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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1254号 判決 1962年11月09日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人が当審においてなした第二次的請求を棄却する。

控訴費用及び第二次的請求の費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す、被控訴人等は別紙目録表示の金六〇万円が訴外インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース(代表者チエダンダス・ジエタナンド・ハテイラマニ)が被控訴人福武株式会社に対して有する債権であることを確認する、被控訴人福武株式会社は控訴人に対し金六〇万円及びこれに対する昭和三一年九月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とするとの判決並びに金員支払の部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人福武株式会社は本件控訴を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴人において、

仮りにパートナーシツプであるインドネシヤ・マラヤ・エキスポータース(代表パートナー・チエタンダス・ジエタナンド・ハテイラマニ)が被控訴会社に対して本件貸付金名義の敷金の返還請求権を有せず、ハテイラマニ個人がこれを有するとしても、ハテイラマニは訴外ラムチヤンド・ウタムチヤンド・マブバニと連帯して控訴人に対し金八、五八三、六七九円及びこれに対する昭和三一年七月一日から支払済まで年八分の割合による金員の支払義務があり、大阪地方裁判所昭和三〇年(ワ)第四三九三号当座借越金等請求事件(大阪高等裁判所昭和三四年(ネ)第一〇〇五号事件)の判決により、控訴人に対し右債務の支払を命ぜられているから、控訴人はハテイラマニ個人に代位して本件敷金の返還を請求すると陳述し、

被控訴会社の主張に対し、控訴人の第二次的請求は予備的請求であつて、請求原因の変更ではないから、第二次的請求は適法である。

控訴人は昭和三〇年九月二九日ハテイラマニの支配人グラブライ・パグワンダス・ダスワニと共に被控訴会社に本件敷金の返還を代位請求しているから、被控訴会社主張の時効の抗弁は理由がない、

ハテイラマニはマブバニと共に連帯債務者として控訴人から出訴され、敗訴の判決を受けたため、本件について証人として出頭することを拒み、また現在国外に逃亡中である。被控訴会社は、このような事情でハテイラマニが直接積極的に本訴に関与せず、また関与し得ざることを奇貨とし、本件敷金の返還を拒んでいるが、もし被控訴会社の主張が正当なりとすれば、本件敷金はついに永久に被控訴会社に帰属し、不当に利得する結果を生ずる筋合であつて、斯の如きは権利の濫用として衡平の原則に違背するものであると陳述し、

被控訴会社において、

控訴人は当審において、ハテイラマニが被控訴会社に対し敷金六〇万円の返還請求権を有することを主張し、同人に代位してその返還を請求する旨第二次的請求をなすに至つたが、右請求は控訴人が原審でなした請求と別個独立のものであつて、かつこれと関連なく、請求の基礎をも異にするものであるから、不適法な請求原因の変更であつて許されない。

被控訴会社のハテイラマニに対する本件敷金の返還義務は消滅時効の完成により既に消滅した。すなわち被控訴会社は福武ビルデイングを建築し、貸室をなすことはその営業の主体であつて勿論商行為である。ハテイラマニは日本において貿易等を営む事務所として被控訴会社から借室したのであり、その必要上、敷金を他の名目をもつて納付したものであつて、これまた商行為たること疑がない。従つて本件敷金の返還請求権は商行為による債権として五年の短期消滅時効の適用あるものである。そしてハテイラマニとの賃貸借契約は昭和三〇年三月末日解消せられ、同日敷金返還請求権は発効したのにも拘らず、ハテイラマニはその後被控訴会社に対しなんらの請求をなさずして今日に至つているから、昭和三五年三月末日をもつて時効完成し消滅している。従つて控訴人が原審において主張した請求原因により勝訴した場合は格別、当審において主張するに至つた第二次的請求が理由ありとしても、時効消滅後のことであるから、被控訴会社に本件敷金の返還義務はないと陳述し、

証拠(省略)

