大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)528号 判決 1962年7月31日
控訴人 小田栄吉
被控訴人 西宮税務署長
訴訟代理人 山田二郎 外四名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする
事 実 <省略>
理由
一、被控訴人が昭和三三年七月一五日附をもつて控訴人に対してなした昭和三〇年度分ないし同三一年度分の所得税決定に対し、控訴人がその決定にかかる控訴人の所得金額等に異議があるとして昭和三三年一二月一〇日および同月二四日被控訴人に再調査の請求をなし(同月一〇日の分を控訴人は異議申立といつているが、これは所得税法第四八条第一項所定の再調査の請求と解するのが相当である。)たところ、被控訴人が右請求は所得税法所定の期間経過後になされたとの理由で再調査請求を却下するとの決定を昭和三三年一二月二六日附でなしたこと、および控訴人が右決定に対し昭和三四年一月二四日大阪国税局長宛審査請求をなしたが、同局長が昭和三四年四月二一日附で右審査請求を棄却する旨の決定をしたことは当事者間に争がない。
二、成立に争のない乙第一号証の一、二、同第二、三号証と弁論の全趣旨を綜合すると、控訴人に対する昭和三〇年度および同三一年度分所得税額決定通知書が書留郵便で被告税務所直税課より西宮市平松町四番地控訴人宛発送され、同郵便が昭和三三年七月一六日同所において訴外宮本進により受領されたことを認めることができる。原審および当審における証人宮本進ならびに当審証人村田秋雄の証言、原審ならびに当審における控訴人本人の供述中右認定に反する部分はいずれも措信しない。
三、控訴人は控訴人が当時右西宮市平松町四番地に居住しておらず、かつ右決定通知書を受領していないと主張するので案ずるに、原審および当審における証人宮本進の各証言(ただし原告証人宮本進の証言中後記措信しない部分をのぞく)および控訴人本人の各供述によれば、控訴人はもと西宮市平松町四番地に居住し、昭和二八年頃大阪市南区安堂寺橋通四丁目四一番地に移転していたが、住民登録法上の転出の届出をなさなかつたこと、そして右平松町四番地に送られてくる控訴人宛各種郵便物については控訴人の妻の弟であつてその頃から同所に居住し、原告の事業に関連のある夜具商を営む訴外宮本進に対し、控訴人に代つてこれを受領する権限を与えておりしたがつて、控訴人宛同所に送達された郵便物はすべて宮本が受領したうえ、これを遅滞なく控訴人のもとに持参、または控訴人において随時右宮本方に赴いて控訴人宛郵便物を受取るのを例としていたもので、昭和三三年七月一六日頃においてもそのような状態であつたことを認めるに十分であつて、原審証人宮本進の証言中右認定に反する部分は措信しがたく、他にこれに反する証拠はない。そうして前記各決定通知書が、右代理権限を有する宮本進によつて受領された以上、それが爾後現実に控訴人の手中に到達したかどうかに関りなく法的には控訴人自身が受領したのと同じであるから、訴外宮本が前記各決定通知書を受領した昭和三三年七月一六日から一箇月以上を経過してなされた本件再調査の請求は所得税法第四八条第一項所定の期間を徒過しているというほかなくこれを却下した被控訴人の前記却下決定は正当といわねばならない。
四、控訴人は仮に本件決定通知書が西宮市平松町四番地に配達されているとしても、被控訴人は控訴人が同所に居住していないことを知りながら宛名を「小田栄吉同居人宮本進」としてこれを発送したもので、現に控訴人の手中に到達しなかつたものであるから、本件再調査請求は法定の期間徒過の理由のみで却下さるべきでないと主張するが、被控訴人において、控訴人が当時西宮市平松町四番地に居住していなかつたことを知りながら、同所に前記通知書を発送したことを認めるべき証拠はないし、また、前記認定のように、前記決定書は控訴人より郵便物の代理受領権限を与えられていた訴外宮本進によつて受領せられているのであるから、これに前認定の事実を勘案すれば、たとい控訴人自身がこれを受領していなかつたとしても、所得税法第四八条第二項、第二五条の三にいう「通信、交通その他の状況によりやむを得ない事由がある」ときには該当しないというべく、したがつて、被控訴人の前記却下決定には、この点につき裁量を誤つた違法はない。
五、右に述べたところで明かなように以上のとおり控訴人の請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 沢栄三 斎藤平伍 石川義夫)