大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1483号 判決 1961年9月30日
京都市中京区釜座通夷川上る亀屋町三四三
控訴人
株式会社 西尾商事
右代表者代表取締役
西尾弥一郎
右訴訟代理人弁護士
種谷東洋
同区室町通三条西入
被控訴人
中京税務署長 前川太良右門
右指定代理人
南秀雄
同
中条日出二
同
北村元種
同
松原直幹
同
大森国章
頭書事件につき当裁判所はつぎの通り判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は原判決を取消す、被控訴人に対し昭和三二年五月三一日付通知書を以てなした昭和二九年七月一日より昭和三〇年六月三〇日に至る事業年度における控訴人の所得金額を金九〇〇、四〇〇円、法人税額を金三七八、一六〇円、重加算税額を金一六六、〇〇〇円とする再更正処分中所得金額一〇八、六〇〇円、法人税額四五、六一〇円を超える部分を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の関係は、控訴人において甲第一〇、一一号証を提出し、当審証人田中春栄、森上一夫の各証言、控訴人代表者西尾弥一郎本人の当審尋問の結果を援用し、乙第五号証の成立を認め、被控訴人において乙第五号証を提出し、甲第一〇、一一号証は不知と述べたほか、原判決記載の通りであるからこれを引用する。
理由
当事者間に争ない事実は原判決記載の通りであるからこれを引用する。
控訴人は、本件家屋は西尾弥一郎個人が昭和二八年一一月一〇日訴外田中源之助から代金七〇万円で買取つたが右売買は合意解除され、昭和二九年一二月六日同訴外人から訴外大同石油株式会社へ譲渡されたものであり、控訴人は単にその仲介をなしたにすぎないと主張し、成立に争ない甲第四、五号証の記載、原審証人松田茂八、藤原弘之、加藤信一、中村与一の各証言、控訴人代表者本人の当、原審供述中これにそう部分がある。しかし控訴人が不動産売買斡旋等およびその付帯事業を目的とする会社であることは成立に争ない甲第一号証により明であるからその代表取締役である西尾弥一郎が個人として会社と競業する本件不動産の売員に関与したとなすことはこれにつき株式総会の認許をえたとの主張立証のない本件においては首肯できないところであるし、西尾弥一郎と田中源之助間に本件不動産の売買が合意解除されたという確な証拠もない。また成立に争ない甲第八号証の控訴人の銀行勘定帳によると本件不動産の売買代金の一部が、その数額の真否は別として、控訴人の収入および支出として記入されていることおよび当審証人田中春栄は、訴外田中源之助は西尾弥一郎から本件不動産の売買代金としては金七〇〇、〇〇〇円を受取つたにすぎないと証言していることからみると、前項各証拠中控訴人の主張に合致する部分は到底採用することができず、却て成立に争ない乙第一号証の一、第三、四号証の各一部に原審証人藤原弘之(一部)、八神重信、中村与一の各証言と弁論の全趣旨を総合すると、控訴人の代表取締役西尾弥一郎は控訴人のため訴外田中源之助から昭和二九年五月四日本件不動産を代金七〇万円で買いうけ、同訴外人に対し同日手付金五〇、〇〇〇円を、残額は同年九月六日に支払い、同年一二月六日これを訴外大同石油株式会社に代金一、七五五、〇〇〇円で転売したことを認めることができる。もつとも甲第九号証の一、二、三によると、田中源之助は控訴人に対し、昭和二九年八月一〇日金一〇〇、〇〇〇円、同年九月六日金九〇〇、〇〇〇円、同月三〇日金一五〇、〇〇〇円を領収した旨の書面を渡し、甲第一〇号証によると同人は同年八月一一日金七〇、〇〇〇円、同年九月六日金六三〇、〇〇〇円、同月三〇日金一五〇、〇〇〇円を領収した旨の自署押印をしたことになつているので、右各書面の成立の認められる限り控訴人の本件家屋売買仲介の主張は、なお、代金額の点についてそごするが、一応の根拠を提供することになる。しかし、甲第九号証の一、二、三の署名は西尾弥一郎が記入し押印は田中源之助がしたとする原審証人藤原弘之の証言は当審証人田中春栄の証言に照し採用できず、また同号証および甲第一〇号証の成立を肯定する控訴人代表者本人の当、原審尋問の結果は右田中春栄の証言および弁論の全趣旨からみて措信できないから、右各号証を以て控訴人主張事実認定の資料となすをえない。他に前記認定を動かし控訴人主張の事実を認めるにたる証拠はない。
すると、控訴人は本件不動産の売却代金一、八五五、〇〇〇円からその買入代金七〇万円を差引いた額から被控訴人の自認する控訴人の支出した立退料一七五、四五〇円をさらに差引いた金八七九、五五〇円の利益をえたというべきである。されば被控訴人が右利益額より更正の際所得に計上した金八七、七五〇円を差引いた金七九一、八〇〇円を当初更正にかかる所得金額一〇八、六〇〇円に加算した金九〇〇、四〇〇円をもつて控訴人の所得金額となし、法人税額を金三七八、一六〇円とした再更正決定は適法であり、その取消を求める控訴人の本訴請求は失当であるから、これを排斥した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判長判事 岩口守夫 判事 安部覚 判事 藤原啓一郎)