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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)704号 判決 1960年4月27日

当審第二当事者参加人 二見作次郎

訴訟代理人 池口治郎

控訴人(原審第一当事者参加人) 扇田政明

訴訟代理人 辻中栄太郎 外二名

被控訴人(原審原告) 奥村清五郎

訴訟代理人 小出成就

被控訴人(原審被告) 綛谷義信

訴訟代理人 白井源喜

主文

本件第二当事者参加の申出を却下する。

右第二当事者参加の申出によつて生じた訴訟費用は、当審第二当事者参加人の負担とする。

事実

当審第二当事者参加訴訟代理人は、控訴人(第一当事者参加人、以下単に第一参加人と称す。)扇田政明と、被控訴人(原審原告、以下単に被控訴人と称す。)奥村清五郎、竝に被控訴人(原審被告、以下単に被控訴人と称す。)綛谷義信間の、当庁昭和二九年(ネ)第八六一号山林所有権確認竝に移転登記手続請求控訴事件(以下第一参加訴訟と称す。)の口頭弁論終結後である昭和三十三年六月五日に、第二当事者参加の申出をなし、右第二参加請求の趣旨として、「原判決を取消す。原判決末尾添付目録記載の物件は、当審第二当事者参加人(以下単に第二参加人と称す。)の所有であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共、第一参加人竝に被控訴人両名の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人奥村、同綛谷各訴訟代理人は、本案前の申立として「本件第二参加申出を却下する。」旨の判決を、本案の申立として「第二参加人の参加請求を棄却する。第二参加申出による訴訟費用は第二参加人の負担とする。」旨の判決を求めた。

先ず本件第二参加申出が適法であるか、否かについて、被控訴人両名各訴訟代理人は左のとおり述べた。

「本件第二参加の申出は、第一参加訴訟(当庁昭和二九年(ネ)第八六一号事件)の口頭弁論終結後、その判決言渡前である昭和三十三年六月五日になされたものであるところ、民事訴訟法第七一条が「訴訟の目的の全部又は一部が自己の権利なることを主張する第三者」に当事者として訴訟に参加することを許し、更に同法第七三条が、「訴訟の繋属中其の訴訟の目的たる権利の全部又は一部を譲受けた」者が、同法第七一条の規定により訴訟に参加することを許したのは、訴訟経済を図ると同時に、判決の牴触を防ぎ、権利関係を合一に確定せしめることを目的とするものであるから、右参加の申出は、訴訟の審理中になされることを要し、口頭弁論終結後に至つてこれをなすが如きは、参加申出の時機を失し、法の許さぬところである。而して第二参加人は本件第二参加申出と同時に、口頭弁論再開申立をしているけれども、結審した事件の口頭弁論を再開することは、裁判所の職権にかかるものであつて、口頭弁論再開の申立は、単に裁判所職権発動を促すものであるに過ぎぬから、裁判所はこれに対して許否の裁判をなすべきものでないことは、学説判例の一致するところである。従つて御庁が、第二参加人の口頭弁論再開申立を却下しないまま第一参加訴訟について先に終結した口頭弁論に基いて判決の言渡をなしたことは、もとより正当であつて、右判決言渡後において、更に第二参加訴訟のみについて審判をなし得べきものでないことも、また自ら明であるから、結局本件第二参加申出は不適法として却下せらるべきものである。」

第二参加訴訟代理人は、本件第二参加申出の適否について左のとおり述べた。

「本件第二参加申出は、第一参加訴訟の控訴審においてなされたものであるが、民事訴訟法第七三条は「訴訟の繋属中其の訴訟の目的たる権利の全部又は一部を譲受けたることを主張し、第七一条の規定により訴訟参加を為したるときは」と規定しているのであるから、原告または被告から権利を譲受けた者に限らず、参加人から権利を譲受けた者も、また参加申出をなし得るものとする法意であることは明かである一方、既に参加人の存在する参加訴訟には何人も参加し得ないことを定めた規定はないから、本件第二参加の申出は、第一参加訴訟に重畳してなされた参加申出として適法である。被控訴人等は、本件第二参加の申出は、口頭弁論終結後になされたものであるから、不適法であると主張するけれども、民事訴訟法第七一条、第七三条に徴すると参加申出は訴訟の係属中であれば何時でもこれをなし得るのであつて、右にいわゆる訴訟の繋属中とは、訴状の送達から判決の言渡がなされる迄の意味であることは明かであるから、本件第二参加申出は適法であり、且一度適法な参加申出がなされた上は、裁判所は審判をなすべき義務を負うことも明かである。