理由

賃借人がハテイラマニ個人であるか、ハテイラマニとマブバニを組合員とするパートナーシツプ(インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース)であるかの点は別として、成立に争のない丙第一号証、同第二号証の一ないし三に原審証人野々村潔の証言(第一回)を綜合すると、ハテイラマニは昭和二八年二月一三日被控訴会社から同被控訴人所有の福武ビルデイング第六二号室を賃借し敷金七七四、〇〇〇円を被控訴会社に差入れたが、昭和二九年四月頃右賃貸借を合意解除し、改めて被控訴会社から同ビルデイング第六〇五号室を賃借し、さきに差入れた敷金中六〇二、〇〇〇円(敷金七七四、〇〇〇円中一七二、〇〇〇円は昭和二八年二月一七日ハテイラマニに返還)に金二一〇、〇〇〇円を追加してこれを敷金として被控訴会社に差入れたことが認められる。

控訴人はハテイラマニはインドネシヤ・マラヤ・エキスポータースなるパートナーシツプの代表者として同パートナーシツプのため前記第六〇五号室を賃借し、敷金を差入れたものであると主張し、被控訴銀行はハテイラマニは昭和三〇年九月五日マブバニに営業譲渡をなした際、本件敷金返還請求権をマブバニに譲渡したと主張するけれども、この点に関する当裁判所の判断は原判決の理由に記載するとおりであるから、これを引用する。

するとインドネシヤ・マラヤ・エキスポータースが本件敷金返還請求権を有することを前提とする控訴人の第一次的請求、本件敷金返還請求権がマブバニに譲渡されたことを前提とする被控訴銀行の請求はいずれも理由がない。

控訴人は仮りに本件敷金返還請求権がハテイラマニ個人に属するとしても、ハテイラマニはマブバニと連帯して控訴人に対し金八、五八三、六七九円及びこれに対する昭和三一年七月一日から支払済まで年八分の割合による金員の支払義務があるから、ハテイラマニに代位し本件敷金残額六〇万円の返還を請求すると主張し、被控訴会社は右請求は控訴人が従来なしていた第一次的請求と別個独立のものであつて、これと関連がなく、請求の基礎を異にする違法な請求原因の変更であるから許されないと主張するけれども、控訴人の第二次的請求は請求原因を変更するものではなく、予備的に新たな請求を附加するものであつて、しかもその請求の基礎は第一次的請求の請求の基礎と同一であると認めるのが相当であるから、控訴人が当審においてなした第二次的請求の予備的併合は適法である。

そこで控訴人の第二次的請求の当否について考えると、成立に争のない甲第一二号証によると、ハテイラマニとマブバニは昭和二八年三月一二日インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース名義で控訴人と当座取引契約を締結したが、その際右両名は控訴人に対し右取引によつて生ずる一切の債務について連帯して債務を負担する旨を約し、控訴人はその後右組合と継続して取引を行つて来たところ、前記両名は昭和三〇年八月二六日右組合を解散し、控訴人に対しその旨通知すると共に当座取引契約の解約を申入れたので、控訴人もこれに応じ、同日右契約を解約したこと、右解約当時、ハテイラマニとマブバニの控訴人に対する債務は合計金一二、三五〇、一五六円であつたところ、その後控訴人において昭和三一年六月三〇日までに担保商品を処分し、その売却代金を前記元利金債務の支払に充当した結果、結局八、五八三、六七九円及びこれに対する同年七月一日以降年八分の割合による損害金となつたことが認められ、当審証人谷村干城、グラブライ、バグワンダス、ダスワニの証言を綜合するとハテイラマニは他にも多額の債務を負担した侭、昭和三六年一一月頃日本を去り、日本に帰来するか否か不明である事実が認められる。

そして成立に争のない丙第一号証に原、当審証人野々村潔の証言(原審第一、二回)を綜合すると、本件賃貸借には、賃借人が解約を申入れたときは、三ケ月をもつて賃貸借が終了するものとする特約が存在するところ、ハテイラマニは昭和三〇年九月頃から右貸室を使用せざるに至り、同年一二月貸室の鍵を被控訴会社に返還したので、被控訴会社は昭和三一年三月末日をもつて賃貸借終了したものとして処理し、当日までの未払賃料を控除し、ハテイラマニに返還すべき敷金残額は金六〇万円となつたことが認められる。

