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大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)314号 決定 1960年4月06日

控訴人 高田富三

訴訟代理人 西原誠直

被控訴人 東海興業株式会社

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は別紙「抗告℃理由」記載のとおりである。

よつて考案するに、仮処分命令に対する異議申立は、口頭弁論手続を経ることなく決定を以て発せられた仮処分命令を不服として、その申請理由とされた事実を争うために、口頭弁論の開始を求める防禦的性質の申立であると解されるから、右異議申立によつて開かれる口頭弁論手続においては、仮処分申請人は原告、異議申立人たる相手方は被告の各立場において手続に関与するものであることは疑を容れないところである。従つて右口頭弁論手続が開始せられた場合には、原告たる仮処分申請人は自ら当該訴訟手続を遂行して先に獲得した仮処分命令を維持すべき訴訟法上の責任があるものと解すべく、これを換言すれば、何時にても異議申立によつて覆され得る可能性を帯有している仮処分決定は、当初からかかる浮動的性質を予定して発せられているのであるから、いやしくも相手方の異議申立によつて口頭弁論が開始せられた以上は、仮処分申立人自らその維特に努めるべきことは当然の事理であつて、もしもこれに反して仮処分申請人が右口頭弁論の過程において自ら仮処分申請を取下げた場合はもちろん、民訴法第二三八条の休止満了によつて訴訟手続が終了した場合においても、仮処分申請人は、先に発せられた仮処分命令を維持する意思を抛棄したものというべく、従つてこの場合においても右仮処分命令は、申請の取下があつた場合と同様に当然にその効力を失うものと解するを相当とする。

次に抗告人は目下最高裁判所に係属中の抗告人と相手方との間の占有回収請求事件の判決ある迄は、本件仮処分の執行取消を求めない旨の特約が成立していると主張するけれども、かかる事実を認め得る疏明はないのみならず、仮に抗告人と相手方との間に、かかる特約がなされたとしても、右特約は当事者間に、既になされた仮処分執行を事実上維持、利用すべき債務関係を生じるだけのことであつて、何等訴訟法上効力を生じるものではなく、従つて右仮処分決定の債務者より、仮処分決定が効力を失つたことを原因として執行方法に関する異議申立がなされ、且つ該仮処分決定が前述した如き休止満了によつて効力を失つたことが訴訟記録に基ずく証明書によつて認められる以上は、裁判所は執行処分取消の決定をなすべく、執行吏は右決定に基いて既になした執行処分の取消をなし得べきものと解するのが相当である。

してみると本件執行方法に関する異議申立を認容した原決定は正当であるから、本件抗告はこれを却下すべく、よつて民訴法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中正雄 裁判官 沢井種雄 裁判官 河野春吉)

抗告の理由

一、原決定は、仮処分異議事件において、口頭弁論の休止期間満了によつて、仮処分申請自体が取下げられたとみなすと解するものであるが誤りである。訴訟の形式、態様からのみ判断せず、訴訟の本質から判断すれば、この場合取下げられたとみなされるは、申請自体ではなく、異議の申立でなければならない。

二、更に仮りに左様でないとしても、当事者間には、別件の占有回収請求事件があり、目下最高裁判所に係属中であるが、当事者間に右訴訟の判決が確定するまでは、仮処分執行の取消を求めない旨の特約がある。このことは昭和二十八年十月二十八日休止満了したのち、約満五ケ年を経た今日にいたつて、相手方が取消の申立をなした事実のみから見ても明白である。原決定はこの点について何等の判断を示しておらない。よつて抗告に及ぶ次第である。

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