然るに御庁が、右第二参加申出を無視して、第一参加訴訟のみについて判決の言渡をなしたことは違法であつて、この場合御庁は、第二参加人に対する関係において追加判決をなすために、口頭弁論を再開すべき義務があり、これをなすと否との自由を有するものではない。」

次に本案に関する当事者の主張は左のとおりである。

被控訴人奥村訴訟代理人の主張。

「被控訴人奥村は昭和二十六年八月三十日、第一参加人扇田からその所有にかかる原判決末尾添付目録記載の山林土地、及び同地上に生立する松杉桧等の立木を代金二万五千円で買受けた上、同年十月二十二日訴外富士木材株式会社に、右買受けにかかる土地竝に立木の全部を売却したが、その後右山林土地だけを代金六万円で買戻した。そして被控訴人奥村は、右土地の管理を被控訴人綛谷に依頼すると共に、これを同被控訴人に信託譲渡することとし、後日被控訴人奥村が要求するときは、被控訴人綛谷は、何時でもその所有名義を被控訴人奥村に返還する約定の下に、被控訴人綛谷名義に所有権移転登記を経由した。然るに被控訴人綛谷は、被控訴人奥村より再三請求を受けながら、右約旨に反して所有権移転登記義務を履行しないから、被控訴人綛谷に対し、右土地が控訴人奥村の所有であることの確認、竝にその所有権移転登記手続を求める。」

被控訴人綛谷訴訟代理人の主張。

「被控訴人奥村の主張事実中、同被控訴人が昭和二六年八月三十日に第一参加人扇田から、本件山林土地及びその地上立木全部を、代金百二万五千円で買受けた上、同年十月二十二日右物件全部を富士木材株式会社に転売し、その後土地だけを代金六万円で買戻したこと、右土地が現に被控訴人綛谷の登記名義となつていること、竝に第一参加人扇田の主張事実中、被控訴人綛谷が、右第一参加人に対して右土地を返還する旨の意思表示をしたことはこれを認めるが、被控訴人奥村竝に第一参加人扇田のその余の主張はすべて争う。

元来被控訴人奥村は被控訴人綛谷の世話で、第一参加人扇田から、本件山林土地竝にその地上立木を買受けた関係であるところから、被控訴人奥村は、前記富士木材株式会社より買戻した伐採跡の土地を、被控訴人綛谷の斡旋に対する謝礼として贈与し、よつて昭和二十六年十一月六日に、右土地の当時の登記名義人窪田寿三郎より中間省略登記によつて、被控訴人綛谷に所有権移転登記を経由した次第である。然るに第一参加人扇田はその後に至つて、被控訴人奥村に売渡したのは立木だけであつて土地所有権を含まず、且つ同被控訴人はその代金も完済しないで、これを伐採したと称して、被控訴人奥村を吉野警察署に告訴したために、被控訴人綛谷も関係者として取調べを受けるに至つた。然るに同警察署係官は、右土地を第一参加人扇田に返還することを被控訴人綛谷に強要し、且つ当時の状況においては、右第一参加人の主張は理由がある如く見えたので、被控訴人綛谷は、右土地を第一参加人に返還することを約した。然るにその後御庁が、本件第一参加事件についてなされた判決によると、第一参加人扇田の右主張は全く根拠のないものであることが明白となつた。しかし被控訴人綛谷は、第一参加人の右主張が理由があるものと信じたために、前記土地の返還を約したのであるから、右法律行為は要素の錯誤により無効である。仮に右の主張が認容せられないとしても、右の意思表示は前述した如き警察の強迫によつてなされたものであるから、被控訴人綛谷は、昭和二十七年九月頃第一参加人に対して取消の意思表示をした。よつて本件土地は現在被控訴人綛谷の所有に属するものであつて、被控訴人奥村、または第一参加人扇田または第二参加人二見の所有に属するものではない。なお本件第一参加事件においてなした被控訴人綛谷の主張の中、右に反する部分はこれを撤回する。」

