大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)42号 決定 1962年4月19日

大阪相互限行

事実

本件物件は、昭和三一年三月一三日受付を以て登記された第二審抵当権に基き、同三二年一二月二八日に競売申立がなされ、同三五年二月八日競落許可決定がなされた。

右競落許可決定に対する抗告事件が本件であり、その抗告理由の要旨はつぎのとおりである。

「訴外大阪相互銀行は、昭和三〇年二月九日抗告人徳永との間に、金額二八五、六〇〇円の相互掛金の分割弁済契約をなさしめ、徳永所有の本件物件について、第一番抵当権設定契約及び代物弁済予約を締結し、同年二月一五日抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全の仮登記を受けた。

右抵当債権は順次弁済され、昭和三五年二月九日、抗告人武居は右抵当債権残額一七、八五〇円を代位弁済して、右所有権移転請求権を譲受けた。

抗告人武居は、本件物件の競落許可決定の確定前に代物弁済予約完結の意思表示をなし、昭和三五年三月五日受付を以て前記仮登記の本登記手続を経由した。」

理由

1、証拠を綜合すると、「訴外大阪相互銀行は、昭和三〇年二月九日抗告人徳永和三郎との間に連帯保証人中村武次、上野正三郎の保証のもとに、金額二八五、六〇〇円の相互掛金の弁済契約をなさしめ、同年一月より昭和三一年四月まで毎月一七、八五〇円宛の分割弁済の約定せしめ、かつ徳永和三郎所有にかかる枚方市大字中宮八百五十三番地の三地上家屋番号同所第二五五番の三木造瓦葺二階建居宅及び倉庫一棟建坪二四坪一合八勺二階坪一六坪六勺の物件に対して第一番抵当権を設定せしめるとともに、債務不履行のときは代物弁済として物件所有権を移転すべき旨予約せしめ、同年二月一五日抵当権設定登記ならびに所有権移転請求権保全の仮登記を経由したところ、昭和三五年二月九日までに右抵当債権は二六七、七五〇円が順次弁済され、残額は、一七、八五〇円となつたとき、抗告人武居ハナが、右残額を代位弁済して、訴外銀行から右所有権移転請求権を譲受くる契約をしたことが認められる。

しかしながら、右のような代物弁済の予約をなすとき、目的物件の価格は通常その代物弁済の予定せられる債務額に見合うものであるから、その約定の債務全額の支払を怠つたときこれを代物弁済とすることを約するものと解すべく、本件におけるごとく債務額二八五、六〇〇円の大部分がすでに弁済されたばあいには、残額一七、八五〇円(債務額の〇、〇七余にあたる)の債務のためにのみ物件全部について代物弁済予約による所有権移転を求めうるがごときことは、とくべつの約定でもないかぎり、これを肯定することはできない。本件においてかかる約定の存在することはこれを認めるに足る証拠もないから、かかる小額債務のためには代物弁済予約の意思なかりしものと解するのが相当である。

2、または抗告人武居ハナが右残額一七、八五〇円以上の二六七、七五〇円の債務についても代位弁済により代物弁済予約による完結権を有し、これを行使したとの趣旨を主張するけれども、右代物弁済を武居ハナがしたという点にかんする抗告人両名の供述は、信用し難く、その他の立証によるもこれを確認するにたるものがない。

したがつて抗告人主張の代物弁済予約にもとづく所有権移転はこれを肯定しがたく、その仮登記による優先的効力も、これを認ずるに由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例