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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)850号 判決 1960年1月14日

控訴人 英和石油株式会社

被控訴人 日本建設株式会社

主文

原判決を左の通り変更する。

原裁判所が昭和三四年(ヨ)第一、〇八二号仮処分申請事件につき同年四月二五日にした仮処分決定は、控訴人が金一〇〇万円の保証を立てることを条件としてこれを取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は右取消の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

控訴人は「原判決を左の通り変更する。主文第二項表示の仮処分決定は、控訴人が金二〇万円の保証を立てることを条件としてこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の主張は

控訴人において

「原判決が本件仮処分を取消すのに被控訴人主張の工事残代金二八七万円を基準としてこれと同額の立保証を条件としたことは、次の諸点から不当である。

1、被控訴人は控訴人に対し金二八七万円の請負工事残代金債権を有するというが、それは契約上の確定債権とは異なり、注文者である控訴人が被控訴人の実施した工事出来高を検査して控訴人と協議を経なければ確定しない性質のものであるところ、控訴人は未だ本件工事出来高を査定していないから、被控訴人主張の債権は全く未確定である。

2、仮りに被控訴人主張の債権が工事出来高に応じて確定し得る状態にあるとしても、被控訴人の主張する二八七万円という額は不当、過大である。工事上の外注品関係で計四三万一、五八一円の暴利を計り、中止工事分に見合う経費九万円を控除していないし、室名文字は取付けていないのにその取付費として六、六〇〇円を計上しているほか、三五万七、三三一円の水増しを行なつている。

3、被控訴人の建築した建物の天井、防火壁の諸所に亀裂を生じ、事務室の床がでこぼこになつている等、施行上の粗悪、欠陥のため補修に四〇〇万円以上が見込まれる状態であつて、被控訴人が手直し工事をしないので、控訴人はかかる工事上の瑕疵に因る工事代金の減額を請求し、工事総見積費の約一割の値引を折衝したが、折合わなかつたものである。

4、被控訴人は本件建物を占有している間、殊に本件仮処分によつて本件建物への控訴人の立入が禁止されてからも、控訴人の設備した電話、水道、電気施設を自由に利用しているから、その使用料は当然被控訴人が負担すべきであるにかかわらず、昭和三四年三月以降の分で計一二万五、三六〇円を控訴人において立替支出している。

5、被控訴人は本件仮処分の本案訴訟では前記二八七万円の内二〇〇万円を手形債権として請求しているから、これだけは被控訴人の留置する物件との牽連性がなく、したがつて、本件仮処分取消訴訟では右手形債権相当額だけ控除されるべきである。

6、本件仮処分を発令したときに被控訴人に立てさせた保証が二〇万円であるから、その取消を求める本件では、権衡上同額の保証にとどめるべきである。」

と述べ、

被控訴代理人において「原判決は控訴人の申立を全面的に認容しているから、本件控訴は利益を欠く。控訴人のその他の主張はすべて理由がない。」と述べたほか、

原判決の事実摘示の通りであるから、これを引用する。

疎明関係

控訴人は、甲第一ないし第五号証、第六号証の一ないし四、第七ないし第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし八を提出し、甲第一二号各証は本件仮処分物件の写真であると説明し、原審証人加藤正男、滝口光男、原審ならびに当審証人木下桂佑の各証言を援用し、乙第五号証は不知、その他の乙各号証の成立は認めると述べ、乙第一、第八号証を利益に援用し、検乙第一、第二号証が被控訴人説明の如き写真であることは認めこれを利益に援用すると述べ、被控訴代理人は、乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし三、第五ないし第八号証、検乙第一、第二号証を提出し、原審ならびに当審証人和田周二の証言を援用し、甲第一、第二号証、第五号証(但し原本の存在も合わせて)、第六号証の二、三、第七ないし第九号証、第一一号証の一、二の成立を認め、甲第三、第四号証、第六号証の一(但し原本の存在も合わせて)、第一〇号各証の成立は不知、甲第一二号各証が本件仮処分物件の写真であることは認めると述べ、甲第六号証の二を利益に援用した。

