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大阪高等裁判所 昭和34年(ツ)47号 判決 1960年2月11日

上告人 山崎としゑ

被上告人 株式会社マツダモータース

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は、上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由は、別紙のとおりである。

上告理由の第一点及び第三点について。

原審が昭和三四年五月一三日午前一〇時の最終口頭弁論期日に控訴代理人であつた上告代理人不出頭のまま結審し、これに対し控訴代理人がその翌日の五月一四日受付をもつて弁論の再開を申請し、さらに同月二〇日準備書面ならびに証拠調申請書を提出して控訴人(上告人)が被控訴人(被上告人)に昭和三一年春頃金五〇〇〇円を支払うことによつて一切済みとしたという新たな主張を用意するとともにこれを立証するため新たな証拠の申出をしたけれども、原審がこれを斟酌しないで判決したことは、記録上明らかである。しかし、控訴代理人が右期日に出頭しなかつた事由として原審で主張するところは、結局、その訟廷日誌の記載が誤つていたというに帰するのであるから、その責に帰することができない事由に基く不出頭ということはできない。そして、当事者の出頭を待たないで弁論を閉じることは、原審の裁量に属するばかりでなく、本件が昭和三三年九月一二日控訴審に係属してから右終結時までの約八個月の間に八回の弁論期日が重ねられているのであるから、控訴代理人において右終結時までにかかる新たな抗弁事実を主張し得る機会は十分にあつたというべきであつて、原審が弁論終局後に提出された右準備書面の記載を顧慮せず、延いてはこの点に関する証拠調をしないで判決しても、控訴人(上告人)が裁判を受ける権利を奪われたということはできないし、審理不尽にも当らない。したがつて、論旨は理由がない。

上告理由の第二点について。

原審は、被上告人が株式会社組織の下に相当の従業員と機械的設備を利用して小型自動車の修理等を業とする者であつて、上告人に対して自動車修理代金一七、一二〇円の債権を有することを確定したうえ、民法第一七三条第二号にいう製造人とは、近代工業的な設備を有せず単に手工業的な規模のもとに他人のために仕事をなし或は物の製造に従事する者を意味するものと解釈し、被上告人は同規定にいう製造人ではないから、被上告人の本件債権には短期時効に関する同規定は適用されないと第一次的に判断した。しかしながら、民法第一七三条第二号にいわゆる製造人とは、他人のために物の製造、加工、修理等の仕事をなすことを業とする者をいい、その生産様式、経営規模の如きは問うところではないと解するを相当とする。したがつて、被上告人の本件自動車修理代債権には短期時効に関する同条第二号を適用すべきであるにかかわらず、原審がこれと異なる法解釈にもとづいてなした右第一次的判断は法の適用を誤つた不当の判断といわなければならない。しかし原審は、第二次的判断において、かりに右規定の適用があり、本件債権が二年の短期時効により消滅するものであるとしても、上告人が昭和三一年八月三一日金五、〇〇〇円の内入弁済により本件債務を承認し時効の中断した事実を証拠認定し、本件債権は右短期時効により消滅したものではないことを判断しているから、結局において、原審が被上告人の本訴請求を認容した第一審判決を維持して上告人の控訴棄却の判決をなしたのは相当といわなければならない。したがつて、原審の第一次的判断の違法から直ちに原判決破毀の結論を導くことはできない。

上告理由の第三点(但し審理不尽の点を除く)について。

上告代理人は、原審の第二次的判断に関し、上告人の五、〇〇〇円弁済の日時及び本件債務を承認した事実そのものをも争つているけれども、これは、原審の専権事項である証拠の取捨判断を争い、その事実の認定を非難するに帰するものであるから、上告理由とすることができない。論旨は理由がない。

従つて、本件上告は棄却すべく、民事訴訟法第三九六条、第三八四条第一項、第二項、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 寺田治郎)

上告理由書

昭和三十四年(レツ)第一〇号

上告人 山崎としゑ

被上告人 株式会社滋賀マツダモータース

右事件の上告理由

一、原審判決は上告人(控訴人)代理人不在廷の儘結審せられての言渡であるが、

右控訴人代理人の不在廷は昭和三十四年五月十三日付弁論期日再開の申請書に委しく書いて置いた通りの事情であつて真に止むを得ざるものである。而して其後同年同月二十日付の準備書面及証拠申請書を提出して置いたが、

原審はこれ等を顧みることなく判決の言渡をなされたが、右は憲法三十二条で保障せられた何人も裁判所の裁判を受ける権利のはく奪であり、又審理不尽のそしりを免れない違法がある。

二、原審判決は民法一七三条二号についてその解釈を過つてゐる同条一号には生産者卸売商人等の売却代金を規定し、同条二号には居職人及製造人の仕事に関する債権を規定してゐる。一号の中には電気会社の電気料金も這入るとの大審院判決(昭和一二、六、二九言渡)ある位で一七三条は何も小さい業者丈に限る規定ではない。製造人等の仕事に関する債権の如きはその出来栄え又はその程度が多く過去のものとなりやすく債務者(被請求者)に於て時日の経過により立証困難となるを以てその抗弁を援助する為めこの規定が設けられたのである。

若し然らずとして右一七三条が原判決の言ふ如き単に手工業的な規模のもとに営業するものに限るとすれば大きな設備を有する者即ち大資本家は保護され小さい企業者は短期時効に服さねばならぬと言ふ不平等を生じ「法の下に平等であり経済的又は社会的関係においても無差別であるとする」とする憲法十四条に違反し違憲の法律となる。

同条は債権の種類によつて短期時効を決め、債務者(被請求者)の大小等は一切問うてゐない。従つて被請求者が大会社であろうと一小商人であり又は個人であろうと同じである。言う迄も無く短期時効を決めた趣旨は被請求者の保護にある(即ち長年月を経、証拠も無くなつた後請求を受けても尚その抗弁をしやすくするためである。)

被請求者の大小を論するなら兎も角却つて何の根拠もない請求者の大小によつてこれを区別せんとする原判決は福岡高裁二九年六月二十五日の判決によつたものであろうがその解釈は過つてゐる。

三、更に原審判決は上告人が昭和三十一年八月三十一日五千円を支払つた事を認定しこの事実を基礎として債務承認の法律効果を編み出された。

上告人は昭和三十四年五月二十日の準備書面に書いた様にその支払時期は右八月三十一日でなく、又この金は一切を済とする為めに出したもので被上告人の請求する金額の承認をしたものではない。

而も右金員授受に当つた人は証人に出て居らない、唯帳簿の記載によつてゐる丈である。

これを内入弁済と認定し更に債務承認とするにはもつと事実を確めることをしなければならない。

然るに原審は唯五千円の支払の事実のみを認定しこれを内入なりとし更に債務承認なりとしたのは事実の重大な誤認であるか審理不尽の違法がある

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