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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)186号 決定 1961年7月10日

抗告人(仮差押債権者兼配当要求債権者) 近田宗一

相手方(配当要求債権者) 重栖武生

主文

原決定を取り消す。

相手方四名の配当要求の申立をいずれも却下し、原審の昭和三五年六月一七日午後一時の配当期日調書添付の配当表を取り消す。

抗告費用は相手方等の負担とする。

理由

抗告代理人は、主文同旨の裁判を求め、その抗告理由は別紙のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

(一)  債権者塩谷伊三雄は、債務者沢田武重に対する公正証書に基く準消費貸借契約上の債権金六六万一、二七〇円の執行として、昭和三四年一一月一一日債務者が第三債務者兵庫県に対して有する報酬債権六二万七、三〇八円の差押命令および取立命令を得、右決定正本は、同月一二日第三債務者に、同月一四日債務者に送達された。ところが、債務者の右報酬債権については、抗告人は、債務者に対する預け金返還債権二五〇万円およびこれに対する昭和三〇年一二月二七日以降支払ずみにいたるまで年五分の割合による損害金債権の内金一〇〇万円の債権の執行保全として、神戸地方裁判所昭和三三年(ヨ)第五八号債権仮差押決定を得て、すでに仮差押執行中であつた。そこで、第三債務者は、昭和三四年一一月一八日神戸地方法務局に右報酬債務六二万七、三〇八円を供託するとともに、同日神戸地方裁判所に供託書を添えてその旨の事情届を提出した。

(二)  抗告人は、同年一一月一七日、債務者に対する前記預け金返還債権二五〇万円およびこれに対する昭和三〇年一二月二七日以降昭和三四年一一月一六日まで年五分の割合による損害金四八万五、二三二円合計金二九八万五、二三二円の債権中、すでに仮差押執行中の債権金額一〇〇万円を控除した残金一九八万五、二三二円の債権について、債務名義によらない配当要求の申立をした。

(三)  相手方重栖武生は、昭和三四年一二月一一日、債務者に対する貸金二五万円およびこれに対する昭和二九年一〇月二一日より昭和三四年一〇月二〇日まで年一割の割合による損害金一二万五、〇〇〇円について、債務名義によらない配当要求の申立をなし、相手方空中正雄、斎藤達雄は、いずれも昭和三四年一二月一四日、前者は貸金五〇万円およびこれに対する昭和三〇年一月二六日以降昭和三四年一〇月二五日まで月一分の割合による損害金二九万円につき、後者は貸金七〇万円およびこれに対する昭和二九年一〇月一六日以降昭和三四年一〇月一五日までの年五分の割合による損害金一七万五、〇〇〇円につき、それぞれ債務名義によらない配当要求の申立をなし、相手方村上繁雄は、昭和三五年一月三〇日、貸金一五〇万円およびこれに対する昭和二九年四月一一日以降昭和三五年一月一〇日まで月一分の割合による損害金一〇三万五、〇〇〇円につき、債務名義によらない配当要求の申立をした。

(四)  抗告代理人は、右相手方四名の配当要求の申立に対して異議を申し立てていたところ、原裁判所は、前記各債権者から債権計算書を提出させて、昭和三五年六月一七日午後一時の配当期日調書添付の配当表を作成し、同期日において、抗告人の右申立を理由なしとして、却下したが、同期日における各債権者の異議が完結しなかつたので、原裁判所は配当手続を中止した。

