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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)301号 判決 1963年4月18日

原告被控訴人 明治信用金庫

理由

一、被控訴人が信用金庫法によつて設立された信用金庫で昭和三二年三月二七日児玉一成を雇い入れ、顧客からの預貯金の集金ならびに集金事務の整理を担当させていたこと、控訴人両名が児玉梅二と共に同月二八日被控訴人に対し児玉一成が被控訴人に被用されることによつて同人に蒙らしめる一切の損害について連帯して賠償する旨の身元引受をしたことは当事者間に争いがない。

(証拠)を総合すると、児玉一成が前記集金事務に従事中昭和三三年一二月から翌三四年五月までの間に原判決添付別表(1)記載のように被控訴人の顧客から積金の掛込金を集金しながらその一部を被控訴人に入金しただけで同表差額欄記載の金員をほしいままに費消して入金せず、同別表(2)記載のように顧客への預金払戻金を被控訴人から預かりながら顧客に交付せず、または顧客から被控訴人への預金の依頼を受けて預かつた金員を被控訴人に入金せずしてこれを費消し、よつて被控訴人に対し合計五五三、五一二円の損害を蒙らせた事実を認め得べく、右認定を左右すべき証拠はない。

二、そこで控訴人等の身元保証の責任の有無ならびにその限度について審究する。

(一)  児玉一成が昭和三二年六月下旬被控訴人の本店勤務から境川西支店勤務に転任になつたことは当事者間に争いなく、(証拠)によると次の事実が認められる。すなわち、右支店においては係が出納係、預金係、貸付係、集金事務係等に分れて居り、他に営業社員たる集金人が集金をする。営業社員は集金した現金を直接出納係に入金し集金明細書を集金事務係に渡し、同係ではこれに基づいて口座別の入金伝票を作成しこれを預金係に廻わし、預金係は伝票に基づいて元帳に記帳して伝票を出納係に廻わす。出納係で現金合計と入金伝票の合計金額と一致するかどうかを検査する。これが西支店における通常の事務取扱いであつて、集金事務係はいわば営業社員の集金について監督者的立場にある。しかし西支店では営業社員が三人の小人数であるため(本店では集金人が一五、六名、集金事務係が四人)、補助的に直接現金を取り扱う営業社員の集金を手伝うこともあり、集金事務係が友人、縁故関係で預金等の開拓をしたときには自ら集金を行ない、営業社員の事務と集金事務係の事務とを併せて行なう。これが同店では慣行になつて居て、この場合について格別の監督手段は講ぜられていない。一成は西支店に転勤後も集金事務係を命ぜられていたが、上司より被控訴金庫に勤務するものが預金の開拓をするのは当然の勤めのようにいわれていたので、自ら預金の開拓にも勤め、四〇軒許り新規の加入者を得自らその集金にあたつていた。本件の不正行為は殆んど一成が自ら契約した分の集金に従事していた間に行なわれたものである。

以上の認定事実によると、集金事務係員が自ら集金しながら真実を秘して被控訴人に虚偽の報告をなし、または入金しない場合、あるいは被控訴人より出金した満期支払金を本人に交付しない場合について、右不正行為の防止あるいは早期発見のため格別の手段は講じられていないことが認められる。そして、(証拠)によると、一成の同種不正行為は遅くとも昭和三三年七月二一日から始まつていたのであつて、一成は同月一日児玉利一との間に締結した被控訴金庫の千成積立預金(契約高三六、〇〇〇円、毎月預入金額三、〇〇〇円)の第二回以降一二回の最終回までの預入金を毎月集金受領しながら被控訴人に対しては児玉利一が東京に転勤になつたため集金することができない旨虚偽の報告をなしてこれを入金せず、かつその翌年の昭和三四年二月一七日同一の児玉利一との間に締結した被控訴金庫の二年定期預金(満期支払元利金四九、五四八円、毎月払込高二、〇〇〇円)契約の第二回以降の払込みを毎月集金受領しながら、被控訴人に対しては前同様の虚偽の報告をして着服していたのである。この両者についての一成の報告を比照するだけでも報告に疑念が持たれるべきであるのに、それを被控訴人は気付かず、その後も昭和三四年五月までの長きに亘つて一成が同種不正行為をなすに任かせ、ようやくその頃顧客の方からの問合せにより発覚するまで疑いも持たなかつた事実が認められるから、被控訴人は一成に対する監督の点について著しく怠慢であつたといわなければならない。

