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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)782号 判決 1961年12月27日

控訴人 大森能生

被控訴人 窪田製作所こと窪田正夫

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金二四五、〇〇〇円および内金一一五、〇〇〇円に対し昭和三三年一二月一一日以降、内金一三〇、〇〇〇円に対し同三四年一月一九日以降各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決中第二、三項に限り、控訴人において金八〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は主文第一ないし三項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、「本件控訴はこれを棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、つぎに記載するもののほかは原判決事実摘示に記載してあるとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、「控訴人は本件約束手形二通(別表第一(一)(二)の手形)のほか、同(三)(四)の約束手形を所持していたが、右(一)の本件約束手形を支払期日に呈示して支払を求めたところ、その支払を得られなかつたので、前記手形の裏書人樋口商店の代表者訴外樋口正雄と折衝の結果、前記(一)、(二)、(三)の各約束手形の手形金の支払を確保するために、右樋口より同人振出名義の約束手形七通(内容は別表第二記載のとおり)の振出交付を受けるとともに、更にその支払に関する公正証書を作成することを約し、これに必要な印鑑証明および委任状の引渡を受けた。そして、その際控訴人は前記(三)の金額九五、〇〇〇円の約束手形を被控訴人に返還したが、これは樋口が右約束手形七通の支払につき誠意ある履行をしてくれることを期待して、控訴人が好意的になした任意の取計いに過ぎず、本件請求にかかる約束手形二通の返還を約した事実はまつたくない。」と述べた。<証拠省略>

被控訴代理人は、「控訴人の請求する本件約束手形金債権は更改により消滅したものである。すなわち、訴外有限会社樋口商店は控訴人に対し昭和三三年暮頃現在で、別表第一(一)ないし(四)の各約束手形金合計金四一〇、〇〇〇円の債務を負担していた。それで右訴外会社は同年一二月二三日頃控訴人と交渉の末右手形債務を同額の準消費貸借に改めて公正証書を作成すること、右債務につき訴外会社代表者たる樋口正雄が個人として新たに連帯保証人となることを約し、右公正証書作成に要する書類を控訴人に交付するほか、更に右債務の支払は七回に分割して月賦弁済する約定のもとに、樋口正雄が通称樋口豊彦名義で別表第二記載の約束手形七通を振出交付し、ついで控訴人は翌三四年一月八日前記公正証書を作成した。以上のようにして、本件約束手形二通を含む前記別表第一の四口の旧手形債務は前記一口の準消費貸借債務と七口の新手形債務に更改されて、旧手形債務は消滅した。控訴人は当時その手許にあつた別表第一(三)、(四)の各約束手形を樋口に返還し、残余の本件約束手形二通は後日同人に返還することを約しながらこれを履行しないが、本件手形は既に債権消滅し無効の手形であるから、被控訴人に支払の義務はない。」と述べた。<証拠省略>

理由

控訴人主張の請求原因事実中、被控訴人が別表第一(一)、(二)の本件約束手形二通を振出したことは当事者間に争がなく、その余の事実は成立に争ない甲第一、二号証の記載および存在により認めることができる。

よつてすすんで被控訴人主張の抗弁について検討する。成立に争ない甲第一ないし三号証、同第四号証の一ないし七、乙第一、二号証、原審および当審証人樋口正雄の各証言、原審および当審における控訴人本人尋問の結果(一部)を綜合すると、訴外有限会社樋口商店はかねて控訴人に本件約束手形二通を含む別表第一(一)ないし(四)の各約束手形の割引を受けていたところ、右(一)、(三)、(四)の各約束手形がいずれも不渡りとなつたので、昭和三三年一二月二三日控訴人は右訴外会社代表者樋口正雄と協議のうえ、右訴外会社が控訴人に対して負担する前記四通の約束手形金合計四一〇、〇〇〇円の債務を消費貸借の目的とし、弁済方法は金二八〇、〇〇〇円を昭和三四年一月四日に、金一三〇、〇〇〇円を同年同月一八日に支払うこと、遅延損害金は日歩九銭八厘、訴外樋口正雄を連帯保証人とする旨を定めた準消費貸借契約を結び、その公正証書作成に必要な書類を訴外樋口正雄より差入れさせるとともに、訴外樋口の右債務を確保するため、同人振出名義の別表第二記載の約束手形七通を振出交付せしめ、これと引換えに前記不渡に帰した別表第一(三)(四)の約束手形二通を訴外樋口に返還し、かつ、同(一)(二)の本件約束手形二通は目下手許にないので入手次第同人に返還することを同人との間で約定し、次いで、昭和三四年一月八日前記公正証書が作成されたことが認められ、原審および当審における控訴人本人の供述中右認定に反する部分はこれを措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、訴外会社が控訴人に対し負担する前記約束手形金債務は右当事者間に消費貸借上の債務に更改せられたものと認めるのが相当である。しかしながら、右当事者間において、右訴外会社は控訴人の本件手形金請求に対し、右更改契約による手形債権消滅を主張して、その支払を拒みうることは勿論であるけれども、本件手形の振出人たる被控訴人としては、手形所持人たる控訴人に対抗できる人的抗弁等をもたないかぎり、自己の後者たる右訴外会社(裏書人)が手形所持人たる控訴人に対して有する前記抗弁を援用して、その支払を拒むことはできないというべきである。けだし、手形債務者と所持人間の直接関係に由来する前記人的抗弁は、その性質上これを個別的に観察してその当否を決すべきものであるから、右抗弁を援用できる者は当該債務者にかぎり、それ以外の債務者に及ばないと解すべきであるからである。したがつて、被控訴人の抗弁は理由がない。

もつとも、被控訴人の主張中には、「控訴人が訴外樋口との間において、被控訴人の本件各約束手形の振出人としての債務そのものを消滅せしめる趣旨の更改が成立した」との主張を含むものと解しうるとしても、証拠上右主張は認めがたいから、被控訴人の右抗弁も採用することができない。

しからば、被控訴人は控訴人に対し本件各約束手形金およびこれに対する各支払期日の翌日以降支払済まで手形法所定年六分の割合による利息金を支払う義務があり、控訴人の請求はすべて正当といわねばならない。

よつて、控訴人の請求を棄却した原判決はこれを取消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文の通り判決する。

(裁判官 沢栄三 斎藤平伍 石川義夫)

別表第一、別表第二<省略>

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