大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1568号 判決 1960年5月13日
控訴人 辻忠次
被控訴人 石田恒次
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、
控訴代理人において、「(一)本件競売期日に出頭し、最高価競買の申出をしたのは控訴人であつて、最高価競買人が辻卯之助となつたのは競買申出の際、控訴人の先代卯之助が本件不動産を被控訴人から賃借し、競売期日には利害関係人として通知を受けていた経緯から誤つて被相続人たる卯之助の名を申出たからにほかならず、本件競落許可決定は有効である。(二)、控訴人は右不動産の登記名義人ではないから、被控訴人主張の抹消登記手続をする余地がない」と述べ、
被控訴代理人において、「控訴人が本件競売期日に出頭し、最高価競買の申出をしたこと、卯之助が右不動産を賃借し、競売期日には利害関係人として通知を受けていたことは争わない」と述べ
た外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
よつて、まず、控訴人の本案前の抗弁について考えるのに、控訴人は本件競売手続はすでに完了し、被控訴人は本件不動産につきもはや利害関係はないから本件訴は却下せらるべきであると主張するが、被控訴人は競売手続における瑕疵を理由に競落の不許を求めるものではなく、本件競落の無効なることを主張するものであるから、競売手続がすでに完了していてもその無効を主張しうるもので、もし右競落が無効であれば、被控訴人は未だその所有権を喪失していない筈であるから、被控訴人は本訴を提起するにつき訴の利益を有するものというべく、権利保護の利益に欠くるところがないから、控訴人の右抗弁は理由がない。
そこで進んで本案について考察する。
本件不動産が被控訴人の所有に属していたところ、京都地方裁判所昭和二九年(ケ)第三四号不動産競売事件において、昭和三一年三月一九日辻卯之助名義で右不動産の最高価競買の申出がなされ、同月二六日同人を競落人とする競落許可決定がなされたことは当事者間に争がない。
そこで、右競落許可決定が無効であるか否かについて考えるのに、成立に争のない甲第二号証によると、辻卯之助は右競売期日前たる同月一四日死亡していることが明らかであるが、控訴人が右競売期日に出頭し、競買の申出をしたこと、控訴人の先代卯之助が右不動産を賃借し、競売期日には利害関係人として通知を受けていたことは当事者間に争なく、原審における控訴人本人の供述によると、控訴人は右競買申出の際右の如き経緯から競買名義人を控訴人の先代卯之助名義として競買の申出をしたにすぎないことが認められ、控訴人は右競売手続において現実に競落人として競落許可決定を受けたもので氏名の被冒用者たる卯之助は何ら競買申出者として取扱われていないことが明らかである。ところで、競落許可決定は現実の最高価競買申出人に対しなされるものであるから、本件競落許可決定は控訴人を辻卯之助として控訴人に対しなされたもので、死者たる卯之助に対しなされたものではないというべきである。
そうすると、右競落許可決定は死者に対するものとして無効ということはできないから、右決定が死者に対するものとして無効であることを前提とする被控訴人の本訴請求はその余の判断をなすまでもなく失当として棄却を免れない。
よつて、これと反対に出でた原判決は失当であるからこれを取消し、民事訴訟法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉村正道 竹内貞次 大野千里)