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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)544号 判決 1961年7月07日

判  決

大阪市西成区鶴見橋通八丁目六番地

控訴人

橋村利光

右訴訟代理人弁護士

川合五郎

鎌倉利行

八尾市大字八尾九六番地

被控訴人

八尾信用金庫

右代表者代表理事

板倉菊次郎

右訴訟代理人弁護士

西橋儀三郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金一、九〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三〇年四月二三日から支払済まで年六分一厘の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、

被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、以下に訂正補充する外、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴人は、

「(一)本件金二、五〇〇、〇〇〇円の無記名定期貯金者が控訴人及び訴外深田友治の両名であることを前提とする第一次請求を撤回し、本件無記名定期貯金の貯金者が訴外深田友治であることを前提とする転質権に基く請求のみを維持する。

(二)(1) 深田友治は、昭和三〇年四月二三日、被控訴人に対し金額二、五〇〇、〇〇〇円、期間、一ケ年、起算日、昭和三〇年四月二三日、期日、昭和三一年四月二三日、利率、年六分一厘の無記名定期貯金(本件貯金)をなし、被控訴人より宛名として無記名第二号殿と記載した無記名定期貯金証書(本件証書)の交付を受けた。

(2) 被控訴人は同日予め債権者を特定することなく本件貯金に質権を設定することを承諾した。

(3) 深田友治は、同日、安部信利より金一、九〇〇、〇〇〇円を借受け、その担保として本件貯金に質権を設定し、本件証書を安部信利に交付した。

(4) 深田友治は数日後被控訴人に対し口頭を以て右質権設定の通知をした。

(5) 安部信利は、昭和三〇年四月二三日、控訴人より金一、九〇〇、〇〇〇円を期限及び利息の定なく借受け、その担保として本件貯金に転質権を設定し、本件証書を控訴人に交付した。

(6) 安部信利は被控訴人に対しおそくとも昭和三五年一二月中に到達の内容証明郵便を以て右転質権設定を通知した。

(三) 控訴人が即時取得の効力として質権を取得したとの主張はこれを撤回する。」

と述べ、

被控訴人は、

「控訴人の右の(二)主張事実中、(二)の(1)及び(6)の事実は認めるがその余の事実は争う。」

と述べ、

証拠(省略)

理由

深田友治が、昭和三〇年四月二三日、被控訴人に対し金額、二、五〇〇、〇〇〇円、期限、一ケ年、起算日、昭和三〇年四月二三日、期日、昭和三一年四月二三日、利率、年六分一厘の本件無記名定期貯金をなし、被控訴人より本件証書の交付を受けたことは、当事者間に争がない。

(証拠)によれば、深田友治が、昭和三〇年四月二三日、安部信利より金一、九〇〇、〇〇〇円を数日後弁済の約で借受け、その担保として本件貯金に質権を設定し、本件証書を安部信利に交付した事実を認め得る。(中略)

(証拠)によれば、深田友治が昭和三〇年四月末日頃安部信利に対し前記借受金元利金債務を完済した事実を認め得る。(中略)

ところで、転質の効果として、原質権者は、その被担保債権額が転質権者のそれに超過する場合に限り、その超過額の範囲内においてのみ、自己の債権の弁済を受ける権利を有し、右の場合及び範囲以外は、自己の債権の弁済を受け得ないものと解すべきであるが、右転質の効果を原質権被担保債権の債務者に対抗するためには、原質権者より債務者に転質権設定の通知をするか又は債務者がこれを承諾することを要するものと解するのを相当とする。

これを本件についてみるに、前記認定の深田友治の安部信利に対する原質権被担保債務の弁済以前に、原質権者たる安部信利より原質権被担保債権の債務者たる深田友治に転質権設定の通知をしたこと又は深田友治がこれを承諾したことについては、控訴人の主張がない。のみならず、(証拠)によれば、右の弁済以前に右の通知又は承諾のなかつた事実を認め得る。(中略)

したがつて、控訴人主張の原質権は、仮りに有効に成立したとしても、前記認定の深田友治が安部信利に対しなした原質権被担保債務の弁済により、消滅したものと認められる。

原質権が消滅すれば、転質権は消滅する。

よつて、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断をなすまでもなく失当であるから、これを棄却すべく、本件控訴を棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 小 西  勝

裁判官 岩 本 正 彦

裁判官 大 野 千 里

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