大阪高等裁判所 昭和35年(う)147号 判決 1960年4月01日
被告人 少年 Y子(昭一六・七・九生)
〔解説〕控訴審にも少年法第五五条の適用があることについて異論のないところであるが、同条の決定をする際に、本件のように主文において単に事件を家庭裁判所に移送するとするか(なお、家庭裁判月報昭和二五年六号二三二頁名古屋高等裁判所の決定参照)、あるいは、昭和三四年一〇月一五日高松高等裁判所第一部判決(家庭裁判月報一一巻一二号一五四頁)のように原判決を破棄(刑事訴訟法第三九七条第二項)した上で家庭裁判所に移送するか、裁判例は一定していない。これは少年法および刑事訴訟法の規定の不備によるものであり、立法論として研究の余地があろう。
主文
本件を大阪家庭裁判所に移送する。
理由
本件公訴事実は原判示第一の(一)(二)及び第二の事実と同一であるからこれを引用するが、記録について審理すると、右第一の(一)(二)は被告人とK及びFの三名共謀の窃盗であり、第二は同人らと共謀のいわゆる自動車強盗による致傷であり、その動機態様等からみると犯情は必ずしも軽いとはいえないけれども、被告人は幼にして生母に先立たれ父のみによつて生育された少年であつて、その境遇上愛情にうえていたためと温かい保護指導に欠いていたため、思慮分別が浅く、現実の利欲追求に走り、悪友と交わり、生活の指針を失つて本件をひき起すに至つたもので、温情ある指導と監督とをもつてすれば、被告人を更生させることができると期待され、又それによつて更生させるのが至当であると考えられるのに対し、父勇は原審において証人としてその決意を明らかにしており、又当審において親族の者らと連署をもつて被告人を善導すべきことを上申しているので、被告人を刑事処分に付するよりは保護処分に付するのが被告人に対する処遇としてむしろ相当であると認められるから、少年法第五五条により本件を大阪家庭裁判所に送致することとして主文のとおり決定する。
(裁判長判事 小川武夫 判事 三木良雄 判事 柳田俊雄)
別紙 (原審判決)
主文
被告人Fを懲役四年以上六年以下に
被告人Kを懲役四年以上五年以下に
被告人Y子を懲役三年六月以上四年六月以下に
各処する。
未決勾留日数中各四〇日を右各本刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人等はいづれも少年であるところ、被告人Fは幼時実母に生別し義母に育てられ、中学生の頃友人と一緒に強盗をしたことで少年院に入つたことがあり、昭和三二年一〇月一四日前の仲間と再び強盗の予備をしたことで、神戸地方裁判所で懲役一年六月(執行猶予四年)に処せられ保護観察中の者であるが、その後実兄の家から工場勤めに出ていたが、朝鮮料理店のコツクに代つたりして長続きせず、昭和三四年六月頃からとうとう大阪市西成区○通り○丁目の○和会に入つてヤクザの仲間入りをして、同会の事務所で寝起きするようになつたもの、
被告人Kは、大阪○○商業高校中退ののち実父の計いで東京の喫茶店のバーテンをやつていたが、昭和三四年四月頃勝手に帰阪して実父の所に帰らず、その幼時実父と離婚した実母の同市西成区○通り○丁目の○花○方に身を寄せ氷配達などをしていたもの、
被告人Y子は幼時実母に死別し、○○○中学卒業後一年ほど女工員をしたのち、実父に内密でバーや飲食店に働いていたもので、被告人Kと同Y子は、昭和三四年七月頃キヤバレーへ踊りに行つて知り合い、まもなく関係ができて前記の○花○方で同棲するようになつたが、二人共仕事もせず、近くの○和会事務所へ遊びに行つたりして被告人Fと友達になり、毎日のように落ち合つて遊び歩くうち、被告人Fが海水浴場で喧嘩して胸を刺されて半月ほど入院したあと、会に居れなくなつてそこを飛び出し、安宿を転々とするようになつて金に困りたまたま少年院時代の友人Hが自動車でも盗んで来たら捌いてやるというので、盗みをして生活費、遊興費を得ようと考え、当時同じように金に困つていた被告人K、同Y子に相談したところ、賛成したので、
