大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)167号 決定 1958年11月17日
抗告人 新庄市名部
主文
原決定を取消す。
本件を神戸地方裁判所に差戻す。
理由
本件抗告の趣旨と理由は別紙に記載の通りである。
これに対し当裁判所は次の通り判断する。
債権者が一定の債権を被担保債権とする仮差押命令を申請するに際り、同時に債務者所有の特定不動産の強制競買のための仮差押執行をも併せて申請する趣旨をもつて、具体的にその不動産を表示してその仮差押命令を申請する場合には、裁判所も又これに応じ、被担保債権としてその債権を掲げながらその特定不動産を仮に差押えるという形式の仮差押命令を発するのが常例であるが、そのような仮差押決定は単にその不動産の強制競買のための執行方法のみを許す趣旨をもつてなされたものとは解されず、尚その被担保債権保全の必要があれば、同一仮差押決定正本を債務名義として他の諸種の仮差押命令の執行方法を実施しうるは勿論である。本件仮差押命令が昭和三三年一月一三日前記常例にならつて発せられ、その翌日目的不動産につき強制競買の執行方法としての仮差押記入登記がなされたことは、記録中の本件仮差押決定正本に徴し明白であるところ、仮差押命令が一旦右のように命令送達後二週間内に執行されている以上、債権者の保全意思は積極的に執行面に表示されているのであるから、その仮差押命令の執行力は維持されているものというべく、保全の必要さえあれば、これに基き更に他の不動産に対し強制管理の執行方法も許されねばならない。原審はこの点を誤解し、保全の必要性につき審理するところなく、本件仮差押命令は強制管理については執行力を失つていると判断し、本件強制執行の申請を却下したのは失当であるからこれを取消し、原審に差戻すことゝし、主文の通り決定する。
(裁判官 大野美稲 石井末一 喜多勝)
(別紙)
抗告の趣旨
原決定を取消す。
抗告の理由
一、抗告人が本件不動産強制管理命令申請事件の債務名義として、抗告人(債権者)相手方(債務者)なる神戸地方裁判所昭和三十三年(ヨ)第五四八号仮差押命令申請事件の同決定正本を以てなしたことは記録上明らかである。
二、されば右仮差押命令の執行として、之が有効に執行がなされたことも記録上明らかである。
三、そうだとすれば有効である仮差押命令正本を以て十四日経過後同正本を債務名儀としてなされた強制管理申請は六四〇条三項の法理に照して無効のはずなく之が申請を却下した決定は当然取消を免かれるものではない。