第一参加人扇田訴訟代理人の主張。

「本件土地は元来その地上立木と共に、第一参加人扇田の所有であつたが、第一参加人扇田は土地所有権はこれを留保して右地上立木だけを被控訴人奥村に譲渡契約をした。然るに被控訴人奥村は、右山林土地竝に地上立木はすべて自己の所有である如く詐称してこれを富士木材株式会社に売約した結果、同会社への手前をつくろう必要に迫まられた同被控訴人は、第一参加人扇田に対して、いずれ伐採後の土地を何等かの方法で取戻して返還すべきを以て、それまでは、一応本件土地も被控訴人奥村に譲渡した態にしてもらいたい旨を懇請して来たので、第一参加人扇田は、被控訴人奥村の取引を邪魔しない意味で、仮装的に右土地も奥村に売却したこととした。然るに被控訴人奥村は右土地返還の約定を履行しないので、第一参加人扇田は被控訴人奥村に対して厳重にその履行を督促した。そこで被控訴人奥村は、被控訴人綛谷に仲介報酬として本件土地を贈与したい旨の口実を設けて、右土地を前記会社より取戻すことを企て、その旨を申入れて交渉した結果、被控訴人奥村の右申入を真実と信じた富士木材株式会社は、右土地を代金六万円で奥村に売戻すことを承諾すると共に、その所有権移転登記に要する書類を直接に被控訴人綛谷に交付して、同人名義に所有権移転登記をなさしめた。以上の経緯で本件土地については外形上は、第一参加人扇田より被控訴人奥村に、同被控訴人より富士木材株式会社に、同会社より被控訴人奥村に、順次売買により譲渡された上、被控訴人奥村より被控訴人綛谷に更に贈与により譲渡されたものの如く見える点があるけれども右の売買竝に贈与は、いずれも被控訴人奥村の作為による虚偽仮装のものであつて、真実は本件土地は終始第一参加人扇田のものであつて、同参加人は何人にもこれを譲渡することなく、引続いてその所有権を保有しているものである。よつて被控訴人両名に対し、本件土地が第一参加人扇田の所有であることの確認、竝に被控訴人綛谷に対してその所有権移転登記手続を求める。」

第二参加人二見訴訟代理人の主張。

「本件土地が元第一参加人扇田の所有であつて、これについて被控訴人綛谷のためになされた所有権取得登記が虚偽仮装のものであることは、右第一参加人の主張するとおりであるところ、第一参加人扇田は、昭和二十七年九月七日に右土地の形式上の登記名義人である被控訴人綛谷の了解の下に、右土地を代金十七万円で、第二参加人二見に売渡し、よつて被控訴人綛谷は、その所有権移転登記に要する一切の書類を第二参加人二見に交付し、且土地の引渡をなした。そこで第二参加人二見は同年十一月十日に代金十七万円を完済した上、右土地を開拓整理し、杉桧等の苗木三万五千本を植付け、以来毎年二回下草刈りを実施し、既に合計金百五十万円の植林費用を投下している。然るに第二参加人二見は、最近に至つて始めて、本件訴訟係属中である事実、竝に右土地については、被控訴人奥村の申請による仮処分決定により所有権移転登記が禁止されていることを知つたので、ここに本件土地が第二参加人二見の所有であることの確認を求めるために、本件第二参加申出に及んだ。但し、第二参加人二見はいまだ本件土地について所有権移転登記を経由してはいない。」

