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大阪高等裁判所 昭和35年(く)107号 決定 1961年2月20日

少年 Y(昭二一・三・二生)

主文

原決定を取消す。

本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告申立の理由は少年の法定代理人Fの提出に係る抗告趣意書記載のとおりである。

よつて案ずるに、本件関係各記録を精査するにおいては、優に原決定記載の各非行事実を認めるに足り、その罪質、各被害者らの蒙れる精神上甚大な痛苦に照らすときは、その非行は悪質にして且つ極めて大胆な反社会的な犯罪といわなければならない。しからば家庭的環境に比較的恵まれた十四歳の少年が何が故に斯様な大人も赤面せざるを得ない非行を短期間内にしかも数回にも及んで反覆せねばならなかつたかの事情を審にするに、記録に現われたところによれば少年には性格的に又はひわいな出版物、映画等を通じ従来から性について強い関心があつたわけではなく、たまたまT中学時代の同級生Sからの刺戟的なそそのかしにより一時的の興味本位(少年の年令にしてこの性的興味は時期的にいささか早過ぎる点にも問題はあるけれども)からの善悪の別もなく、無反省に直接行動に出たものと認められ、その非行の態様等から考えると未だ反社会的の異常性格に根ざした悪癖によるものとは俄かに認められないのである。友達から図解までされてその手段、方法を教えられ、おれもやつた、問題にはならない、とても面白いからお前もやつて見いと強くそそのかされ、発覚する心配もなくそんなに面白いものなら自分もやつて見様かとつい見さかいもなく、いきなり行動に移したのが本件の真相のように見受けられる。そこには勿論道徳倫理観、主体性の欠如、すなわち依他、模倣、内攻、利己、攻撃的傾向が強く看取せられるのであるが、このことは又少年をめぐる特殊な家庭環境にも原因が見受けられる。すなわち少年の父は中学卒業の身をもつて小、中学校の教員として世に立つたけれども、こと志と違つて途中で挫折し、今日では受験生相手の塾を開いて生計を計つているに過ぎない立場にあるのであるが、そこから来る一種の劣等感から、せめて一人息子の少年に対して是非共将来は大学に進学せしめようとしてあせりの余り道徳的な倫理情操教育を忘れ、只管勉強のみを強いる両親の気持が、それ程才能に恵まれない少年としては却つて精神的の重圧として受取られ、情操的には円満さを欠くようになり、延いては同様劣等感となり生来の内攻、利己、模倣、攻撃的性格が契機となり、その逃避反攻のはけ口として悪友のそそのかしが導火線となつてついに本件非行に爆発したものと認められないこともない。少年の家庭が早くこのことに目覚め、少年の能力に応じた教育の方針を樹てその生来の性格の欠点を見抜いてもつと健康的な倫理観に裏付けされた人格、情操教育に力を致したならば、或は本件の如き事故は未然に防止できたであろうと思わざるを得ない。当審における両親を審尋した結果によれば、少年の両親は今や愕然としてその非を悟り、深く反省し、進んで少年の家庭、社会環境を改善するため、居を豊中から高槻に移して悪友との関係を断たしめ専ら人格、情操の教育に主眼を注ぎ、もつて少年の更生、善導のためには畢生身を犠牲にすると誓つており、このことは十分信を措くに足るのであるから、少年が将来再び斯様な悪質な非行を重ねる虞れはないものと期待できるし、他方被害者に対しても謝罪を重ね一部慰藉料も支払つて只管その宥恕を待ちつつある事情も認められる。かく考えて来ると少年に本件の如き悪質、大胆な反社会的非行があつただけの理由で比較的恵まれた環境にあつて再犯の虞れもなく、反社会的性格が未だ習癖化されていない僅か十四歳の少年を初等少年院に送致することは決して少年の健全な育成を期する所以でなく、この際はむしろ少年の両親の許に委ね、その愛情と犠牲的努力により少年の更生を期待するのがより得策であると認めざるを得ない。さすれば、原審がここに思いを致さなかつたことは相当でないから、原決定はこれを取消すこととする。

よつて少年法第三三条第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 児島謙二 判事 畠山成伸 判事 瞿曇)

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