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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)76号 判決 1960年2月27日

京都市上京区黒門通一条下る

控訴人

金本成球

右訴訟代理人弁護士

上西喜代治

京都市中京区錦小路高倉西入る西魚屋町六〇六

被控訴人

京都府商工共済事業協同組合

右代表者 代表理事

山村謙一

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、主文同旨の判決を求め、

被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、以下に補充する外、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

被控訴人は、

「本件電話加入権は、京都市北区紫野南舟町八〇の一六、中川与三吉の権利に属し、電話加入原簿に同人名義に登録され電話機も同人の右住所に設置されていたものである。

中川与三吉は、昭和三三年二月頃、八田章と本件電話加入権譲渡契約を締結し、電話取扱局に届出の印鑑を押捺した中川与三吉作成名義の電話加入権譲渡承認請求書(譲受者名欄白地)を八田章に交付し、八田章は、その頃、被控訴人と本件電話加入権譲渡契約を締結し、被控訴人に前記中川与三吉作成名義の電話加入権譲渡承認請求書を交付した。

被控訴人は、昭和三三年三月五日、京都市上京区一条通御前西入三筋目上る西町二六福山素温と代金完済まで権利移転の効果の発生を留保した、原判決事実記載のとおりの、本件電話加入権譲渡契約を締結し、同月一二日、前記電話加入権譲渡承認請求書の譲受者名欄に(住所)上京区一条通御前西入三筋目上る西町二六、福山瞳と記入した上、これを京都中央電話局西陣分局に提出し、日本電信電話公社(公社)は、これを承認し、電話加入原簿に福山瞳名義に権利移転の登録をなし、電話機の設置場所も中川与三吉の住所より福山素温の住所へ変更された。

福山瞳という名称は被控訴人の別名であるから、中川与三吉の権利に属した本件電話加入権を被控訴人が譲受けるについて公社の承認あり、電話加入原簿に本件電話加入権が被控訴人の権利に属する旨登録されたことになる。

よつて被控訴人は、本件電話加入権の権利者として、控訴人に対し、本件仮差押の執行の排除を求める。」

と述べ、

証拠として被控訴人は、甲第六号証を提出した。

理由

控訴人が訴外福山素温に対する京都簡易裁判所昭和三三年(ト)第八一号同年四月四日付電話加入権仮差押命令に基き、京都市上京区一条通御前通西入三筋目上る西町二六の福山素温住所に電話機が設置されている福山瞳名義の西陣分局(45)一九七一番の電話加入権(本件電話加入権)に対し仮差押の執行をしたことは当事者間に争ない。

成立を認め得る甲第六号証(中略)弁論の全趣旨を綜合すればつぎの事実を認めることができる。

本件電話加入権は、京都市北区紫野南舟岡町八〇の一六、中川与三吉の権利に属し、電話加入原簿に同人名義に登録され、電話機も同人の右住所に設置されていた。中川与三吉は、昭和三三年二月頃、八田章と本件電話加入権譲渡契約を締結し、電話取扱局に届出の印鑑を押捺した中川与三吉作成名義の電話加入権譲渡承認請求書(譲受者名欄白地)を八田章に交付し、八田章はその頃、被控訴人と本件電話加入権譲渡契約を締結し、被控訴人に前記中川与三吉作成名義の電話加入権譲渡承認請求書を交付した。被控訴人は昭和三三年三月五日京都市上京区一条通御前西入三筋目上る西町二六、罐維ブローカー福山素温(世帯主)と本件電話加入権について、代金一三〇、〇〇〇円、内金三〇、〇〇〇円は即時払、残金は毎月一五日限り金五、〇〇〇円宛控訴人方に持参して支払う、右代金完済に至るまで本件電話加入権の被控訴人への権利移転の効果は発生しない、代金支払を一回でも怠つたときは契約を解除することができる、電話加入者名義は、福山素温の姓と被控訴人組合代表者山村謙一の娘瞳の名とを結合し、福山素温の住所と同所同番地を住所とする福山瞳名義を使用する、との約旨で譲渡契約を締結し、同月一二日、前記電話加入権譲渡承認請求書の譲受者名欄に(住所)上京区一条通御前西入三筋目上る西町二六、福山瞳と記入した上、これを京都中央電話局西陣分局に提出し、公社は、これを承認し、電話加入原簿に福山瞳名義に権利移転の登録をなし、電話機の設置場所も中川与三吉の住所より福山素温の住所へ変更された。被控訴人が前記電話加入権譲渡承認請求書譲受者名欄に福山瞳と記入してこれを前記電話取扱局に提出したのは、公衆電気通信法第二八条により、電話機の設置の場所が、加入者の居住の場所、事務所若しくは事業所又は加入者たる法人の役員、加入者の使用人その他加入者の行う事業に従事する者の居住の場所に制限されているため、被控訴人組合名義にすれば電話機を福山素温の住所へ設置することができないことがその一原因である。