被控訴会社は本件敷金の返還債務は商行為によつて生じた債務であるから、五年の短期消滅時効の適用あるところ、被控訴会社は昭和三〇年四月一日以降ハテイラマニから返還の請求を受けたことなく、その間五年を経過したから、昭和三五年三月末日をもつて時効完成し消滅したと主張し、前記野々村証人の証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴会社はビルデイングを所有し貸室をなすことを主たる目的とする会社であり、ハテイラマニは貿易業を行うための事務所として本件貸室を賃借し、これに附随して本件敷金を被控訴会社に差入れたものであることが認められるから、その返還請求権は商事債権であつて、五年の短期消滅時効の適用あるものと解すべく、右賃貸借が終了したのが昭和三一年三月末日であつて本件敷金返還請求権が効力を生じたのが同年四月一日であることは前記認定のとおりであるから、右請求権は昭和三六年三月末日をもつて時効完成によつて消滅すべきものである。

控訴人は、昭和三〇年九月二九日控訴人はハテイラマニの支配人ダスワニと共に被控訴会社に対し本件敷金の返還を代位請求しているから、被控訴会社の時効の抗弁は失当であると主張するけれども、当時本件敷金返還請求権は未だ効力を生じていなかつたこと前記認定の事実から明らかであるから控訴人の主張は採用するに由がない。

そして控訴人が原裁判所に昭和三一年九月一五日参加申出書を提出し、同日被控訴会社に送達せられたことは記録上明らかであるけれども、控訴人は昭和三六年七月五日被控訴会社に送達せられた第二準備書面によつて、第二次的にハテイラマニに代位して本件敷金の返還を請求する旨主張するまで、本件敷金の返還請求権を有するものはパートナーシツプであるインドネシヤ・マラヤ・エキスポータースであつて、控訴人は右組合に代位して本件敷金の返還を請求する旨主張して来たこと記録上明らかであるから、控訴人の参加は本件敷金返還請求権の時効中断の効なきものである。

控訴人は仮りに被控訴会社の主張が理由ありとすれば、本件敷金は遂に永久に被控訴会社に帰属し、不当にこれを利得する結果を生ずる筋合であり、斯の如きは権利の濫用として衡平の原則に違反するものであると主張するけれども、時効の完成によつて債務を免れることは法律上の原因なくして利得したこととならぬこと明らかであるから、被控訴会社が消滅時効の完成によつてハテイラマニに対して本件敷金の返還義務を免れても不当に利得するものではなく、被控訴会社が時効を援用し控訴人に対し本件敷金の返還を拒否することはなんら権利の濫用として衝平の原則に違反するものではない。

すると控訴人の第一次的請求を棄却した原判決は正当であつて本件控訴は理由がなく、控訴人が当審に至り予備的に附加した第二次的請求も失当であるから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

別紙

目録

一、昭和二九年四月一七日被控訴人福武株式会社(賃貸人)と訴外インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース(賃借人)間に締結された福武ビルの一部賃貸借契約に基き、右訴外者から被控訴人福武株式会社に給付した左記貸付金

(イ) 昭和二八年二月九日被控訴人福武株式会社領収証第三〇号による金六一六、〇〇〇円

(ロ) 同月一六日付被控訴人福武株式会社領収証第三四号による金一五八、〇〇〇円

(ハ) 昭和二九年四月一七日付被控訴人福武株式会社領収証第二三号による金二一〇、〇〇〇円

計金九八四、〇〇〇円

二、右の内から被控訴人福武株式会社が賃貸借契約により優先弁済を受けた金額三八四、〇〇〇円

三、差引右訴外者が被控訴人福武株式会社に対して返還請求権を有する本件の債権額、金六〇〇、〇〇〇円。

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