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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1170号 判決 1963年1月30日

控訴人 中西宏安

右訴訟代理人弁護士 吉川信太郎

被控訴人 馬場恭一

右訴訟代理人弁護士 坂井克巳

主文

一、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

二、被控訴人は控訴人に対し、原審認容の金額のほか、金三〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三一年一一月三〇日から右完済にいたるまで、年五分の割合による金員を支払え。

三、控訴人のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は、第一、二審を通じこれを六分し、その五を控訴人の負担、その一を被控訴人の負担とする。

五、控訴人勝訴の前第二、四項に限り仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、控訴人が本件土地上に本件建物を建築所有していたこと(ただし、本件建物中物置の坪数の点を除く)、ならびに被控訴人が昭和三〇年二月一九日本件建物を取り壊したことは当事者間に争がなく、原審における被控訴人本人の供述によれば、被控訴人において、右建物が控訴人の所有であることを知悉してこれを取り壊したことが明らかである。

被控訴人は右取り壊しにつき所有者たる控訴人の承諾をえた旨主張し、原審証人井口鉄之助の証言中には右主張に副う部分があるが、右証言は直ちに信用しがたく、かえつて、原審における証人酒井伊之助の証言に控訴人ならびに被控訴人本人の各供述を綜合すれば、被控訴人は訴外石垣荘太郎より賃借中の本件土地に控訴人が本件建物を無断建築したと主張して、これに抗議し、右取り壊しに先立ち控訴人に対し訴外酒井伊之助等を介してその撤去方を交渉させたが、結局、控訴人がこれを承認しなかつたことが認められる。

したがつて、被控訴人は右不法行為に基き控訴人に生じた損害を賠償すべき義務がある。

二、そこで、損害額についてみるに、成立に争のない甲第四号証≪中略≫を綜合すれば、本件建物は昭和二九年一二月頃新築されたもので、物置の坪数は約四坪であり、右建物の前記滅損当時における時価は、物置が建築に要する大工の手間賃ならびに材料費を加えて金二〇、〇〇〇円、板塀が同じく大工の手間賃、材料費を加えて金一〇、〇〇〇円、以上合計金三〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

もつとも、原審証人寺川湖三の証言ならびに同証言により成立を認めうる甲第一号証によれば、控訴人が本件建物建築直後の昭和三〇年二月八日右建物につき京都共済協同組合との間で締結した火災共済契約において、右建物の共済金額として金一〇〇、〇〇〇円の評価がなされているが、前記証人寺川湖三の証言によると、右評価額は右契約締結の衝に当つた京都市消防吏員の寺川湖三が、右契約締結のために形式的に定めたものにすぎず、なんら客観的合理的資料に基くものではないことが窺われるから、右事実は未だ前記認定を動かす資料とはなし難い。

また、原審証人山田勝也の証言により成立を認めうる甲第二号証には、建築業者山田勝也が昭和三〇年一月二五日控訴人より本件建物の建築を代金一二〇、〇〇〇円で請負い、右代金を受領した旨の記載があるが、右証人山田勝也の証言に徴すると、右書面は同人が控訴人の求めるままに作成したものでその内容は真実に合致しないことが明かであつて、同認定に反する控訴人本人の供述は右証言に比べて信用できないし、他に前認定を覆えすに足る証拠はない。しからば、控訴人は被控訴人の右建物取り壊しにより右認定の時価相当額金三〇、〇〇〇円の損害を蒙つたといわねばならない。

次に、控訴人主張の精神的損害について考察するに、成立に争のない甲第四、五号証≪中略≫を総合すると、控訴人は昭和二九年一一月頃訴外石垣荘太郎所有の本件土地に存する被控訴人所有の木造瓦葺家屋を買受け手附金を交付したが、当時右石垣は地上建物の所有者にその敷地を賃貸すべく予定していた関係上、控訴人は本件土地の賃借を予期して直ちに同地上の空地に本件建物を建築したところ、その後にいたつて、被控訴人との間で前記家屋売買代金残額の履行をめぐつて紛争を生じ、被控訴人は控訴人との右売買契約の解除を主張して訴外石垣との間に本件土地の賃貸借契約を締結したため、当事者間で右土地の賃借権の帰属につき争が生じ、被控訴人は控訴人に対し本件建物の撤去を要求し、控訴人がこれに応じなかつたため、昭和三〇年二月一〇日附内容証明郵便で適宜の処置に出でることを通告したうえ、これを取り壊すにいたつたこと、本件建物は控訴人がパチンコ機械の置場に使用する目的で建築した粗末なバラツク建であつたことが認められ、控訴人本人の供述中右認定に反する部分は信用できない。

右認定事実によれば、被控訴人は控訴人との間で本件建物敷地の賃借権の帰属についての紛争中において、その解決のため法的手段に訴えることなく自力救済に出でた点で、その加害方法は相当の非難に値いするものと認められるから、これによつて控訴人に少なからざる忿懣を感ぜしめたことは想像に難くない。したがつて、本件において、控訴人は前記建物滅損による財産的損害の賠償によつて慰藉されえない程度の精神的苦痛を蒙つたものとみるべきであるから、被控訴人は控訴人に対し右苦痛を慰藉するため相当の賠償をなすべき義務があり、右慰藉料額は前認定の諸般の事情を勘案して原審認容どおり金五、〇〇〇円を相当と認める。

四、しからば、控訴人の請求は原審認容の右慰藉料額金五、〇〇〇円のほか、さらに前認定の財産的損害金三〇、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日たること記録上明かな昭和三一年一一月三〇日から右完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余の請求は失当につき棄却すべきである。

よつて、本件控訴は一部理由があるから、原判決中控訴人敗訴部分を主文のとおり変更し、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九六条、第一九六条を適用して、主文のように判決する。

(裁判長判事 木下忠良 判事 斎藤平伍 中平健吉)

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