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大阪高等裁判所 昭和36年(う)792号 判決 1962年7月18日

判   決

会社員

山田敬三

運転手

浜岡康正

右の者らに対する住居侵入被告事件について、昭和三六年三月一三日奈良地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人らから控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 鈴木知治郎 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴趣意は記録にある弁護人東中光雄、同橋本敦、同正森成二、同小牧英夫連名による作成の控訴趣意書及び同橋本敦、同正森成二、同小牧英夫各作成の同補充書記載のとおりであるからこれを引用する。

所論の要旨は、政府が道徳教育を教育課程に加え、道徳教育時間を特設することを命じ、道徳教育指導者講習会を開催することは、日本国憲法、教育基本法及び学校教育法に違反する。右講習会を開催された場所は奈良学芸大学移転予定地域である判示旧岐阜陸軍航空学校奈良教育隊跡であり、同地域内においては昭和三〇年七月から同大学が体育等の授業に使用していたのであつて、これを違憲、違法な前記講習会に使用したのは、大学の自治の侵害に当り、しかも右講習会開催は越権違法な警察権の行使のもとに行われたもので、この点においても違法である。被告人らの本件立ち入り行為は、右違法を是正排除するために、国民の権利擁護の目的をもつて正当に行われたものであり、超法規的違法阻却事由があり、又は抵抗権の行使として正当性があり、刑法第一三〇条の「故なく侵入」したことには該当しない。また大学当局が奈良県教育委員会に講習会場として使用を許可したのは、右地域内の一部の建物及びその敷地に限られており、被告人らが入所したのは奈良県教育委員会の管理権の及ばない右建物及びその敷地以外の土地であり、同土地について右大学側は学校の施設、財産権保全の目的をもつて立ち入りを禁じただけで、被告人らの前記目的による立ち入りが大学当局の意思に反していたとは認められない。しかるに原判決が、右全地域を右教育委員会の管理に属するとし、右講習会受講者ら約四〇〇名が起居する同講習会場内に故なく侵入したとして、右場所を刑法第一三〇条の住居邸宅又は建造物の何れに当るかを明らかにせず、道徳教育時間特設等は行政権の行使に属し、行政権の行使にかりに違法があるときでも、それが明白、かつ重大であつて、その行政処分が当然無効となる場合又は裁判所が終局的に無効と判断した場合を除き、行政権の行使による処分は一応適法の推定を受けるのであり、本件道徳教育時間特設及び道徳教育指導者講習会はこれに該当し、それが違憲違法のものとはいえないとし、また前記学芸大学の授業が本件地域において行われたのは、同年一〇月二四日であつて、右講習会の開催当時は授業は行われておらず右関係が大学自治を侵害した事実はないと認め、本件行為が超法規的違法阻却事由を有し、抵抗権の行使による正当性があるとする主張を排斥して、刑法第一三〇条の罪の成立を認めたのは、事実を誤認し、法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。

