大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1194号 判決 1959年12月23日
控訴人 大槻泰一郎
被控訴人 富山工業株式会社
主文
原判決を取消し、本件を京都地方裁判所福知山支部に差戻す。
事実
控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し六九一、九七二円とこれに対する本件訴状送達日の翌日(昭和三四年九月一二日)から完済になるまで年六分の割合による金員を支払わねばならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
被控訴人訴訟代理人の事実上の陳述は左の通り補足したほかは原判決事実摘示と同一(但し岩藤喜三郎とあるを岩藤嘉三郎と、長谷川造とあるを長谷川[金榮]造と、田村栄三とあるを田村栄一と、青木自動車株式会社の債権額一八、五〇九円とあるを同一二、三〇九円と訂正した)であるから、それをこゝに引用する。
原判決摘示の債権者等が控訴人に本訴債権を譲渡したのは、同人等の住所が被控訴会社の営業所から遠隔の地にあつて取立に不便であり、且つ債権額が比較的小額であるのに取立に多額の費用を要するので、共同で取立てるのが便利であり、その負担を軽くすることにもなり、しかも一部の債権者か抜馳的取立をすることも避けうるところから、債権額に応じて費用を分担し且つ取立金を分配することを目的としたのであつて、一種の債権者団体(組合)を組織したのであるから、信託法第一一条に違反しないのみならず、控訴人は右譲渡の趣旨に従い訴外において債権取立のため種々奔走し、交渉を重ね最後に解決を図るため本訴に及んだに過ぎないのであるから、公序に反するところはない。
理由
控訴人の主張する趣旨が、本件債権の譲受は、それが比較的小額で、しかも債務者たる被控訴会社の営業所が譲渡債権者等の居住地からかなり遠隔の地にあつて取立に不便で、各個取立には費用がかさむという事情上、共同取立が便益であるためになされた(訴外において現にその目的を一部達成している)というにあることは、訴状及び添付書類の記載から容易に観取推察しうるところであつて、かゝる趣旨の下になされる債権の信託的譲渡は、もとより訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託行為を禁止した信託法第一一条に違反しないし、何等公序に反するところはないと解される。しかるに原審が本件債権譲渡を公序違反と即断し、被控訴人の弁論を聴くまでもないとして、その第一回口頭弁論期日の変更申請を却下し、弁論を終結して控訴人の請求を棄却したのは、法の解釈を誤り、よつて審理を尽さなかつたものであるから、原判決を取消しなお弁論審理を尽さしめるため民事訴訟法第三八九条により本件を原審へ差戻すことゝし、主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)