大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)1426号 判決 1962年5月31日
控訴人 崎野トメ
被控訴人 浅野満子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠の提出、援用、認否はいずれも原判決事実摘示と同一であるから、ここに之を引用する。
理由
一、被控訴人より訴外木村慶吉に対する本件不動産の所有権移転登記請求控訴事件につき控訴審の判決が昭和三四年一〇月一六日なされたこと、および、右不動産につき控訴人が昭和三五年四月二八日同年同月二三日付売買を原因とする所有権取得登記を了したことは当事者間に争いがなく、その余の被控訴人主張事実は成立に争ない甲第一、第二号証及び第三号証の一、二並びに弁論の全趣旨によつて明らかである。
二、右事実によれば、被控訴人は原判決添付目録記載の不動産につき訴外木村慶吉を登記義務者として、昭和三二年九月二日所有権移転請求権保全の仮登記をしたが、翌三三年二月一日右所有権を取得したので、神戸地方裁判所伊丹支部に本登記手続を求める訴を提起し一審勝訴ののち、控訴審においても昭和三四年一〇月一六日勝訴判決を得、該判決は昭和三六年二月二三日上告棄却の判決により確定したものであるところ、その間において控訴人は、訴外木村慶吉より昭和三五年四月二三日右不動産を買受けたとなして同月二八日その所有権取得登記をなしたものである。
控訴人は、同人の所有権取得登記は被控訴人、木村間の控訴審判決より後になされたのであるから、控訴人は木村の承継人として右判決の効力を受け本訴は訴の利益を欠くものであると主張するが、民事訴訟法第二〇一条にいわゆる承継人は実体関係における承継人を意味するものと解すべきところ、民法第一七七条によれば不動産の二重譲渡の際、第一の譲受人は現実にその登記を経由しなければその所有権取得を以て第二の譲受人に対抗しえないのであるから、第二の譲受人は第一の譲受人の所有権取得を承認しない限り、譲渡人の承継人とはなし得ず、したがつて譲渡人に対しなされた判決の効果を受けることがないのである。本件において控訴人は被控訴人の所有権取得を争つているのであるから訴外木村慶吉の承継人ということを得ず、したがつて本訴は訴の利益を欠く旨の控訴人の主張は理由がない。
三、ところで被控訴人は訴外木村慶吉より未だ所有権取得の本登記を受けていないのであるから、控訴人に対してはその所有権取得を以て対抗しえない筋合であるが、仮登記制度は本登記の順位保全を目的として設けられたものであるから、その趣旨からする当然の結果として、仮登記にもとづいて本登記をなさんとする者はその後順位登記権利者に対して不動産登記法第一〇五条、第一四六条第一項に規定せられた承諾書に代わる同意を命ずる判決を訴求しうるものというべく、このことは本登記なき限り所有権取得を以て第三者に対抗しえない法理と何等矛盾するところがないのである。
四、以上の次第で、被控訴人が控訴人に対し、原判決添付目録記載の不動産につき被控訴人が神戸地方裁判所伊丹支部昭和三三年(ワ)第一三号の判決に基き所有権移転登記申請手続をなすについての控訴人の同意を求める本訴請求は理由があるので之を認容すべくこれと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。
よつて民事訴訟法第三八四条第八九条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 加納実 沢井種雄 加藤孝之)