以上(一)ないし(四)の各事実が本件記録から認められる。ところで、金銭債権に対する強制執行で配当要求をなし得る時期について、民事訴訟法第六二〇条一項は、差押債権者が第三債務者から取立をなし、その旨を執行裁判所に届け出た時を限度としている。しかし、他方において、同法第六二一条第一項三項は、差押債権者の差押にかかる債権について、すでに仮差押その他重複差押や配当要求があるときは、第三債務者が自ら債務額を、配当にあずかるすべての債権者のために供託して、その事情を執行裁判所に届け出て、これによつて執行手続上の関係人としての地位から脱退することを認めている。この場合においては、本来の債権差押ならびに取立の執行手続は終了してしまい、じごは、執行裁判所の保管する供託金(第三債務者は事情届書に添えて供託書を執行裁判所に提出しなければならない。民訴五九三条三項参照)が差押ならびに取立にかかる債権の代位物としての金銭たる性質をもち、したがつて、従来の債権の差押は、該供託金の上に、金銭差押としての効力を存続することになる。したがつて、第三債務者が右事情届を執行裁判所に提出すると、差押債権者による債権取立の段階はもはや介在する余地がなくなるとともに、執行裁判所は、保管する供託金を配当資源として、直ちに配当手続に着手し得る状態におかれ、着押債権者および配当要求債権者も、直ちに配当手続において、供託金の交付を請求し得るものといわなければらない。民事訴訟法第六二七条にいう「事情届書」には、第三債務者の右のごとき事情届書がふくまれるのであつて、同条が、事情届書の提出があると、直ちに配当手続に着手すべきことを定めているのも、前記の趣旨に出たものに外ならない。したがつて、第三債務者が民事訴訟法第六二一条による供託をして、事情届書を執行裁判所に提出した場合においては、執行裁判所は、該供託金をもつて、直ちに配当手続に着手すべきものであり、他の債権者の配当要求をなし得る時期は、第三債務者が右事情届書を提出した時までと解するのを相当とする。この点につき、第三債務者が供託事情の届出をしても、差押債権者が供託金の取立受領を完了して、これを執行裁判所に届け出ない以上は、他の債権者は配当要求をなし得るとの判例(大判、昭和二〇年一月一八日、民集二四巻一号一頁)が存するけれども、前述のごとく、第三債務者が供託して執行裁判所に事情届書を提出したときは、差押債権者はもはや取立てることができないし、該供託金が直ちに配当資源をなすことに徴して取立の必要も認められないから、右判例には賛し得ない。

以上の次第で、本件においては、相手方四名の配当要求の申立は、第三債務者兵庫県が執行裁判所に供託事情の届書を提出した後になされたものであるから、失当であり、原審がこれらの債権者を加えて配当表を作成したことは、不当といわなければならない。したがつて、本件抗告は理由があるから、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 斎藤平伍)

抗告の理由

一、配当要求をなし得る時期は各種財産に対する執行手続につきそれぞれ法定されている(民訴五九二条、六二〇条一項、六四六条二項)。これ等の各法定時期を検討すれば、配当要求をなし得る時期は、配当すべき金銭が特定したる時を以てその時期としていることが判る。つまり動産、不動産に対する強制執行にあつては、その換価手続の終了したる時であり、金銭債権に対する強制執行においても、これと同視し得る転付命令のありたる時、又は取立命令に基づき差押債権者が取立をなしこの旨執行裁判所に届出でたる時、までと定められるている。

二、ところで、民訴法六二一条に基づき第三債務者が債権額を供託したる場合において配当要求をなし得る時期については明文がない。しかしながら、法が第三債務者に右供託をなし得る権利を与えたる所以のものは、第三債務者に差押債権者並びに既に配当要求をなしている債権者総ての為に供託をなすことにより執行手続より脱退し得ることを認めたものであり、これにより供託せられた金銭の上に差押の効力が移り以後差押債権者は第三債務者に対し債権取立の請求をなし得ないこととなるのであつて、これにより配当すべき金銭は特定したこととなる。従つて、民訴法第六二一条三項を同六二〇条一項本文と関係において考察すれば、取立命令があり、第三債務者が債権額を供託した場合における配当要求をなし得る時期は、右供託をなした第三債務者が、その事情を裁判所に届出でた時と解するのが至当である(同趣東京高裁昭34、5、8決定、集一二、5、一七五頁以下)。

三、以上を前提として本件を見るに、抗告人は本件差押債権につき神戸地方裁判所昭和三三年(ヨ)第五八号債権仮差押決定正本に基づき仮差押をなし、これにより第三債務者兵庫県は差押債権の全額を供託し昭和三十四年十一月十八日執行裁判所に事情届出書を提出した。而して、配当要求債権者重栖武生が配当要求をなしたのは同年十二月十一日であり、同斎藤達雄、同空中正雄の各配当要求は同年月十四日、同村上繁雄の配当要求は同三十五年一月三十日であつて、いづれも時期に遅れて申立てられたことは本件記録上明白である。

よつて、右事情届出書の提出される以前に適法な配当要求の申立をなしたのは、抗告人において前記仮差押に係る債権の外自己の債権に基づき昭和三十四年十一月十七日配当要求をなした以外にはないのであるから、相手方等の配当要求申立を却下し、これに基づき既に作成せられた配当表は取消さるべきである。

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