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大阪高等裁判所 昭和36年(ツ)59号 判決 1962年4月28日

判   決

神戸市生田区中山手通七丁目一〇番地の五

上告人

鈴木定夫

(ほか二名)

右三名訴訟代理人弁護士

山下直次

神戸市長田区川西通五丁目一八七番地

被上告人

前嶋貞次郎

右訴訟代理人弁護士

毛利与一

島田信治

右当事者間の頭書事件につき、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

本件上告をいずれも棄却する。

上告費用は、上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山下直次の上告理由は、添付の別紙記載のとおりである。

上告理由第一点について。

甲第二、三号証(上告理由に甲第一、二号証とあるのは、誤りである。)の各写と、上告人ら提出にかかる口頭弁論再開申請書添付の各登記簿謄本とを検討するに、所論の各仮登記については、後者においては朱抹の記載及び「朱線錯誤」の付箋の添付があり、前者にはこれらの表示がないことが認められる。しかしながら、記録により弁論の経過をみると、前記各仮登記が登記簿上存在していること(抹消されていないこと)自体(その効力の有無は別として)は、原判示のように当事者間に争いのない事実である。論旨は、この点に関し、独自の見解並びに原審で主張しない事実に基づき、原判決を非難するものであつて採るを得ない。

もつとも上告人が原審に口頭弁論の再開申請書とともに提出した登記簿謄本によれば、被上告人が第一審に提出した甲第二、三号証(本件係争建物の登記簿謄本)の写には所論仮登記の朱抹斜線の表示をすべきであるのにそれがなされていないことは前叙の通りであるけれども、右斜線が如何なる登記事由によつて表示されたかについての登記事項の記載を欠くことも右登記簿謄本上明白であるから、その朱線の表示は、単純な事実状態に過ぎず、登記法上抹消の効力を生じるに由がなく、従つて右仮登記は依然として朱斜線の表示のない以前の効力を持続しているものと解すべきであり、仮に原審において口頭弁論を再開して上告人に右仮登記の朱斜線の施された現状に基く無効の主張をする機会を与えたとしても、それを採用し難いことは明かであるから、原審が口頭弁論を再開して上告人にかかる主張をする機会を与えなかつたからといつて、釈明義務を尽さなかつたとはいえないし、審理不尽の違法はない。

同第二点について。

上告人らの(一)記載の見解は、当裁判所の採らないところである。

本件各仮登記の存在していることが当事者間に争いのない事実であることは、前記のとおりであるところ、論旨は、独自の見解に立ち、原審で主張しない事実に基づき原判決を非難するもので、理由がない。

同第三点について。

いわゆる債権者団なるものは、多数債権者の集合体ではあるが、一方債権者各自の間に利害の対立することもあつて、必ずしも目的が一定しているとはいえず、その総体そのものが、たとえ代表者または管理人の定めがあつても、訴訟法上権利義務のにない手として取扱うに適する程、構成員個人から独立した存在ではなく、社団たる性質を有しないものであるから、これに対し、権利能力なき社団として当事者能力を認めることはできない。また、記録を検するに、債権者団(多数者)が上告人鈴木を訴訟の当事者として選定した事実は見当らない。

もしそうであるならば、所論の「上告人鈴木は、債権者団の代表者たる資格において本件各建物を使用している。」との原審主張も、結局、同人自身がこれを占有するというに等しく、上告人らはこの点に関する被上告人の主張事実を自白したものといわねばならない。論旨は理由がない。

同第四点について。

原判決認定のような事実関係のもとにおいて、上告人鈴木の本件損害金支払義務に関し、所論要件の存在することは、特にそれを明示しなくとも、これが判断をしたことが、理由説示自体により十分うかがうことができる。その他、論旨は、原審で主張しない事実並びに独自の見解に基づき原判決を攻撃するに帰し、採るを得ない。

同第五点について。

所論は、ひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実認定への非難でしかなく、上告適法の理由として採用の限りではない。

同第六点について。

原判決表示の証拠により原判示事実を認定したことにつき、何ら違法の点は、認められない。原審認定は、採証の原則に違反し、取引並びに社会通念に反するというが、所論は、原審の適法な証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰する。

原審は角野豊の前記債務の元利不払を事由に、被控訴人が代物弁済予約の意思表示をして本件建物の所有権を取得したことを認定しているのであつて、仮登記権利者はその登記のなされた不動産に第三者の所有権取得登記がなされたときは、本登記をなすに必要な要件を具備するにいたつた場合は、仮登記のままの状態において、右第三者に対しては所有権取得登記の抹消を求めうると解すべきであるから、(昭和三二年六月一八日最高裁判決参照)被控訴人が本登記をなすに必要な要件を具備したこと右の通りである以上被上告人は(第一審被告角野に対し、本登記の請求をなし得るとともに)上告人らに対し、各その登記の抹消を求めることができる。

論旨は、理由がない。

よつて、民事訴訟法四〇一条、九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西   勝

裁判官 岩 本 正 彦

(別紙省略)

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