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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)448号 判決 1962年7月13日

京都府相楽郡木津町大字相楽小字大里

控訴人

中岡寅治

右訴訟代理人弁護士

田辺哲崖

田辺照雄

京都府綴喜郡田辺町

被控訴人

山城田辺税務署長

井内田正雄

右指定代理人検事

山田二郎

大蔵事務官 藤井三男

山田俊郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対してした控訴人の昭和三〇年度所得金額を金一九九、七〇〇円、更正による増加所得税額金九、九〇〇円とした所得税更正処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴代理人において、

控訴人は、控訴人の簿莚の被造量は年間一、〇〇〇枚である旨主張し、被控訴人の主張の一部を認める陳述をしたが、右陳述は真実に反し、且つ錯誤に基いてなされたものであるから、これを撤回する。すなわち、控訴人は昭和三〇年度に簿莚を製造したことはなく、またそれを売却して所得をあげたこともない。ただ控訴人の妻中岡志め、長男の嫁中岡きよ子等が簿莚を被造、売却し、その代金をそれぞれ小遣として費消したものであつて、簿莚についての所得は同人等のものである。控訴人は、旧来の家族制度に根ざず観念より、右薄莚の収益をすべて自己に帰するものと誤解し、昭和三〇年度及びその前後にわたり自己の収入の一部として申告して来たものであるが、誤りであることを自覚したので以上のとおり主張を変更する。

かりに、簿莚についての所得が控訴人の所得であるとしても、昭和三〇年度の簿莚の生産枚数は六尺物、六・五尺物合わせて一、〇〇〇枚以下であり、その内六・五尺ものは一割以内であつて、右簿莚の単価は二一円である。

以上の点からみても、いわゆる所得標進率というものが正当であつたとしても、昭和三〇年度の控訴人の所得額は、金一九九、七〇〇円を下まわり、所得税額も減少するから、被控訴人のした更正処分は取消さるべきものである。と述べ、

被控訴代理人において、控訴人の陳述の撤回には異議がある。

かりに、控訴人が六尺の簿莚を作つていたとしても、被控訴人は、控訴人の昭和三二年中の七尺の簿莚の生産実績を一カ月平均三二〇枚、年間実稼動六カ月として一、九二〇枚と認め、これを基にして、昭和三〇年度においても、同程度以上の生産がなされたものと認め、七尺もの一、八〇〇枚以上と認定したのであるから、六尺ものならば、七尺ものより一尺短く、それだけ手間は少く、生産能率が良く、七尺ものの六分の七倍の枚数を生産できるから、その価格が七尺ものの二九分の二三倍であるとしても、控訴人の簿莚による収入及びその利益は、さきに被控訴人が主張したものの一七四分の一六一であつて、控訴人の所得合計は一九九、七〇〇円より多く、被控訴人のした決定は過大でない。と述べ、

控訴代理人において、証拠として、当審での証人土福茂一、同藤田あさえ、同中岡茂之、同中岡志め、同中岡きよ子、同吉村政野(第一、二回)の各証言、控訴人本人尋問の結果を援用した外、原判決事項摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するのであるが、その理由は次のとおり付加訂正する外原判決の理由に記載するところと同一であるからこれを引用する。

原判決五枚目裏一行目から五行目の「これを認め、」までを、「四反七畝一五歩であることは、成立に争いのない乙第一、一〇号証証人水島佐一、同小林政治、同三浦清治、同丹羽康雄(第一回)の各証言を綜合してこれを認め、普通畑の作付反別が三畝一二歩であることは、前記乙第一号証、証人久保田正男の証言によつてその成立が認められる乙第八号証と右証言、成立に争いのない乙第一一号証、証人西沢繁太郎、同丹羽康雄(第二回)同三浦清治の各証言を綜合してこれを認め、」と改める。

控訴人は、控訴人が薄莚の製造をした旨陳述したが、これは真実に反し、且つ、錯誤に基いてなされたものであるから、これを撤回するというが、成立に争のない乙第一号証に、当審での控訴人本人、証人中岡茂之、中岡志め、中岡きよ子、吉村政野(第一、二回)の各供述を考え合せると、控訴人方での昭和三〇年度の薄莚の製造は、控訴人を経営の主体とし、控訴人の二女好子と長男の妻きよ子等家族の手によつてなされたものであつて、その製造収入による所得は家族各個人の所得とすることなく、すべて控訴人の所得としていたことが認められる(右各供述中右認定に反する部分は採用しない。)から右自白の撤回は許されない。

そして、原審証人久保田正男の証言によつてその成立が認められる乙第九号証と右証言、原審証人西沢繁太郎の証言により成立が認められる乙第一三号証に右証言、成立に争いのない乙第一、一二号証、原、当審での控訴人本人、当審での証人中岡志め、中岡きよ子、吉村政野(第一、二回)の各供述を考え合わせると、控訴人の昭和三十年度の薄莚の製造量は六・五尺もの一八〇枚、六尺もの一、六二〇枚を各下らないものであり、控訴人のその販売価格は、六・五尺もの一枚平均二五円、六尺もの一枚平均二二円であると認めるのが相当である。前掲各証拠中右認定に反する部分は採用せず。他に右認定を覆す証拠や、控訴人が右認定を超える数量の薄莚を製造し、または右認定を超える価格で薄莚を販売したことを認めるに足る証拠はない。

当審での証人土福茂一、藤田あさえ、中岡茂之、中岡志め、中岡きよ子、控訴人本人の各供述中その余の原審認定事実に反する部分は、原審挙示(当審で改めた分も含め)の各証拠に照らし採用しない。

そうすると、控訴人のわら工品(薄莚)の販売による収入は年間四〇、一四〇円以上で、所得はその六割五分の二六、〇九一円以上であり、控訴人の昭和三〇年度分の所得合計は、二〇〇、八七三円以上であると認められる。

よつて、控訴人の昭和三〇年度の所得金額を一九九、七〇〇円と認定更正し、それから概算所得控除五、〇〇〇円、扶養控除(二人)三〇、〇〇〇円及び基礎控除七五、〇〇〇円を差引いた課税所得金額、八九、七〇〇円に基いて算出した所得税額一七、二五〇円から、さらに老年者控除五、〇〇〇円を差引き、控訴人の所得税額を一二、二五〇円と算出し、その申告所得税額二、三五〇円との増差額九、九〇〇円を増加所得税額として更正した被控訴人の所得税更正処分は違法でなく、これを違法としてその取消を求める控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当で、本件控訴はその理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岩口守夫 判事 藤原啓一郎 判事 岡部重信)

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