以上の事実を認めることができる。

被控訴人は、「福山瞳という名称は被控訴人の別名であるから、中川与三吉の権利に属した本件電話加入権を被控訴人が譲受けるについて公社の承認あり、電話加入原簿に本件電話加入権が被控訴人の権利に属する旨登録されたことになる。」と主張する。

電話加入権の譲渡は、当事者の合意の外、公社の承認あることによつて効力を発生する(公衆電気通信法第三八条第一項)。

よつて被控訴人が中川与三吉名義の本件電話加入権を譲受けるについて公社の承認があつたか否かについて判断する。

被控訴人が福山瞳という自然人の氏名を被控訴人の別名とする主観的意図を以て前記譲渡承認請求書を前記電話取扱局に提出したとしても、それは被控訴人の内心の問題にすぎない。

公社が、電話加入権の譲渡を承認したとき、及び公社が、電話加入権に対する滞納処分による差押に関する書類、電話加入権に対する強制執行による差押又は仮差押若しくは仮処分に関する命令書を受け取つたとき、すべて電話加入原簿にその旨登録される(公衆電気通信法第四〇条)。すなわち、電話加入原簿の登録は電話加入権の排他的権利変動に関する公社及びその他の第三者に対する公示方法である。

従つて、本件電話加入権譲渡承認請求書及び電話加入原簿に本件電話加入権譲受者として記載された福山瞳という自然人の氏名が、公社及びその他の第三者に対し、被控訴人すなわち京都府商工共済事業協同組合という名称の法人の別名としての効力を有するということはあり得ないから、譲受者福山瞳と記載した本件電話加入権譲渡承認請求書をもつてなされた譲渡承認請求に対して、公社がなした承認は、被控訴人京都府商工共済事業協同組合の本件電話加入権譲受に対する承認としての効力はない。

よつて、被控訴人の本件電話加入権譲受について未だ公社の承認なく、本件電話加入権の被控訴人への権利移転の効果は未だ発生していないから、被控訴人が本件電話加入権の権利者であることを原因とする被控訴人の本訴請求は失当である。

もつとも、本件において、電話加入原簿に記載された福山瞳という氏名を福山素温の別名と解することができないならば、電話加入原簿に本件電話加入権について中川与三吉名義より福山瞳名義に権利移転の登録がなされたことは何等の効力もないから、中川与三吉は本件電話加入権の権利者として控訴人に対し第三者異議の訴を提起できる。従つて被控訴人は中川与三吉の権利を代位行使(八田章の有する代位権の代位行使)して控訴人に対し第三者異議の訴を提起できる筋合である。

しかし、前記認定のとおりの本件事実関係の下においては、中川与三吉と福山瞳という氏名を別名とする福山素温との本件電話加入権譲渡承認請求に基き、電話加入原簿に本件電話加入権について中川与三吉名義より福山素温の別名である福山瞳名義に権利移転の登録がなされたものと認めるのが相当である。

従つて、被控訴人と福山素温との間に締結された本件電話加入権譲渡契約において代金完済まで権利移転の効果の発生が留保されたとしても、民法第九四条第二項により、善意の第三者に対抗できない筋合である。

控訴人が善意の第三者であることは前記認定の事実より推認できる。

従つて、被控訴人が本訴請求の原因として代位権を主張しても理由がない。

よつて被控訴人の本訴請求はこれを棄却すべく、これと同旨でない原判決を取消し、民事訴訟法第三八六条第八九条第九六条を適用し主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 小西勝

裁判官 大野千里

裁判官 井野口勤

(参考―原判決)

昭和三三年(ワ)第三八六号

昭和三三年一一月二八日言渡

判決

京都市中京区錦小路高倉西入る西魚屋町六百六番地

原告 京都府商工共済事業協同組合

右代表者 代表理事 山本謙一

右訴訟代理人弁護士 谷口英志

京都市上京区黒門通一条下る

被告 金本成球

右訴訟代理人弁護士 上西喜代治

右当事者間の昭和三三年(ワ)第三八六号第三者異議事件につき当裁判所は昭和三十三年十月三日終結した口頭弁論に基いて次のとおり判決する。

主文

被告が訴外福山素温に対する京都簡易裁判所昭和三三年(ト)第八一号同年四月四日付電話加入権仮差押命令に基き西陣分局(45)一九七一番の電話加入権に対してなした仮差押執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実(省略)

理由

原告主張の仮差押命令に基きその主張の場所に設置されていた本件電話加入権を被告において仮差押したこと、本件電話加入権の加入名義人が福山瞳であることは当事者間に争のないところである。

