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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)448号 判決 1963年3月18日

判   決

大阪市大正区三軒家市場通り二丁目一六番地末広荘三号

控訴人

日野仁

右訴訟代理人弁護士

東中光雄

石川元也

小牧英夫

右訴訟復代理人弁護士

小林保夫

宇賀神直

大阪市東区北浜五丁目二二番地

被控訴人

住友化学工業株式会社

右代表者代表取締役

土井正治

右訴訟代理人弁護士

松本正一

寺浦英太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人をその従業員として取扱い、控訴人に対し昭和三二年三月二八日以降一ケ月金一三、三〇〇円宛毎月二五日限り仮りに支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、疏明の提出、援用認否は、以下に補充する外、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。原判決八枚目表末行の「昭和一五年」を「昭和二五年」と訂正する。

控訴人の当審主張は別紙のとりでおある。

疏明(省略)

理由

控訴人の本件仮処分申請に対する判断は、以下に補充する外、原判決理由記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決二四枚目表一三行目の「張する」を「主張する」と訂正する。

控訴人本人の当審供述中右引用の判示事実に反する部分は信用し難く、他に右判示事実を左右するに足る資料はない。

控訴人の当審主張に対する判断。

労働契約締結当時より存在する就業規則所定の懲戒事由に該当するとして、労働者を懲戒処分する場合は、契約に基づく権利行使であるから、懲戒対象を企業秩序をみだす行為に限定する根拠はない。

仮りに、右の場合、懲戒処分も、企業秩序維持のため企業秩序をみだす行為に対してのみ行なわれるべきである、と解しても、就業規則所定の懲戒事由たる重要な経歴詐称は懲戒事由となりうるものと解するのが相当である。

けだし、引用原判決理由二の(三)の(1)に記載するところから明かなように、重要な経歴を詐称して企業に入る行為自体が企業秩序をみだす行為である、と解しうるからである。

経歴を詐称して企業に入る行為自体は懲戒処分の対象となりえない、との控訴人の主張は採用できない。

よつて、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西   勝

裁判官 中 島 孝 信

控訴人の当審主張

一、本件の如き経歴詐称はそもそも、懲戒事由となりえない性質のものである。

元来懲戒権とは、使用者がその雇傭する労働者に対し、企業秩序維持のため違反に対して不利益処分を行なう権利を意味する。そしてその権限の法的根拠については、就業規則法規範説や契約説によりその説明の仕方に差異はあるが、何れにせよ就業規則に懲戒規定がおかれた場合にのみ、これを根拠として認めえられるのである。しかし、就業規則に規定がおかれればすべて必ず懲戒事由となりうるものではない、懲戒処分が企業秩序維持のため、その違反に対して行なわれるものであるという本質から、懲戒処分の対象となるべき、被傭者の行為にも一定の限界があるものといわなければならない。

判例上では、経歴詐称が懲戒事由となりうる理由として、詐称によつて隠蔽された労働力の瑕疵と、企業秩序への入り方の不当性自体の二つが考えられているが、原判決は、その後者を強調している。

すなわち、「申請人の経歴詐称が極めて不信義性の高度のものである」という判示は、判例のいわゆる「労働契約締結における信義則違反」をいうものと解される。

しかし、企業への入り方自体というのも「入る」行為に関する以上企業の外における問題であつて企業秩序違反を構成することは理論上ありえない。けだし前述の如く懲戒権は、労働契約によつて、企業の中に入つて来た労働者に対し、その企業内における労働過程の円滑な運行のために企業秩序違反をとりしまるのであるから、このような「労働契約締結における信義則違反」は懲戒の対象となりえないことは明らかである。

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