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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)9号 決定 1960年5月19日

抗告人 桑野勢津次

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の理由は別紙のとおりである。

抗告理由一について。

多数債権者の存在は破産手続開始(および続行)の要件でないと解するのが相当である。のみならず、原決定認定のとおり、抗告人本人の原審供述によれば、抗告人は本件破産申立人の外その妻の兄である奥村某に対し二口合計金二〇〇、〇〇〇円の債務を負担している事実を認定することができる。

抗告理由二について。

原審での証人松井功の証言によれば本件破産申立人の債権の弁済期は遅くとも昭和三四年四月一二日には全部到来済の事実を認定することができる。(この認定に反する抗告人本人の原審での供述は信用できない)

抗告理由三について。

抗告人本人の原審供述によれば、抗告人が支払不能の状態にあることを認定することができる。

抗告理由四について。

本件破産申立人との間に和解が成立したとの抗告人の原審供述部分は信用し難く、他に抗告人主張の事実を認めるに足る資料はない。

抗告理由六第一項(第五点)について

本件において破産財団を以て破産手続の費用を償うに足らない事実を認定するに足る資料はない。

抗告理由六第二項(第六点)について

なるほど破産法第三五八条には破産財団の額が一〇〇万円未満であると認められるときは裁判所は破産宣告と同時に小破産の決定をすることを要すると規定するが他方同法第三五九条には破産手続中に破産財団の額が一〇〇万円未満であることを発見したときは小破産の決定ができると規定し、しかも同法第三六一条は「小破産の決定及小破産取消の決定に対しては不服を申立つることを得ず」と規定しているところに徴すれば、破産財団に属する財産の額が一〇〇万円未満であるのに破産宣告と同時に小破産の決定がなされなかつたとしても、裁判所は追て小破産の決定をすることが許されるのであるから、その決定を破産宣告と同時にしなかつたというだけでは破産宣告決定自体に対する抗告理由とするに足るほどの違法があると見ることはできないと解するのが相当である。

よつて、抗告人の抗告理由はすべて採用できないから、本件抗告を棄却し民事訴訟法第八九条を準用し主文のとおり決定する。

(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)

抗告理由

一、原決定は、その理由中に於て、抗告人が相手方に対し、毛糸買掛代金残金債務を負担している外、「他の債権者から約金二十万円の債務を負担し」ていることを認定している。然しながら、抗告人としては、相手方に対して債務を負担している外は、何等、他に債務なく、抗告人に対する債権者は、相手方一人である。このことは、原審に於ける抗告人本人の供述により明白である。何が故に、抗告人が、他に、金二十万円の債務を負担していると認定したのか、了解に苦しむ。

然して、債権者が一人である場合、その債権者は、破産手続を利用することはできないのである。蓋し、破産手続は、包括的一般執行の手続であり、多数債権者の利害を相互に調節しつつ、各その権利の平等的実現を図る制度であるからである。破産法に規定される債権者集会の制度、その議決権行使に関する規制、債権表の制度、債権者相互間に於ける債権の認否及び確定訴訟の制度、配当に関する規律等はすべて、多数債権者の存在を前提としてのみ理解できるのである。破産法第一七九条は債権者集会に於ける決議の成立要件を規定するが、本件に於けるが如き単独債権者のみの場合、債権者集会は、その債権者の独断によつて左右せられ、破産手続は、債権者によつて牛じられる結果を紹来するであろう(原決定は、債権者集会の期日を指定している。)。

以上を要するに、破産宣告は、多数債権者の存在を絶対的要件とするのであり、この点に於て、原決定は違法を犯している。

二、又、原決定は、抗告人の弁済期未到来の抗弁に対し、「毛編製品の最盛販売期をすぎたときに当然毛糸代金も決済する趣旨と解される」と判断し、遅くとも、昭和三十四年四月頃には取引代金も決済すべきであると断定する。然し、「最盛販売期」とは何を指すのか、その時点は何時なのかがそもそも判明しないのみならず、何故に、昭和三十四年四月頃が、その時期になるのかが不明である。理由の齟齬、不備と言うべきである。本件申立債権の弁済期は未到来であり、相手方は、破産申立の適格を有しない。

三、本件債務は、自然人の負担する債務であるところ、自然人の破産原因は、支払不能である(破一二六I)。

然して支払不能とは、債務者の客観的財産状態のみならず、債務者の人的信用をも考慮に入れた概念であることは多言を要しない。

然るところ、債務者たる抗告人の実父桑野丈太郎は、土地、建物を保有し、財産を有している。のみならず抗告人、相手方間に於て、示談の話ができたとき、その財産を提供して、抗告人の債務支払を援助せんとした事実がある。これは、抗告人の人的信用を構成すると言わねばならない。従つて、抗告人には破産原因なく、破産者となるべき謂われは毛頭ないのである。

尤も、破産法第一二六条第二項によれば、支払停止は支払不能を推定せしめる。然し、抗告人に於て、支払を停止した事実はない。疎甲第一号証の、支払状況をみれば明らかである。

四、昭和三十四年一月初め、抗告人と相手方との間に示談が成立したのに拘らず、その翌日、相手方は一方的にその示談を廃棄し且つ、債権の弁済期未到来なるに拘らず、各種仮差押、仮処分をなすと共に、本件破産申立に及んだものであり、しかも、その申立書に記載する事実は、抗告人に対する人身攻撃であつた。即ち、抗告人を困惑させ、追及する手段として破産制度を利用せんとしたのである。これは、破産制度の悪用であり、国家に対する破産申立権の濫用として、本件破産申立は許されないものである。

五、以上何れの点よりするも、本件破産の申立は許容すべきものではなく、之を却下すべきであるに拘らず、原決定は之を看過して敢て破産決定をなしたのである。宜しく、これが違法は是正さるべきである。

本件即時抗告に及び、原決定の取消及び本件破産申立の却下を求める所以である。

六、仮りに以上のことが理由なく、抗告人が破産者となるべきものとしても、破産財団を以て破産手続の費用を支弁することができないこと明白であるから、破産宣告と同時に破産廃止の決定をなすべきものである。これを看過した原決定は違法である。

更に又破産財団に属する財産の額が百万円にみたないことは一件記録上、明白である。依つて、原審は宜しく、破産の宣告と同時に、小破産の決定をすべきであつた(破三五八I)。これを看過した原決定は、又取消さるべきものである。

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