大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1527号 判決 1962年6月25日
判 決
控訴人
羽田伊太郎
右訴訟代理人弁護士
原田永信
被控訴人
信用組合大阪商銀
右代表者、代表理事
大林健良
右訴訟代理人弁護士
中村健太郎
主文
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人の負担とする
事実
控訴人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は主文第一項同旨及び訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とするとの判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、
被控訴人において、
被控訴組合と訴外長谷川房子との間の銀引取引(手形割引、手形貸付及預金取引)について
一、手形割引取引
被控訴組合と長谷川房子との間には昭和三〇年七月五日与信取引契約が成立したが、右両者間には契約成立の日から直ちに手形割引取引が開始され、被控訴組合は長谷川からの依頼により左記約束手形を割引いたが、右手形は何れも満期に支払われ、この取引によつては、被控訴組合は長谷川に対し何等の債権を取得しなかつたものである。
割引日
振出人
金額
満期
円
昭和三〇・ 七・ 五
植田晴夫
一九二、〇〇〇
昭和三〇・ 八・一八
同 三〇・ 八・二〇
丸兆商店
二一六、〇〇〇
同 三〇・ 九・二〇
同 三〇・一二・ 九
右同
三五〇、〇〇〇
同 三一・ 二・ 五
同 三一・ 二・一一
丸長商店
四五〇、〇〇〇
同 三一・ 四・ 九
同 三一・ 四・一一
右同
四五〇、〇〇〇
同 三一・ 六・一〇
同 三一・ 五・二二
丸兆商店
二五〇、〇〇〇
同 三一・ 七・二〇
同 三一・ 六・一八
丸兆商店、植田晴夫
四八〇、〇〇〇
同 三一・ 八・一〇
同 三一・ 七・二三
丸兆商店
二五〇、〇〇〇
同 三一・ 九・二一
同 三一・ 九・二一
植田晴夫
二五〇、〇〇〇
同 三一・一一・二〇
同 三一・一〇・一六
小柳米作
五〇、〇八〇
同 三一・一二・二四
二、手形貸付取引
被控訴組合が長谷川に金銭を貸付けるに当り、同人から同人から金銭借用証書を徴求せずして、弁済期を満期として、貸付金額を手形金額とする約束手形を振出交付せしめたが、その詳細は左記のとおりである。
貸付日
貸付金額
弁済期
手形
備考
円
(1)
昭和三一・ 八・一一
五〇〇、〇〇〇
昭和三一・一〇・一〇
甲 六号証
(2)
同 三一・一〇・一六
一五〇、〇〇〇
同 三一・一二・一四
(3)
同 三一・一一・ 八
五〇〇、〇〇〇
同 三一・一二・ 八
甲 七号証
(1)の書替
(4)
同 三一・一一・二一
二五〇、〇〇〇
同 三二・ 一・二〇
甲 八号証
(5)
同 三一・一二・二一
五〇〇、〇〇〇
同 三二・ 二・ 五
甲 九号証
(3)の書替
(6)
同 三一・一二・一八
三〇〇、〇〇〇
同 三二・ 二・一五
甲一〇号証
(4)の内二二万円及び
(5)を合算書替
(7)
同 三二・ 二・ 五
七二〇、〇〇〇
同 三二・ 四・ 五
甲 二号証
(8)
同 三二・ 三・二三
三〇〇、〇〇〇
同 三二・ 四・二〇
甲一一号証
(6)の書替
右貸付金のうち、(4)については昭和三一年一二月一七日金三万円、(8)については昭和三二年九月一二日全額の各弁済があり、また(7)については昭和三二年九月一二日金七万円、昭和三三年三月三一日金一三七、六九四円の各一部弁済があり、その残額が金五一二、三〇六円となつたもので、これが本訴において支払を請求するもである。
三、預金取引について
(一) 定期積金
契約日
一回の掛込額
給付契約額
備考
(1)
昭和三〇・ 八・一七
一年
八、二〇〇円
一〇〇、〇〇〇円
掛込完了
(2)
同 三一・ 六・二〇
右同
一〇、〇〇〇円
一二二、〇一〇円
八回以降掛込せず
(3)
同 三一・ 七・一八
二年
一〇、七〇〇円
二六三、八〇〇円
七回以降掛込せず
(4)
同 三一・一一・一六
一年
四、一〇〇円
五〇、〇〇〇円
三回以降掛込せず
(5)
同 三一・一一・一六
二年
二〇、二五〇円
五〇〇、〇〇〇円
三回以降掛込せず
右(1)の給付金一〇万円は昭和三一年八月二三日後記(三)の(6)の定期預金に振替えられ、(2)の解約返戻金七万円は昭和三二年九月一二月二の(7)の貸付金の支払に充当、(3)(4)(5)の解約返戻金合計一一三、一七九円は後記(二)の(2)の金二四、五一五円と合計し金一三七、六九四円とし、これを昭和三三年三月三一日二の(7)の貸付金の一部支払に充当した。
(二) 日掛貯金
契約日
期間
一回の掛込額
給付契約額
備考
(1)
昭和三〇・一二・一七
一年
五〇〇円
一八二、六六〇円
掛込完了
(2)
同 三二・ 四・ 五
右同
右同
右同
一四四回分以降掛込せず
(1)の給付契約一八二、六六〇円は、昭和三一年一二月一七日当時の長谷川に対する手形貸付金九〇万円中の元金一八万円、利息二四〇円の支払に充当せられ、残額二、四二〇円は同人の当座勘定に入金せられた。また(2)の日掛貯金は昭和三三年三月三一日解約せられ、解約返戻金七一、八三五円は、内金二四、五一五円を手形貸付金元金中の二四、五一五円、金四七、三二〇円は利息金中の四七、三二〇円の支払に同日充当せられた。