原判決挙示の証拠を記録について検討すると、原判示奈良学芸大学移転予定地というのは、もと旧陸軍航空整備学校奈良教育隊跡で、終戦後これを使用していた駐留軍から国が返還を受け、大蔵省近畿財務局の管理に属していたが、昭和三三年三月二〇日奈良学芸大学がこれを使用することを認められ、同大学の移転予定地となつて同大学が管理しており、移転が完了したのは同年一〇月ごろで、それまでは整備修築中で、構内の一部であるプールにおいて学生が水泳に使用する等のことはあつたが、実際授業が開始されたのは同月二四日ごろであつたこと、同地域は面積約四三九〇〇坪のほぼ長方形の地帯で、周囲を高さ約二メートルの金網の柵で囲み、柵の上部には高さ約〇、七メートルの有刺鉄線を外側に約一五度傾けて取りつけ、西側に正門、南側に裏門があり、いずれも門扉があり、ことに表門の傍には門衛の詰所が設置されており、これによつて外部との自由の交通を遮断されており、右詰所には守衛がおり時々地域内を巡視し警戒に当つていたこと、文部省及び奈良県教育委員会共催の道徳教育指導者講習会が右地域内で同年九月二三日から同月二八日までの間開かれることとなり、同月一五日付で、奈良県教育委員会から右大学学長稲荷山資生に対し、右地域貸与方を要請し、その承諾を得たこと、右講習のために使用する場所は右地域内の一部に限られていたが、講習会を阻止する集団行動が強行されるおそれがあり、これに対する警備の都合等のために全地域の貸与を受けることとなり、右開催中に前記守衛詰所に主催係員がおり、学校関係者、建築工事関係者及び講習会関係者らのほか一般の出入を禁止し、右関係者であることを表示する標識のリボンを着用させ、一般の出入を禁ずる旨の掲示を正門前に置き、なおかつ集団立ち入りに備えて右関係者の身体等の保護のため右学長並びに文部省初等中等教育局長内藤誉三郎及び奈良県教育長足立浩の名をもつて奈良県警察本部長に対し警察官の出動を要請して警備に当らせていたこと、右講習が実施されたのは右地域内の中央辺の南側と東側に散在する三個の建物であり、また同構内南端にある南寮と称する建物と、北端にある北寮と称する建物には受講者ら約四〇〇名が右期間中宿泊したこと、被告人らは道徳教育に反対し、右講習会の実施を阻止する目的で、右地域の東側の柵の金網の破れた個所から多数とともに右地域内に入りスクラムを組んでワツシヨ、ワツシヨと右個所から右建物前に通ずる構内道路を経て数百メートル離れた正門付近まで達したことが認められる。

ところで刑法第一三〇条にいわゆる建造物とは、住居以外の用に供されている建物及びその囲繞地を指すと解するを相当とするところ、被告人らが立ち入つた場所は、門扉及び柵をもつて囲まれ、かつ看守者を置いて、外部との交通を制限した地域であることは前記のとおりであるから、右場所が同条の建造物に該当することは明らかである。(原判決は被告人の侵入した場所を刑法第一三〇条の建造物に当ることを明確にしていないことは所論のとおりであるが、住居又は建造物であるかについての認定の誤りがあつても、法令の適用上は同一であつて、右明示を欠いても判決に影響を及ぼすことがないことは明らかである。)また被告人らの右場所に立ち入ることについて、右場所の管理者である学芸大学学長及び奈良県教育委員会の意思に反したことは原審の稲荷山資生らの証言調書中に、右講習会期間中一般の立ち入りを禁止し、かつ、右講習会の実施を阻止するために右場所に侵入すること等に備えて、奈良県警察本部長に対し警察官の出動を要請した旨の記載があり、右要請のあつたことは原判決挙示の証第三号、第四号によつて裏付けされており、なお被告人らが前記柵の金網の破れ目から警備のうらをついて侵入した事実自体によつて明認される。

