果、本件第五の建物は同控訴人の所有でなくなるから、右請求権行使以後の損害金は、これを支払う義務はない旨抗弁し、なるほど右買取請求の認め得べきことは前説示のとおりであるが、右控訴人が右買取請求に併せて買取代金支払あるまでの右建物についての留置権ないし同時履行の抗弁を主張している場合ならば格別、本件記録上でも明らかなように、当裁判所の釈明にもかかわらず、控訴人小川において、右各抗弁につき何らの主張もなしていない本訴においては、ただ買取請求権行使により、以後は被控訴人主張の損害金支払の義務はない旨の主張のみで、当然に右損害金の支払を免れ得べきものとは言えないから、控訴人小川の右抗弁もまた失当たるを免れない。

(四)  そこで次に、その損害額について検討するに、≪証拠省略≫ならびにその地理的条件を併せ考えれば、本件第三の土地については別紙損害金明細表第一の第三段記載の各賃料相当額、本件第二の土地については右賃料相当額にその一割を加算した同明細表第二の第三段記載の各賃料相当額をもって相当とし、≪証拠省略≫ならびに成立に争いのない甲第一〇二号証の鑑定人小久保信之助の鑑定結果は、鑑定物件を異にしまた理由極めて簡略にすぎるため、当裁判所はこれを採用せず、他に右認定を妨げるような証拠もない。

(五)  してみれば、結局控訴人両名は、本件各土地の不法占拠により、控訴人小川は、別紙損害金明細表第一の第四段記載の各金額の割合による損害金を、また控訴人橋本は、同明細表第二の第四段記載の各金額の割合による損害金を、それぞれ被控訴人に支払う義務があり、被控訴人の控訴人らに対する本訴損害金の請求は右限度においては理由があるが、その余は失当たるを免れない。

第二  引受参加人神藤に対する請求について。

一、被控訴人主張の請求原因事実中、被控訴人主張の本件第一の土地が被控訴人の所有であること及び控訴人橋本が被控訴人主張の頃から、右土地の一部である本件第二の土地上に本件第四の建物を所有して右第二の土地を占有していることは、当事者間に争いがなく、引受参加人神藤が、被控訴人主張の如く、控訴人橋本から右第四の建物を賃借し、これに使用人らを居住させて、その敷地である本件第二の土地を占有していることは、右引受参加人の明らかに争わないところである。

二、してみれば、引受参加人神藤が抗弁するように、控訴人橋本が本件第二の土地の適法な賃借権者である限りにおいては、右引受参加人も右土地の正当な占有権原を有することになるわけであるが、右抗弁が理由のないことは、さきに控訴人橋本に対する請求の項で認定説示したとおりであるし、右引受参加人主張の控訴人橋本の買取請求権行使の抗弁も、右控訴人主張の買取請求と留置権を援用するのみでは、右引受参加人の本件第二の土地の占有権原の主張としては当を得てないし、他に右占有権原を肯認し得べき何らの主張も立証もないから、結局引受参加人神藤もまた被控訴人主張のとおり、本件第四の建物を占有することによって、被控訴人所有の本件第二の土地を不法に占有しおるものと言われても致方がなく、被控訴人の右引受参加人に対する本訴請求はその理由があるものと言わなければならない。

第三  以上説示の次第によって、本件各控訴ならびに附帯控訴とも一部その理由があるので、民事訴訟法第三八六条にしたがって原判決を変更し、被控訴人の請求中理由ある部分はこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を、各適用して主文のとおり判決する。

なお引受参加人黒田に対する仮執行の宣言は、これを付さないのを相当とし、右申立はこれを却下する。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 島崎三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例