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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)6号 決定 1960年2月02日

抗告人 水六哲夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は別紙抗告理由書記載のとおりである。

一、抗告人は本件競売建物の賃料は一ケ月金四、〇〇〇円敷金五〇〇、〇〇〇円であるのに、競売期日の公告には賃料一ケ月金四、〇〇〇円権利金五〇、〇〇〇円と記載せられており、誤があるから不適法な公告であるというが、本件建物の賃貸借の敷金が五〇〇、〇〇〇円であることはこれを認め得べき証拠がない。そして本件記録中の不動産賃貸借調書には賃料一ケ月金四、〇〇〇円、権利金五〇、〇〇〇円とあり、公告には賃料一ケ月金四、〇〇〇円敷金五〇、〇〇〇円と記載せられており、両者には用語に権利金と敷金との相違がある。競売期日の公告に賃貸借あるときはその期限、借賃、借賃の前払又は敷金の差入れあるときはその額を記載要件としたのは競落人に対抗し得る賃貸借について前示の如き事項を明かならしめて、競買申出人がその物件の価値等を知る一資料とし、競買申出の有無の判断を誤るようなことのないことを所期したものである。而して賃借人が競落人に対抗し得るのは敷金であり権利金の如きは対抗できないものであるから前記競売期日の公告に賃貸借の要件を記載せしめる法の精神からすれば本件賃貸借取調調書に権利金とあるを敷金と解して公告にそのような記載をしたことは競買申出人に競買申出についての判断を誤らしめ不測の損害を被らしめるものでないから、本件公告は不適法のものということはできない。

よつてこの抗告理由は採用できない。

二、次に抗告人は本件競売建物は大阪市から強制立退を命ぜられ近日中に取毀の執行を受くべきものであり競落人において競落代金の支払をなしても現存しない家屋の所有権を取得することになり多大の損害を被むるものであると主張するが、本件建物についてすでに強制立退の命令を受けているとの事実を認める証拠はなく、たゞ、本件記録中の不動産鑑定書によれば、本件競売建物及びその敷地は大阪市の道路拡張のため二三年内に全部買収せられる予定であり、本件建物の評価に当つてはその事実をもしん酌してなされたものであることが推認せられるところであり、道路拡張のため本件建を収去するに先立つてはその買収又は移転による損失補償等が行われること当然であるから抗告人は本件競落によつて無価値の権利を取得するに至るということはできないからこの抗告理由もまた採用するに値しない。

その他本件記録を査閲するも原決定を違法ならしめる点がないから、本件抗告はその理由がないものとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 加納実 小石寿夫 千葉実二)

抗告の理由

一、本件競売期日の公告は民事訴訟法第六五八条所定の要件を記載せねばならないにもかかわず本件競売事件の公告を見るとその要件である賃貸借の期限並びに借賃の記載は栗林繁久が賃料一ケ月四千円也権利金五万円也と記載されていますが実際は賃料四千円也敷金五拾万円也であります。

二、本件家屋は既に大阪市役所より強制立退を命ぜられ近日中に本件家屋は取毀の執行がなされるものであります。

三、従つて本件競売事件記録綴中にある鑑定書の如く大阪市役所より買収されるものではありません。

以上の如き状態にて仮に本件競売の競落許可決定がなされ該決定確定の上大阪地方裁判所より競落代金の支払通知があり競落代金を支払はんか本件家屋はこれが代金支払当時には既に大阪市役所より取毀の執行を受けて何等現存しないものとなつておると思はれます。

四、かような次第にて競落人は競落代金の支払をするとしても現存しない家屋の所有権を取得することになり多大の損害を蒙ります尚競落人が代金納付を履行せず再競売を命ぜられても何人も再競売期日には本件家屋の競買をしないと思はれます。

右のような事情でありますので本件抗告をなす次第であります。

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