理由

被控訴人は控訴人の本件控訴は利益がないと主張するけれども、控訴人が原審の立保証の額を争うものであることその主張に照らして明らかであるから、被控訴人の右主張は理由がない。

本件仮処分決定を取消す特別事情の存する点についての当裁判所の判断は、原審の認定と同一であるから、原判決の理由中の関係部分(ただし被申立人とあるは申立人の誤りにつきこれを訂正したうえ)をここに引用する。

そこで、控訴人にどの程度の保証を立てさせることが相当であるかの点についてみるに、

(一)  成立に争のない乙第一、第三号証、第四号証の一ないし三、第八号証、甲第六号証の二、第七、第八号証、当審証人和田周二の証言により成立の認められる乙第五号証、右証人の証言原審証人滝口光男の証言を綜合すると、被控訴人が控訴人から当初七五〇万円の代金で請負つたシエル石油阿倍野給油所新設工事については、着工後控訴人の要請により再三にわたつて設計の変更ならびに工事の追加があつたので、請負代金も増嵩し、被控訴人は中止工事については工事費内訳明細書によりその金額を減じ、追加分については追加工事費見積書を控訴人に提出し、その承認を得て工事を進め、請負代金については各月毎に工事の出来高明細書を控訴人に提出し、控訴人の査定を経てその出来高金額の範囲内で支払を受けていたこと、昭和三四年一月二〇日頃までの工事出来高調査金額が九四五万円に達し、これに対し控訴人は昭和三三年の年末までに七〇〇万円を支払つたほか、同年一二月末頃に金額一〇〇万円、支払期日昭和三四年三月二〇日の約束手形一通、昭和三四年一月二四日に金額一〇〇万円と五〇万円、支払期日いずれも同年四月五日の約束手形各一通を被控訴人に交付し、そのうち最初の手形金一〇〇万円については昭和三四年三月二二日頃内金五〇万円を支払い、残りの五〇万円と他の右二通の手形については、支払期日を同年四月二五日とする約束手形三通に書替えられて、被控訴人が現にこれを所持していること、控訴人は被控訴人との間に昭和三四年二月中旬にいたり、同年一月二〇日頃以降の追加工事の未決定分については同年二月下旬までに双方協議の上決定し、工事精算残金は工事竣工引渡しと同時に現金をもつて支払うことを取決め、被控訴人の側で同月二八日既往の追加工事分も含めた工事一切の未決定分として二八七万円の見積書を提出したが、この査定をめぐつて妥結をみないまま、同年四月二〇日頃交渉が決裂したことが認められる。これらの事実に徴すると、被控訴人の主張する工事残代金二八七万円の内少くとも二〇〇万円はすでに工事出来高に対して控訴人が査定して確定した金額であると認められるから、被控訴人は控訴人に対し少くとも二〇〇万円の工事残代金債権を有するものといわなければならない。

(二)  さらに本件仮処分物件の写真であることに争のない甲第一二号証の八と当審証人木下桂佑、和田周二の各証言によれば、被控訴人の施工した建物の天井及び防火壁面の諸所に亀裂を生じ、事務室の床はでこぼこがあつて什器類を置くにも支障を来たす程であることが認められ、これは工事上の瑕疵にも原因することがうかがわれるのであつて、前記未決定分の査定交渉の過程で控訴人が被控訴人に工事代金の減額を請求したことが認められる。

(三)  控訴人は右(一)に認定した工事残代金二〇〇万円についても不当、過大を主張するが、これを認める疎明はない。控訴人主張の電話、水道、電気の各使用料の点についても、被控訴人が負担すべきものを控訴人が立替支出したことの疎明がないから、右主張は採用し得ない。さらに、控訴人が本件仮処分の本案訴訟ならびに本件仮処分発令時の保証額との関連において主張する所論は、いずれも主張自体理由がない。

以上の各認定事実を綜合して控訴人に立てさせる保証は金一〇〇万円をもつて相当と認めるので、原判決を変更し、控訴人が金一〇〇万円の保証を立てることを条件として本件仮処分決定を取消し、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条、第八九条、仮執行の宣言につき同法第七五六条の二を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 澤栄三 木下忠良 寺田治郎)

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