大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)380号 判決 1961年11月30日
理由
控訴人は、本件手形はいずれも訴外倉本安一より手形振出人に絶対に手形上の責任を負わせないと申向けられ、これを信用して振出したものであるから、控訴人に本件手形金を支払う義務がない旨抗弁する。しかし、右当事者間に右の合意があつたことを認めるに足る証拠がないのみならず、仮にこのような合意があつたとしても、控訴人は倉本安一から直接請求のあつたときに右合意の趣旨にしたがい支払いを拒絶することができるに過ぎず、右倉本安一より以後に本件手形の所持人となつたものと認められる被控訴人に対して右の事実を抗弁として支払を拒みうるためには、被控訴人が本件手形を取得する際、右抗弁事実の存在を知つているだけでなく、右抗弁を遮断する目的を以て本件手形を取得した悪意の所持人であることを要する(手形法第七七条、第一七条但書)。しかるに、本件にはそのような悪意の主張、立証がないのみか、かえつて、証拠によると、訴外倉本安一は、訴外山一水産株式会社が控訴人にフグを売つた代金の支払として、控訴人から本件手形の振出を受けたものであると称して、被控訴人から本件手形の割引を受けた事実を認めることができるので、控訴人の右抗弁は採用できない。
また、控訴人は、本件約束手形は訴外倉本安一に対する融通手形であるから、控訴人に本件手形金を支払う義務がないと抗弁する。しかし、元来、融通手形は、被融通者に該手形を利用して金銭を得させ、もしくはこれと同一の効果を受けさせようとするものであるから、その手形が利用されて、被融通者以外の第三者が該手形を取得したときは、振出人は手形振出の所期の目的を達したわけである。故に、融通手形の振出人が被融通者より直接請求のあつた場合に同人に対し当該手形が融通手形であることを理由に支払を拒むことのできるのは格別、被融通者以外の第三者に対しては、同人が融通手形であることを知つていたと否とにかかわらず、単に融通手形であることを理由に手形債務の支払を拒むことはできない。よつて右抗弁も採用できない。