第一(一) 被告人ら三名共謀の上、昭和三四年九月一〇日大阪市西成区○通り○の○阪○楠○方玄関先で、同人所有自転車一台(時価三千円)を、同日同市同区○○○○通○ノ○永○荘アパート玄関先で○下○夫所有の自転車一台(時価一万円)を各窃取し、
(二) 翌同月一一日被告人F、同K共謀の上、同区○○○×ノ××○鶴荘で○西○雄所有の自転車一台(時価三千円)を窃取し
第二 被告人ら三名は、まとまつた金を入手するため自動車を盗つて売ろうとかねがね相談していたが、昭和三四年九月十二日その日同居先の○花○と口喧嘩して家を出て来た被告人Kと同Y子が、被告人Fの止宿先同市西成区○○町の○成荘に落ち合い、東京へでも飛ぶために自動車強盗を決行しようということになり、捌き易いように白ナンバーの自動車をねらい、女を送つて行くように見せかけて乗車し、家を探すような様子をして人通りの少ない帝塚山住宅街の淋しい所でストツプさせて、運転手を殴り車を奪つて、被告人Kが運転して逃げることなど具体的な相談をして、同夜八時半頃宿を出た。各所で時間待ちをして、途中の同区○○町附近の薪炭商で薪木二本を手に入れ、被告人Kがその一本、被告人F、同Y子が別の一本を交互にかくし持ち、同市阿倍野区○○○斎場附近で自動車を物色するうち、同日午後一一時三〇分頃同頃○○○○筋○丁目○○番地先附近路上で、○上○蔵の運転する自家用車(大五そ-○六○五号)を呼びとめ、かねて打ち合せの通りこれに乗客を装つて乗り込み、家を探している風をして帝塚山住宅街をぐるぐる廻るうち、翌一三日午前零時三〇分頃、同市住吉区帝塚山○○丁目○番地先路上に差しかかつた際停車を命じ、被告人Y子が家を探すように装つて下車した上、突然被告人F、同Kにおいて、各所携の薪木(証第一号)をもつて右○上の頭部等を殴打し、同人を車外に放り出し、更に前記薪木等で殴打する等の暴行を加えてその反抗を抑圧した上、被告人Kにおいて前記自動車を運転して逃げようとしたが、車が動かなかつたので、○上○蔵所有の腕時計一個及び現金千二百円在中の手提鞄一個を強取したが、その際同人に対し、治療約一ケ月を要する頭部挫創、脳震盪、左小指挫傷等の傷害を与え
第三、被告人Fは、前記の○和会事務所で寝起きしていた頃、仲間のSと共謀の上、昭和三四年七月一日頃、大阪市西成区○○通○丁目○春○荘アパート前路上で○村○郎所有の原動機付自転車一台(時価三万円)を窃取した外S又はMと共謀の上、別紙犯罪一覧表記載の通り、同月一三日頃から八月二〇日頃までの間、同市同区○○通○丁目○○番地先路上外八ケ所において○口○雄外八名の所有又は管理に係る原動機付自転車スクーター等八台を窃取したものである。
犯罪一覧表
共犯者
犯行年月日
犯行場所
被害者
窃取物件
時価
1
S
昭和三四年七月一三日頃
大阪市西成区新開通一丁目一一路上
○ロ○雄
原動機付自転車 一台
六〇、〇〇〇
2
〃
〃
七月中頃
〃都島区江成町八五ノ一近畿相互銀行野田支店ガレージ
○正○
スクーター 一台
八四、〇〇〇
3
〃
〃
七月二〇日頃
〃北区會根崎新地三ノ三五路上
○中○夫
原動機付自転車 一台
一三五、〇〇〇
4
〃
〃
七月二四日頃
〃西成区潮路通四ノ二路上
○本○好
〃 一台
一〇〇、〇〇〇
5
〃
〃
七月二七日頃
〃〃天下茶屋三ノ一二二路上
○田○
〃 一台
一〇、〇〇〇
6
〃
〃
八月四日頃
〃北区梅田町大阪駅東北口前路上
○木○三
〃 一台
一六〇、〇〇〇
7
〃
〃
八月五日頃
〃福島区玉川町三ノ一四路上
○金○
〃 一台
一三〇、〇〇〇
8
〃
〃八月一四日頃
〃西成区松通五ノ七栄荘アパート
○ロ○好
原動機付自転車 一台
一三五、〇〇〇
9
M
〃
八月二〇日頃
〃〃千本通一ノ三三路上
○西○雄
スクーター 一台
三〇、〇〇〇
(証拠の標目)
判示第一の事実について
被告人Fの検事に対する供述調書(第四項以下)