更に証人福山素温の証言(中略)を綜合すると原告は福山素温と昭和三十三年三月五日本件電話加入権について代金十三万円、内金三万円は即時払、残金は毎月十五日限り金五千円宛を原告方に持参して支払う。右代金完済に至るまで本件電話加入権は原告に所属する。右代金を完済したときは福山素温に帰属し同人名義に切替える。代金の支払を一回でも怠つたときは契約を解除するとの約旨で売買(月賦)する契約を締結した、ところで原告としては原告名義の電話を原告の住所または営業所以外の場所に設置することが許されていないので電話架設工事のときの場所を判然とさせるためもあつて原告は自らの名義をそのまま使用せず福山の氏と原告組合の代表者山村謙一の娘瞳の名をとつて原告を表示するため福山瞳なる仮名を使用して電話局に届出て福山素温宅に本件の電話を設置したのである、しかし福山素温は代金の内約定による即時払の三万円を支払つたのみで残金の支払を一回もしなかつた。それで原告は右の不払を理由として昭和三十三年九月九日付内容証明郵便を以て右の売買契約を解除する旨の意思表示をなし同日頃同郵便は福山素温に到着したことが認められる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。従つて右の認定事実によると原告と福山素温間においては約定の代金の完済あるまで本件の電話加入権を原告において保有するというのであつて福山素温に譲渡された結果直接福山素温の名義とせず一時福山瞳なる名義を使用したというのではない。福山瞳なるものは実在しないのであつて、原告が自らを表示するために用いた仮名で原告自身のことである。法第三十八条によると電話加入権の譲渡は公社の承認を受けなければその効力を生じないとされているのである。本件の売買において公社の承認を受けていないことは弁論の全趣旨から明らかなところであつていまだ譲渡の効力を生じていなかつたものである。まして福山素温において売買代金を完済せず、なお代金支払を理由として売買契約が解除された以上譲渡の効力の生じないのはなおさらである。本件の電話加入権は依然として原告にあるものというべきである。

被告は(一)及び(二)において福山瞳なる名称は福山素温の別名である如く主張するのであるがこれを認めるに足るような証拠はない。勿論法第二十八条によると電話の設置場所は加入権者の居住場所事務所又は事業所に限定する旨規定されているが、これは貸電話を一切許さぬことと、電話の利用関係の複雑化、その事務の煩雑化を防止する趣旨に出でた制限にすぎない。従つてこの規定の反面として直ちに電話の設置場所の福山家の世帯主たる福山素温が直ちに電話の加入権者であるともいえないし、又福山素温が福山瞳なる別名を以て加入したものであると即断も出来ない。かかる規定に違反してなされた電話の設置は法第四十二条に基き公社において電話加入契約を解除することが出来るのである。なお証人福山きり子の証言によると昭和三十三年四月一日頃本件の電話が架設せられて後福山瞳名義によつて電話料金の請求がなされて来たが、その電話料金を一回位福山素温において支払つたことがあるように窺えるが、この一事だけで直ちに福山瞳名義の本件電話加入権が福山瞳こと福山素温のものであるということは出来ない。

被告は又法第三十八条によると電話加入権の譲渡は公社の承認を受けなければその効力を生じない旨定めているから加入権者とは公社の承認したもののみに限られると主張するが、なるほど当事者間における譲渡は公社の承認あつてはじめてその効力を生ずるのである。しかし電話の加入契約をなすときの加入契約に基く加入名義人が加入権者である、本件では加入名義人が福山瞳である。前段において認定したところによると福山瞳なるものは実在しないものであつて勿論福山瞳と福山素温又は原告との間に譲渡の関係は存しないのである。ただ福山瞳は福山素温又は原告のいずれの別名なりやの問題であるにすぎないから被告がここで法第三十八条に基いて云々するのは理由がない。

被告は(三)において原告が真実の電話加入権者であるのに福山素温が加入権者であるかのように仮に装つていたとしても名義のない原告は善意の第三者である被告に対抗出来ないと主張するようであるが、本件電話加入権の加入名義が原告から福山素温に変更せられて名義上福山素温が加入権者を装つた事実は本件にはないのであるし、本件電話加入権の加入名義人は福山瞳であつて、福山瞳なるものは実在せず、福山素温の別名でもない、原告の用いた仮名で原告自身のことであることは前段で認定した通りである。しかも被告は福山素温に対する約束手形金債権の強制執行を保全するため福山素温名義でなく、福山瞳名義の本件電話加入権の仮差押をなしたのであるから、本件においては被告のこの主張は当らない。

以上の通りだとすると本件電話加入権が福山素温に属することを前提として原告に属するものに対してなされた本件の仮差押は排除を免れない、原告の本訴請求は理由があるからこれを正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

京都地方裁判所

裁判官 石崎甚八

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