しからば、被告人らの本件行為が刑法第一三〇条の罪を構成することは争う余地がない。同条にいわゆる「故なく」とは「正当の事由なく」という意味であり、いいかえれば刑法総則所定の違法阻却事由のないことを指称する趣旨にほかならないと解するのを相当とする。しかるに記録を精査しても道徳教育会を違憲違法としてこれを阻止する目的でされた本件建物侵入に右違法阻却事由のある根拠を見出すことはできない。しかも前記証拠によると、文部省は昭和三三年三月の教育課程審議会の答申により、従来国語、社会、算数、理科、音楽等の教科による指導中において、道徳に関する事項を学習させることを目途としていたのを改め、従来の学習指導によつて道徳について学習させるほかに、特に道徳教育の時間を設けて道徳教育を実施する方針をとることとなり、その徹底を期するために、道徳教育指導者講習会を開催することとなり、文部省初等中等教育局長から奈良県教育委員会に対し、その共催を委嘱した結果、本件講習会が開かれたことが認められる。そして昭和二七年法律第二七一号による改正の文部省設置法第五条第一二号に、教育、学術及び文化の振興に関し調査し、及び企画することが文部大臣の職務権限事項に属することが規定され、同八条第五号に、初等教育、中等教育及び特殊教育の振興に関し、企画し、及び援助と助言を与えることが、また同条第七号に、初等中等教育の基準の設定に関する事務が、文部省初等中等教育局の所管事務と定められており、昭和二七年八月三〇日政令第三八七号による改正の文部省組織令第八条第一号ロに、教育課程の編制その他の教育に関する基準を設定し、及びこれらの実施に関し指導と助言を与えることが初等教育課及び中等教育課の各所管事務と定められており、また学校教育法第二〇条、第三八条、第一〇六条によると、小中学校の教科に関する事項は監督庁である文部大臣が定めるとされており、これらによると、小、中学校において実施すべき学習指導の対象である学科の種類、課目を定めること、教科書を使用すべきか否か等指導方法に関する方針を定めること等教育に関する基準を企画、設定し、その実施に関し指導と助言を与えることが文部省の職務権限とされていることが明らかである。従つて道徳に関する教育を実施すべきこと及びその実施の方法を設定し、これについて小、中学校において教育の実務に当る者に対し指導と助言をすることが文部大臣の職務権限に属することはいうまでもなく、それが教育基本法の前文及び各条規に照し同法に違反するとすべき根拠はない。文部省は道徳教育時間特設の実施に当り従来の学校教育法施行規則第二四条(昭和二二年五月二三日文部省令第一一号による)に「小学校の教科は、国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭、体育及び自由研究を基準とする」とあつたのを昭和三三年八月二八日文部省令第二五号により「小学校の教育課程は、国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭及び体育の各教科並びに道徳、特別教育活動及び学校行事等によつて編成する」と改め、両規則第二五条に「小学校の教科課程、教科内容及びその取扱いについては、学習指導要領による」とあつたのを「小学校の教育課程については、この節に定めるものの外、教育課程の基準として文部大臣が公示する学習指導要領によるものとする」と改め、中学校についても右両趣旨のとおりの改正をし、これによつて小、中学校において学習指導要領によつて道徳教育を実施すべきこととしたことが認められる。学校教育法第二〇条、第三八条には「教科に関する事項」は文部大臣が定めるとおり、同法施行規則第二四条、第二五条には教科の外教育課程という表現を使用しているが、所論のように前者の教科の表現中には教育課程に該当するものを含まないとし、後者において道徳を教育課程に加えたことをもつて、前者の範囲を逸脱した越権、違法の処置と解すべきでないことは、前記のとおり小、中学校の教育を企画し、設定し、その基準を定め、指導することが、文部大臣の職務権限と定めていることに徴し疑いを入れる余地はない。原判決引用の原審の証人内藤誉三郎に対する尋問調書によれば、改正学校教育法施行規則中に、教科の外教育課程という表現を採用したのは、学習をなさるべき課目すなわち教育課程を教科書を使用するものと、しからざるものとに分け、前者を教科と表現し道徳教育の実施が戦前の修身科の復活を企図するものではなくそのことを明らかにし、徹底させるために、道徳の学習には教科書を使用しない方針としたことによるに外ならないことが認められるとともに、前記文部省設置法関係の法令の根拠上、教育基本法、学校教育法の根本精神に従い、修身科復活となることを排斥し、これを明らかにする限り、いわゆる教科中に道徳を加え、道徳の学習に教科書等の指導書を使用することを定めることも可能であつて、許されないことではないと解されるのであつて、教科の外に教育課程の表現のあることをとらえて、右施行規則を違法視すべきではなく、学校教育法第二〇条の「教科に関する事項」には、右施行規則にいわれる教育課程の趣旨が包含されていると解するのを相当とする。次に文部省設置法第五条第二一号によつて、教育、学術又は文化に関する重要な題目について、会議、研究会、討論会その他の催しを主催することが文部大臣の職務権限事項と定められ、同法第八条第一三号のロにより、初等中等教育に関係のある教職員のための研究集会、講習会、その他の催しを主催することが、初中等教育局の所管事務とされ、文部省組織令第八条第一号チ、第九条第一号チにより、研究集会、講習会その他の催しの主催に関することが、初等教育課又は中等教育課の所管事務とされていること、なお文部省設置法第五条第一九号の二及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四八条第一項、第二項第四号により、校長、教員、その他の教育関係職員の研究集会、講習会その他の研究に関し、地方公共団体に指導及び助言を与え、又はこれらを主催することが文部大臣の職務権限とされていることが明らかである。以上によつて考察すると、道徳を初等、中等教育における教育課程に加えたこと、道徳教育指導者講習会を奈良県教育委員会と共催したことは、すべて法律の規定に基いて実施されたもので、合法的であることが明白である。

