大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)131号 判決 1961年6月29日
判 決
新潟県三条市大字三条字田町一、四四八番地
送達場所
大阪市旭区生江町三の二七一
呉山憲司方
控訴人
白井旭
右控訴代理人弁護士
某
大阪市浪速区芦原町一、一七一番地
被控訴人
大阪産業株式会社
右代表者清算人
平山世均
右被控訴代理人弁護士
中村健太郎
補助参加人
国
右代表者法務大臣
植木庚子郎
右指定代理人検事
藤井俊彦
同法事務官
井野口有市
同大蔵事務官
横山仲記
同同
上田精一
右当事者間の昭和三六年(ネ)第一三一号所有権移転登記抹消登記手続請求控訴事件について次のとおり判決する。
主文
本件控訴を却下する
控訴費用は弁護士某の負担とする。
事実
控訴代理人は、昭年三六年六月一五日午前一〇時の当審第一回口頭弁論期日に出頭しなかつたので、その提出にかかる控訴状を陳述したものとみなした。右控訴状には控訴の趣旨として、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める旨の記載がある。
被控訴代理人ならびに補助参加指定代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
(中略)
理由
まず職権をもつて本件控訴申立の適否について判断する。
本件控訴は、弁護士某が控訴代理人として、申し立てたものであることが明かであり、同控訴状添付の委任状ならびに原審に提出された同弁護士に対する委任状には、控訴人が弁護士某に本件控訴事件の代理を委任する旨の記載がある。しかしながら、右各委任状は、いずれも控訴人作成名義の私文書であるところ、控訴人より、本件控訴事件の代理を弁護士某に委任したことがない旨の上申書が提出されたので、当裁判所は、昭和三六年五月二五日、控訴代理人某に対し前記各委任状につき、民事訴訟法第八〇条第二項により、当該吏員の認証を受くべきことを命じた。しかるに、同控訴代理人は、右認証を受けず、かえつて本件控訴事件について控訴人の代理人を辞任する旨の同年六月一四日付の辞任届を提出するに至つた。そうすると、控訴代理人は、本件控訴申立について、代理権を有することの証明もできないし、当事者本人より追認も得られなかつたものと認めるほかなく、結局控訴代理人が申し立てた本件控訴の申立は、権限のないものが、控訴人の代理人として申し立てた不適法な申立というべきであるから、これを却下することとする(この帰結として、原判決は控訴期間内に適法な控訴申立がないものとして確定し、民事訴訟第四二〇条第一項第三号の再審事由を具有するものとみるほかはない)
なお、弁護士某の前記昭年三六年六月一四日付の代理人辞任届の意義ないし効力について一言する。すでに述べたとおり同弁護士は、控訴人より委任を受けた代理人と認めることができないから、控訴人の代理人を辞任するという考えをいれる余地がなく、右辞任の表明は法的にはなんらの意味がない。のみならず、同弁護士は、前記辞任届を提出することによつて、訴訟費用につき、その責を免れることはできない。
よつて、控訴費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第九九条、第九八条第二項を適用して主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第九民事部
裁判長裁判官 平 峰 隆
裁判官 大 江 健次郎
裁判官 北 後 陽 三