(三) 定期預金
預入日
金額
期間
利率
円
(1)
昭三〇・ 七・ 五
一〇、〇〇〇
六カ月
年三分六厘
(2)
同三〇・一二・ 三
一五〇、〇〇〇
右同
年五分一厘
(3)
同三〇・一二・ 五
三〇、〇〇〇
右同
年三分六厘
(4)
同三一・ 五・二二
五〇、〇〇〇
右同
年五分一厘
(5)
同三一・ 六・一四
一九〇、〇〇〇
右同
年三分六厘
(6)
同三一・ 八・二三
一〇〇、〇〇〇
一年
年六分一厘
(7)
同三一・一二・一四
二四〇、〇〇〇
六カ月
年三分六厘
(4)の預金は被控訴組合が昭和三一年五月二二日長谷川に対し手形割引をなし、その割引金中から預入れられたものであり、(5)の預金は(1)(2)(3)の三口を一口にまとめて継続せられたもの、(6)は三の(一)の(1)の定期積金の給付金を振替えて預入れられたもの(7)の預金は(4)(5)を一口にまとめて継続したものである。
そして右(6)(7)の計三四万円の預金は期間満了後昭和三二年九月一二日、手形貸付金の元金の一部三〇万円及び利息の支払に充当せられたものであると陳述し、
控訴人において、仮りに控訴人が甲第一号証に捺印することを認識して長谷川一郎に印鑑を預託したとしても、甲第一号証による契約は極度額の定めがないから信義則に違反し無効であつて、これにより控訴人は保証債務を負うべきものではないと陳述し、
(証拠省略)
外、原判決摘示事実中控訴人関係部分と同一であるから、これを引用する。
理由
(証拠)を綜合すると、被控訴組合は昭和三〇年七月五日長谷川房子との間に、手形貸付、手形割引等により融資をなすべき旨の与信契約を締結し、右契約にもとずき、被控訴人主張の如き経過で手形貸付をなし、結局被控人主張の約束手形(甲第二号証)により長谷川房子に対し手形金残金五一二、三〇六円及びこれに対する満期の日である昭和三二年四月五日から年六分の割合による利息の支払を求め得べき債権を有することが認められる。
被控訴人は、控訴人は被控訴組合が長谷川房子と前記与信契約をなすに当り、右契約にもとずき長谷川が被控訴組合に対して負担すべき債務について連帯保証をなしたと主張し、(証拠)を綜合すると被控訴人主張の連帯保証の事実を認めることができ右認定に反する原、当審における控訴人本人尋問の結果(原審一、二回)は採用しない。
控訴人は本件与信契約にもとずく債務の保証責任を負担するためには、更に主債務者の具体的取引について改めて保証することを必要とすると主張するけれども、これに対する当裁判所の判断は原判決七枚目裏四行目「前掲甲第一号証」以下八枚目表末行までと同一(但し八枚目表三行目に「信用できるところであるが」とあるのを「信用できぬところであるが」と訂正する)であるからこれを引用する。
次ぎに控訴人は本件のような期間の定めない継続的金融取引から発生する将来の債務の保証においては取引慣行ならびに信義則にてらし、大体一ケ年を基準として取引約定書の書替などの措置をとらない限り、金融機関は、保証人の責任を問えない、仮りに然らずとするも、右のような期間の定めのない与信契約において相当期間経過後は保証人は解約告知権を有するものと解すべきところ、控訴人は昭和三二年二月五日及び同年末頃の二回に亘り被控訴組合に対し保証契約を解約する旨告知したと主張し、被控訴人は右主張は控訴人の故意または重大な過失により時機に後れて提出された防禦方法であると主張するけれども、控訴人の右防禦方法の提出により別段本訴の完結を遅延せしむべきものとは認められず、従つてこれを却下すべきではないけれども、控訴人の前記主張が何れも失当であつて、採用の限りでないことは、原判決八枚目裏三行目から九枚目裏一三行目までに記載するとおりであるからこれを引用する。
更に控訴人は甲第一号証による与信契約は極度額の定めがないから信義則に違反し無効であると主張し、前記契約に極度額の定めのないことは前記のおりであるけれども、このような場合には取引慣行ならびに信義則にてらし相当と認められる期間が経過したときは、保証人は解約告知権を有するものと解すべきことも前記のとおりであつて、これによつて保証人は自己の正当な利益を擁護できるものであるから、本件与信契約に極度額の定めがないからといつて直ちにこれを信義則に違反し無効であるとすることはできない。
すると控訴人は連帯保証債務の履行として被控訴人に対し金五一二、三〇六円及びこれに対する昭和三二年四月五日から支払済まで年六分の割合による金員の支払義務があり、これを訴求する被控訴人の本訴請求は正当である。
すると被控訴人の請求を認容した原判決は正当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとして、民事訴訟法第八九条に従い主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第二民事部
裁判長判事 岩 田 守 夫
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判事 岡 部 重 信