大阪高等裁判所 昭和34年(く)64号の1 決定 1959年12月02日
少年 T(昭一五・一〇・二五生)
主文
本件抗告はいずれもこれを棄却する。
理由
申立人Nの申立理由の要旨は、少年の共同非行者は処分未了中のHを除いてはみな保護観察所の保護処分に付され、右少年だけが中等少年院に送致されたが、少年は本件二回の非行に当つていずれも主導的立場にあつたのではなく、その責任においては他の共同者らと同等であると考えられるのみならず、少年は本件非行後逃走中を父兄の手によつて警察署に出頭させられたるものであり、その家庭は経済的に恵まれており、少年は家庭にあつて家業の米穀販売業を手伝い、母は継母であるが幼少の折から少年を愛育し実母同様の愛情をそそぎこれらによると少年の家庭は少年を保護監督するには充分である。又少年は従来平素真面目で近隣知己から親愛感を持たれていたもので、本件非行は一時の過誤にすぎず、更生の可能性は多分にある。以上を考え合せると少年に対してはその家庭において保護観察に付するのが相当であるといえるのに、他の共同者らと処遇を異にし、少年のみを中等少年院に送致することとした原決定は著しく不当であるというのである。
少年法の定める保護処分は決して刑罰ではなく、もつぱら本人の犯罪的傾向を是正し、社会生活に適応させるための保護育成を図ることを目的とするものであるから、非行少年各個別についてその虞犯性の多少等により保護処分の内容を異にするのはむしろ当然である。記録によると、少年の本件二回にわたる非行における行動は積極且つ主導的であり、その内容はいずれも重大且つ悪質であるのみならず、少年は喫煙をし、ダンスホール、スケート場に出入し、一時的享楽を追求する安易無規律の生活に親しんでいたもので、これらの事情によると、少年に対しては厳格な規律ある矯正教育を施す要があることが認められる。しかるにその家庭は経済的には余裕がある一方、従来少年の気ままにまかせていた傾向があり、その生活指導が充分であつたとはいえず、申立人らは本件非行後反省しているようであるが、その家庭にあつては、少年の更生を期待しえないといわねばならない。以上諸般の点を総合して考察すると、少年を中等少年院に送致することとした原決定は相当であると認められる。
次に申立人Mは少年の継母に当り、法定代理人でも附添人でもないので、原決定に対し抗告を申立てる資格はなく、本件抗告は不適法であるという外はない。
よつて本件各抗告はいずれも少年法第三三条第一項によりこれを棄却すべきものとして主文のとおり決定をする。
(裁判長裁判官 小川武夫 裁判官 三木良雄 裁判官 柳田俊雄)