(二)  一成が右に述べた如く、被控訴人の本店から境川西支店に転勤したことについて、被控訴人から身元保証人たる控訴人等に対しなんらの通知がなかつたことは当事者間に争いがない。しかしながら、右転勤によつて一成の職種や職務内容に変更があつたと認めるに足る証拠はない。もつとも銀行、信用金庫その他の金融機関の本店と支店とでは、営業の規模と陣容、人的構成と人員配置、職員の監督の機構と系統等においておのずから相当の差異が存するわけであり、現金を直接取り扱う事務に従事するものは、えてして間違いを起こしやすいものであるし、その度合いは職場の雰囲気や人的関係による影響なしとしない。そうすると一成の正規の係はなんであろうと、事実上被控訴人は一成に相当の額の集金事務やその現金取扱いの仕事を行なわせていたのであるから、その勤務場所を変更することは、身元保証人たる控訴人らにおいても身元本人たる一成の監督上の関心事たる身上の一変化というを妨げない。したがつて被控訴人は一成の右転勤の事実を控訴人らに通知するのを可とし、身元保証に関する法律第五条にいわゆる一切の事情に該当するとはいえようが、いまだこれをもつて、信義則上の義務に違反したものと非難することはできず、また、保証責任の加重に伴う適切な処置をとる機会を失わしめたとするのもあたらない。

(三)  次に控訴人等が身元保証をなすに至つた事由について考察する。

当審での控訴人児玉利一本人の供述ならびに証人児玉一成の証言によると次の事実が認められる。控訴人児玉利一は一成と同姓であるが親戚関係はなく同郷の先輩であり、例年郷里の学校長や先生から同郷の生徒の就職を依頼されてその世話をなして来ている。一成の場合も、郷里の校長からの依頼もあり、身元保証人の一人である一成の父児玉梅二は手固い百姓をしている人であることを承知していたので、いわば義侠的な気持から本件身元保証を承諾したものである。

また、当審での控訴人宮本要治本人の供述および証人児玉一成の証言によると控訴人宮本要治は本件身元保証契約をなした当時一成の郷里の中学校の校長をしていて、一成はその教え子ではないがその母と遠縁にあたるところから、一成の父に依頼され、教育者としての立場上青年たる一成の身元保証人となることを承諾し、その就職に協力したものであることが認められる。

以上(一)(二)(三)の事実、その他本件にあらわれた一切の事情をしんしやくすると控訴人等は一成が被控訴人に与えた損害額五五三、五一二円の二分の一たる二七六、七〇六円の限度において訴外児玉梅二とともに連帯責任があると認めるのが相当である。

三、ところで当審での証人児玉一成の証言によると、本件身元保証人の一人である一成の父児玉梅二は同人の家屋敷を売却処分して被控訴人に一八〇、〇〇〇円既に弁償した事実を認め得られる。そして同じく本件身元保証人の一人である控訴人児玉利一の被控訴人に対する預金債権一〇七、二五七円について、被控訴人は本件損害賠償債権と対等額において相殺する旨同控訴人に意思表示をなしたことは当事者間に争いなく、右二個の債権が相殺適状にあることは弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。

四、そうすると控訴人等本件身元保証人はその前記責任額二七六、七〇六円を超ゆる以上合計二八七、二五七円を既に被控訴人に対し賠償していることになるから、控訴人等の本件損害賠償債務はこれにより消滅したといわなければならない。したがつて、被控訴人の本訴請求は理由なしとして棄却すべく、これと異なる原判決は不当である。

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