次に前記学校教育法第二〇条、第三八条により小、中学校の教科に関する事項を定めるについては、同法第一七条、第一八条又は第三五条、第四六条に従わなければならないこととなつており、同法第一八条第一号には、小学校における教育については、学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うことを目標すとべきことが規定され、また同第三六条第一号に、小学校における教育の目標をなお充分に達成して、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うことを努めるべきことが規定されまた学校教育施行規則第二五条には、小、中学校の教育課程については、その基準として文部大臣が公示する小学校指導要領によるものとするとされ、昭和三三年八月二八日文部省告示第七一号により定められた小学校学習指導要領道徳編及び同第七二号により定められた中学校学習指導要領道徳編には、いずれも「人間尊重の精神を一貫して失わず、この精神を、家庭、学校その他各自がその一員であるそれぞれの社会の具体的な生活の中に生かし、個性豊かな文化の創造と民主的な国家および社会の発展に努め、進んで平和的な国際社会に貢献できる日本人を育成することを目標とする。」と明記し、その目標のもとに指導すべき具体的事項を挙げているが、いずれも個性尊重、民主平和を根本理念としていることが認められる。なお押収されている小学校学習指導要領(証第七号)及び中学校学習指導要領(証第八号)は、同年一〇月一日文部省告示第八一号によつて、前記指導要領を改訂したものであるがそれによると、その各道徳教育の項には「学校における道徳教育は本来学校の教育活動全体を通じて行うことを基本とする。したがつて、道徳の時間はもちろん、各教科、特別教育活動および学校行事等学校教育のあらゆる機会に、道徳性を高める指導が行なわなければならない。道徳教育の目標は、教育基本法および学校教育法に定められた教育の根本精神に基く。すなわち、人間尊重の精神を一貫して失わず、この精神を、家庭、学校その他各自がその一員であるそれぞれの社会の具体的な生活の中に生かし、個性豊かな文化の創造と民主的な国家および社会の発展に努め、進んで平和的な国際社会に貢献できる日本人を育成することを目標とする。道徳の時間においては、各教科、特別教育活動および学校行事等における道徳教育と密接な関連を保ちながら、これを補充し、統合し、またはこれと交流を図り、児童の望ましい道徳的習慣、心情、判断力を養い、社会における個人のあり方についての自覚を主体的に深め、道徳的実践力の向上を図るように指導する」とあり、この目標を基準として具体的指導事項を定めて列記しており、道徳を国語、社会等の教科とは別個の課程とし、各教科による教育による不足を補い、教育活動全体を通じて行わるべきことを予定していることが明らかである。これによると、文部省の企画設定した道徳教育は、日本国憲法の根本理念である民主、平和、個人尊重等を根幹としこれに準拠して実施さるべきものであり、教育基本法及び学校教育法の趣旨に合致されるべきものであり、それは憲法第二六条第一項の規定に基きこれに従つて定められたものであつて、記録を精査しても、それが所論のように教育基本法に反し、教育に対し不当な干渉をし、専制独裁的国家体制の再来を予期し、平和を否定し軍国主義の復活を予定したものであるとか、その危険を包蔵したものであるという心証を形成することができない。その他あらゆる観点から考察してみても、道徳教育実施の処置が違憲、違法、無効であるとする論旨を採用する余地はない。むしろかような趣旨のもとに道徳教育が実施されることこそ日本国憲法の精神を理解、徹底させるゆえんであると考えられる。

