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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)610号 判決 1963年12月06日

理由

一、元原審共同原告の昭光織物株式会社(本件契約当時の商号は森脇織物株式会社)が織布業者で、控訴人がスフ糸卸売業者であること、右会社が控訴人より購入する織布用糸代金債務の支払を確保するため、被控訴人が昭和二九年一一月九日控訴人に対し、被控訴人の所有名義にかかる原判決目録記載の物件に債権極度額二〇〇万円、期間満二年の工場抵当法第三条による根抵当権を設定し、同日被控訴人主張の本件根抵当権設定登記がなされていることは、当事者間に争のないところで、証拠によれば、本件根抵当物件は被控訴人の所有に属することが認められる。したがつて、本件根抵当物件が森脇重司の所有であることを前提とする控訴人の主張は、すでにこの点において理由がない。

二、控訴人は、本件根抵当権の契約期間は試みに定められたものであつて、取引が順調に行われたならば、契約が当然に更新されることが契約当初から明示的もしくは黙示的に合意されていたものであると主張するけれども、証言中右主張に沿う部分は、信用できず、その他の証拠によつても右主張を肯認するに足りない。

三、控訴人は、本件根抵当権設定契約は契約期間の満了とともに黙示的に更新されたと主張するけれども、控訴人と前記昭光織物株式会社との間に本件根抵当の契約期間経過後も取引が継続していたというだけで、控訴人と被控訴人間の本件根抵当の黙示の更新を認めるわけにはいかないし、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

四、控訴人は、昭和三二年六月頃、控訴人と被控訴人の代理人森脇重司との間に、本件根抵当の債権極度額を四〇〇万円として契約期間を更新する旨の合意が成立したと主張するけれども、本件においては、上叙のごとく、本件根抵当権設定契約は債権極度額を金二〇〇万円とし、設定日の昭和二九年一一月九日より満二年を経過した昭和三一年一一月八日限り、期間満了により終了する関係にあつて、その旨の本件登記がなされているところ、証拠によれば、前記昭光織光株式会社は本件根抵当権の存続期間中に生じた債務を昭和三一年一二月二五日までに完済していることが認められるから、本件根抵当権はすでに消滅し、該根抵当権設定登記は無効に帰したものというべきである。ところで、根抵当権消滅後の合意を原因として、契約期間を伸張しても、かかる合意は、新たな根抵当権の設定契約として、新たな根抵当権の設定登記手続によるべきであつて、無効に帰した根抵当権設定登記を流用して該登記の単なる変更登記手続によることはできない。したがつて、仮に控訴人の右主張がそのままに認められるとしても、本件においては、それは新たな根抵当権設定に関する事柄であつて、期間の定めのある本件根抵当権設定登記の抹消を拒否する理由とはなりえないから、控訴人の右主張自体理由がない。

五、控訴人は、右四、に主張する契約に関連し、事後追認又は民法の第一一二条もしくは第一一条の表見代理の成立を主張するけれども、右四、に判断したと同じ理由により、控訴人の右主張自体失当である。

六、以上にみてきたとおり、控訴人の主張はいずれも理由がなく、本件根抵当権の存続期間中に生じた債務が昭和三一年一二月二五日までに完済されていることは、上記認定のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し、本件根抵当権の設定登記を抹消すべき義務あるものといわなければならない。上叙の次第で、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は、結局正当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却。

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