同人の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年一〇月六日付、一〇月一三日付)
被告人Kの検事に対する供述調書(昭和三四年一〇月二八日付第三項以下、一二月六日付)
同人の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年一〇月二日付、一〇月一四日付)
被告人Y子の検事に対する供述調書(昭和三四年一〇月二九日付第二項、一二月六日付)
同人の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年一〇月一四日付)
○本○雄、○下○夫、○西○る○各作成の被害届
判示第二の事実について
被告人Fの検事に対する供述調書(第二項、第三項)
同人の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年九月二九日付、九月三〇日付)
被告人Kの検事に対する供述調書(昭和三四年一〇月二八日付第一、二項)
同人の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年九月二九日付、九月三〇日付)
被告人Y子の検事に対する供述調書(昭和三四年一〇月二九日付第三項以下)
同人の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年九月二九日付、九月三〇日付)
○上○蔵の司法警察職員(昭和三四年九月二二日付、九月二三日付、九月三〇日付)並びに検事に対する各供述調書
○上○え子作成被害届
医師越宗正作成○上○三(○蔵の誤記と認める)に対する診断書
Hの司法巡査に対する供述調書
司法警察員作成実況見分調書
押収してある薪木二本(証第一号)
判示第三の事実について
被告人Fの検事に対する供述調書
同人の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年一〇月六日付、一〇月一三日付)
○村○郎、○口○雄、○正○、○中○夫、○本○好、○田○、○本○三、○金○、○口○好、○西○雄各作成の被害届判示事実全部に亘りとくに冒頭の事実について
被告人F、同Kの各自当公廷における供述
被告人Fの司法巡査に対する供述調書(昭和三四年九月二三日付二通、検甲五〇、五一)
被告人Kの司法巡査に対する供述調書(昭和三四年九月二四日付)
被告人Y子の司法巡査に対する供述調書(昭和三四年九月二三日付)
○原○平、○花○、○見○、○田○乃の各司法巡査に対する供述調書
被告人Y子の弁護人は、判示第二の事実について、被告人Y子は内縁の夫である被告人Kに強制されて同人らと行動を共にしたにすぎず、共謀の事実はもとより何ら実行行為に加担していないから従犯であると主張するところこれを認めるに足る証拠が認められないから採ることができない。
(法令の適用)
被告人等の判示所為中、第一、第三は各刑法第二三五条、第六〇条、第二は刑法二四〇条前段、第六〇条に各該当するところ、第二の罪について所定刑中有期懲役を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条、第一四条により重い第二の罪の刑に法定の加重を施しなお、犯罪の情状憫諒すべきものがあるので同法第六六条、第七一条、第六八条第三号により酌量減軽した刑期範囲内で処断すべきところ、被告人等は少年であるから少年法第五二条に従つて、被告人等を夫々主文掲記の刑に処し、かつ、刑法第二一条により未決勾留日数中各四〇日を右各本刑に算入することとし、被告人Fについて生じた訴訟費用は、被告人が貧困でこれを納付することができないことが明らかであるから、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させないこととする。
よつて、主文のとおり判決する。
(昭和三四年一二月二四日 大阪地方裁判所第三刑事部 裁判長裁判官 細田覚一 裁判官 西田篤行 裁判官 岡次郎)