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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)153号 決定 1960年9月01日

抗告人 巫阿淵

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告理由は別紙のとおりである。

信用組合大阪華銀(以下信用組合)は、昭和三三年九月二〇日現在、本件不動産(物件所有者巫幸恵)に関する根抵当権設定契約(債権額金七五〇、〇〇〇円)の基本たる与信契約に基く手形貸付により金七〇〇、〇〇〇円(弁済期昭和三二年九月一五日)の債権を抗告人に対し有していたところ、本件競売申立人である中小企業信用保険公庫(以下公庫)との間に、信用組合の公庫に対する保険金返還債務の担保として前記金七〇〇、〇〇〇円の抵当権付債権に質権を設定する旨の昭和三三年九月二〇日付保険金返還債務確認並に債権質権設定契約証書を取り交わし、右質入債権の債権証書である抗告人振出の金額金七〇〇、〇〇〇円受取人信用組合の約束手形を白地式裏書の上公庫に交付し、抗告人及び物件所有者に対し昭和三三年九月二二日発信翌二三日到達の内容証明郵便を以て、本件不動産に関する根抵当権設定契約の基本たる与信契約を解約する意思表示をするとともに前記金七〇〇、〇〇〇円の抵当権付債権を質入した旨通知したことは本件記録上明かである。

以上認定の本件事実関係によれば、信用組合は、抗告人に対する与信契約解約により前記金七〇〇、〇〇〇円の債権額が本件根抵当権の被担保債権額として確定することを停止条件として、本件競売申立人たる公庫に対し前記金七〇〇、〇〇〇円の抵当権付債権に質権を設定したものと認めるのが相当である。

根抵当権設定契約の基本たる与信契約に基き現存する債権を、右債権額が与信契約解約により根抵当権の被担保債権額として確定することを停止条件として、抵当権付債権として質権を設定することはもとより有効であり、前記認定により右停止条件が成就していることは明かである。

よつて本件抗告を棄却し、民事訴訟法第八九条を準用し主文のとおり決定する。

(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)

抗告理由

一、本件競売記録によると原抵当権者である信用組合大阪華銀(以下華銀と略称)が転抵当権者である中小企業信用保険公庫(以下公庫と略称)に債務者に対する債権金七十万円を譲渡したのは昭和三十三年九月二十日であり華銀が債務者に対し与信契約を解約したのはその二日後の同年九月二十二日で翌二十三日解約の書面が債務者に到着している事は明らかである

従つて前記債権の譲渡せられた九月二十日当時はなお与信契約の存続中であつてこの事は華銀と公庫との間に取交はされた債権質入に関する書類中別表二担保物件の表示に根抵当権一番金額七五〇、〇〇〇円という記載のある事からはつきりしている

然るに根抵当権は与信契約の終了によつて始めて債権額も確定し普通の抵当権に転化するものであるからそれ以後に於て譲渡質入等の処分をなし得る事は論をまたないがそれ以前に於てはたとへ個々の既発生の債権について質入をなされても根抵当権迄これに追随して移転するものではない、ことに本件の如く金融機関との当座貸越契約においては債権関係は常に浮動の状態にあり与信契約の終了をまつにあらざれば根抵当権の処分もこれをなし得ない事は学説、判例に於ても異論の無い所である

根抵当権者たる地位の移転について移転の当事者と債権者の合意のある場合はこれを有効とする大審院の判例(昭和十年(オ)第一八一七号大審院民事判例集一四、二一二一)がありこれを本件に類推して華銀、公庫、債務者ならびに物件所有者の合意を得てなされたものであれば格別然らざる限りたとへ金七十万円の債権が質入なされたとしても根抵当権は公庫に質入の効果を発生しないものである

以上の次第で公庫が適法に根抵当権の質入を受け得た事を前提とした本件競売は許されざるものである

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