理由

先ず、被控訴人奥村、同綛谷竝に第一参加人扇田の三者間の第一当事者参加訴訟の控訴審において、更に重畳してなされた本件第二当事者参加申出の適否について判断するに、一般に民事訴訟は、原告と被告との相対立する二当事者間の攻撃防禦の関係において開始遂行されることを原則とするのであるが、民事訴訟法第七一条第七三条は訴訟経済と紛争の合一的解決を図るために特に法定の要件の下に、他人間に存在する訴訟状態を第三者が利用することを許す例外の場合として、当事者参加の制度を設けたのであつて、学説はこれを三面訴訟又は丁字型訴訟の構造を以て解説しているのである。従つて右の三面訴訟又は丁字型訴訟の理論を固執して考えるならば当事者参加訴訟に更に重畳して第二当事者参加をなすことを認め、その参加申出が重複するに従つて、四者間、五者間の訴訟関係を認めるが如きは、徒に訴訟関係を煩雑ならしめるものとして、これを不可とすべきように思われぬでもないが、更に、民事訴訟法が当事者参加訴訟を認めた法意は、前記のように第三者が他人間の訴訟状態を利用することを許し、以て訴訟経済と紛争の合一的解決を図るにあること、竝に学説が当事者参加訴訟について三面訴訟又は丁字型訴訟の理論を以て解説しているのは、単に、原被告間の訴訟に第三者が参加申出をする通常の場合を想定して解説しているものと解する余地があり、特に四者間、五者間の訴訟を不可能なものとして排斥する理論的根拠を示していないことを考え合わせると、かかる重畳的当事者参加を不可とする根拠にとぼしいと思われるし、更に法文について見るも、民事訴訟法第七三条は「訴訟の繋属中その訴訟の目的たる権利の全部又は一部を譲受けた第三者は、第七一条の規定により訴訟参加をなし得ることを規定しているところ、右は原告又は被告より権利を譲受けた場合に限らず、訴訟参加人より権利を譲受けた場合もまたこれに合まれると解するを相当とし、他に反対に解すべき規定はないのであつて、以上の論拠から、当裁判所は重畳的第二当事者参加の申出は、その参加申出自体としては適法なものと判断する。

そこで進んで、第一当事者参加訴訟の口頭弁論終結後、その判決言渡前に、第二当事者参加申出がなされた場合に、裁判所は右第二参加訴訟について審判するために口頭弁論の再開をなすべき義務があるか否かの点について判断するに、先ず一般論として原被告間の訴訟の口頭弁論終結後に、第三者が当事者参加をなした通常の場合について考えると、民事訴訟法第七一条、第七三条は、訴訟が事実審に係属中である限りは、当該の審級に参加し得ることを定めたものと解すべきである(大審院昭和十三年(オ)第一五一五号事件、昭和十三年十二月二十六日言渡判決)から、口頭弁論終結後その判決言渡前においても、訴訟が係属している事実審の当該審級に参加し得るものとしなければならぬけれども、口頭弁論終結後になされた、かかる当事者参加の申出によつて、裁判所が口頭弁論の再開を強いられるものと解することは、口頭弁論の再開を裁判所の専権に属せしめた民事訴訟法第一三三条の法意に反し、また時機に遅れてなされた参加申出のために、既に判決を期待し得べき状態にあつた被参加当事者の利益が害せられる結果を容認する点において、同法第一三九条の法意にも反するものであつて、到底採用し難い見解であり、裁判所はかかる当事者参加の申出にかかわらず、既に終結した口頭弁論に基いて判決の言渡をなすことを妨げない。

従つて口頭弁論終結後その判決言渡前になされた当事者参加申出は(1) 裁判所が職権を以て口頭弁論の再開を命じた場合(2) 又は当該審級においてなされた判決に対して当事者が上訴し、よつて上級審で破毀(取消)差戻しの判決がなされた場合に限り、当該審級の審判を期待し得るに止まるのであつて、その然らざる限りは、当該審級における実質的な審判を受けることができないものと解しなければならぬのであつて、このことは当事者参加制度なるものが、他人間に存在する訴訟状態を、その参加申出の時の現状において第三者が利用することを許した制度本来の趣旨から見ても明であるとしなければならぬ。

そして上述したところは第一当事者参加訴訟の口頭弁論終結後その判決言渡前に、第二当事者参加の申出がなされた場合についても同様であると解せられるところ、当裁判所は、被控訴人奥村、同綛谷竝に第一参加人扇田間の第一参加事件の控訴審として、昭和三十三年五月二十一日終結した口頭弁論に基いて、同年七月十一日判決の言渡をしたのであるから、右口頭弁論終結後判決言渡前の参加申出にかかる、本件第二参加訴訟については、もはや当裁判所においてこれを審判すべき限りでないことは明である。

以上の次第であるから当裁判所は、将来上告審において当裁判所のさきになした右判決が破毀される場合の外は、本件第二参加申出は結局不適法に帰するとの判断の下に、本案について審理する迄もなくこれを却下すべきものとし、よつて民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中正雄 裁判官 観田七郎 裁判官 河野春吉)

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