しかるに所論は、被告人らは文部省が道徳教育を企画設定すること自体が違憲違法であるとし、又文部省が実施することと定めた道徳教育の内容及び前記講習会が民主、平和、個人尊重の憲法上の諸原則を破壊するという見解に立ち、本件建造物侵入をあえてしたのであるが、被告人らの右見解は証拠によらず、しかも具体的条文によらない、独断的なもので合理的根拠のないものといわざるを得ない。

次にまた憲法第二三条の保障する学問の自由とは、警察力の不当の弾圧により学問に対する研究の自由が侵害されることがないことを保障することを意味し、大学内における教員、研究員及び学問研究及び教育活動上の自治を認め、これに伴う大学内の秩序維推についてはできるだけ大学学長の自主的規則に委ねる趣旨であつて、大学内における違法行為を無制限に放任し、警察権の関与を絶対に排除することを承認する趣旨ではない。しかも前記証拠によると、本件講習会開催そのものは右大学の学問活動とは何ら関係ないのみならず、右地域内のプールにおいて、昭和三三年七月ごろ奈良学芸大学の学生の一部が水泳の講習を受けたことはあるが、同大学が右地域に移転を完了し実際に授業が開始されたのは、同年一〇月二四日ごろであり、なお本件講習会が開催された当時は夏季休暇中であり、いずれにしても当時右地域内において同大学の学問活動、教育活動が現実に行われた形跡は認められず、従つて所論の警察官の出動によつて侵害されるべき「学問の自由」が存在し、現にその侵害又はそのおそれがあつたことを認めることができない。またその発動は、右講習会関係の自由、身体等に対する侵害を防止するために必要であるとして、前記のとおり同大学学長稲荷山資生の名をもつてなされた要請に基いて行われたもので、警察法第二条の規定に準拠したものであり、これに違反したものではなく、これをもつて不当不法の警察力の介入というべき法的根拠はない。むしろ右受講者らの講習会における受講、研究に関する活動は、憲法第二三条によりその自由を保障されなければならないものに属し、外部力の介入により妨害することを許すべきでないとすることが、右憲法の規定の精神に合致すると考えられる。以上のとおり、文部省が小、中学校における教育に道徳を加えることを企画し、これを実施することとしたこと及びこれに関し道徳教育指導者講習会を開催したことは、いずれも合法、合憲であり、これによつて日本国憲法による法的秩序を破壊し、憲法の認める基本原則を無視し、その定める基本的人権を侵害する事実ないしその危険の発生のおそれはないといえることが明らかであり、被告人らの本件侵入に法定の違法阻却事由がある場合に該当しないことについて疑いはない。まして被告人らの行為について超法規的違法阻却事由があるとか、又はいわゆる抵抗権の行使として正当であるという論旨は本件について合理的妥当性はなく、これを採用すべき法的根拠のないことはいうまでもない。(原判決は、道徳教育実施はそれがかりに違法であるとしても、それが明白かつ重大で当然無効となる場合、又は裁判所において無効であるという最終的判断がなされた場合を除き、一応適法の推定を受けるもの、いわゆる統治行為に属するとし、本件においては一応適法有効の推定を受ける場合に該当するという趣旨の説明をしていることは論旨指摘のとおりである。道徳教育実施に関する行政行為がいわゆる統治行為に属し、裁判所の判断になじまないものであるという原審の見解には賛成できないが、道徳教育実施及び本件講習会開催が違憲違法でないことは原判決も明示しているところであり、結論においては前記判断と趣旨を同じくし、右の点は判断構成過程における立論上の差異に止り、判決に影響はないことは明らかである。)

原判決の事実認定、法令の解釈適用は正当であり、論旨はすべて理由がないから、刑事訴訟法第三九六条により主文のとおり判決する。

昭和三七年七月一八日

大阪高等裁判所第一刑事部

裁判長裁判官 松 村 寿伝夫

裁判官 小 川 武 夫

裁判官 若 木 忠 義

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