大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)517号 判決 1960年9月20日
判 決
大阪市東区南本町五丁目一六
控訴人
大阪府中小企業信用保証協会
右代表者理事
中島百六
右訴訟代理人弁護士
富田貞男
服部恭敬
茨木市大字茨木一、七八五
株式会社井上帯革製作所更生管財人
被控訴人
堀川嘉夫
前同
被控訴人
津田正一
主文
原判決をつぎのとおり変更する。
控訴人が株式会社井上帯革製作所に対し金九四〇、七二〇円の更生担保権を有することを確定する。
控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審ともこれを一〇分し、その一を控訴人の負担としその余を被控訴人等の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。控訴人が株式会社井上帯革製作所に対し金一、〇一九、五〇〇円の更生担保権を有することを確定する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め被控訴人等は口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、以下に補充する外、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
控訴人は、
「本件不動産の時価はつぎのとおりである。
一、原判決添附目録一の宅地 二二五、〇〇〇円
二、同二の建物 六二、〇〇〇円
三、同三の建物 五三四、五〇〇円
四、同四の建物 一九八、〇〇〇円
合計 一、〇一九、五〇〇円
本件不動産中建物は更生会社の社員が使用貸借により無償で占有居住しているものにして賃貸借関係なきものであるから、担保権行使の暁には競落人において引渡命令を得て容易に明渡を求めることができる。従つて本建物の時価は明渡しの上売却する場合の時価によるべきである。」
と述べ、
証拠(省略)
理由
控訴人主張の事実中、更生会社が昭和二九年四月一二日更生手続を開始され、同日被控訴人等がその管財人に就任したこと、控訴人は、更生会社の所有の本件不動産につき、限度額五、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権(順位一番)を有するので、控訴人主張の額につき更生担保権の届出をしたところ、被控訴人等が、同年七月一六日の債権調査期日においてその内の金五二三、五九六円を承認したがその余の部分を否認したことは、被控訴人等の認めるところである。
更生担保権の額を限定する更生担保権の目的物の価額の算定は更生手続開始決定当時の時価によると解するのが相当である。
よつて本件不動産の昭和二九年四月一二日本件更生手続開始決定当時の時価を考える。本件不動産中各建物が控訴人の主張のとおり社宅または社員寮として利用され、更生会社の社員が使用貸借によつてこれに居住している事実は、被控訴人等の明かに争わないところであるから自白したものとみなす。
右事実によれば本件不動産中建物の右時価は賃借権なきものが居住する場合の時価であると認めるのが相当である。
控訴人は、「本件不動産中建物は更生会社の社員が使用貸借により無償で占有居住しているものにして賃貸借関係なきものであるから、担保権行使の暁には競落人において引渡命令を得て容易に明渡を求めることができる。従つて本件建物の時価は明渡しの上売却する場合の時価によるべきである。」と主張する。
しかし、競落不動産の引渡命令は執行債務者(債務者が担保物件の所有者でないときはその所有者)(及びその一般承継人)並びに競売開始決定が差押の効力を生じた後に競落不動産の占有を執行債務者から特定承継した者に対してのみ発しうるものと解するのが引渡命令の制度を認めた趣旨に照し相当である。従つて控訴人の主張は採用できない。
(証拠省略)によれば、右時価が、
一の宅地は、 一八〇、〇〇〇円
二の建物は、 四九、六〇〇円
三の建物は、 五一三、一二〇円
にして
四の建物は、控訴人主張の金一九八、〇〇〇円
を下らない価額である事実を認めることができる。
(中略)
よつて控訴人の本訴請求は、金九四〇、七二〇円の更生担保権の確定を求める限度においてこれを認容しその余は棄却すべく、これと同旨でない原判決を変更し、民事訴訟法第九二条第九三条を適用し主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第八民事部
裁判長裁判官 石 井 末 一
裁判官 小 西 勝
裁判官 井野口 勤