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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)762号 判決 1963年5月17日

理由

一、被控訴人が本件各手形を所持していること、並びに被控訴人主張の本件各手形の振出呈示及び支払拒絶の事実は当事者間に争いがない。よつて以下順次控訴人の主張について検討する。

二、先ず、控訴人は、本件各手形を他から割引を受けるため受取人欄を白地として振出し、小堀又吉、三宅幸雄、栗山勉、辻正雄の手を経て被控訴人に割引を依頼したところ、被控訴人は割引をなさずして擅に自己を受取人として補充したので、受取人としての権利を有しない、と主張するので考察する。本件各手形が受取人欄を白地として振出されたことは当事者間に争いがなく、(証拠)を綜合すると、本件各手形は控訴人が他から割引を受けるため振出したもので、控訴人から小堀又吉を通じて訴外三宅幸雄に、同人から訴外栗山勉に順次その割引の斡施を依頼して交付され、右栗山は訴外辻正雄にその割引を依頼したところ、辻は割引金を支払わないで右各手形を同人が被控訴人に対して負担する繊維製品買掛代金三五八、七五〇円の債務支払のため被控訴人に、受取人白地のまま、引渡により譲渡したので、被控訴人は自己を受取人として補充したことが認められる。従つて被控訴人の右主張は失当である。

三、しかして前段認定の事実によると、被控訴人は本件各手形の取得につき悪意又は重大な過失のない限り本件各手形を取得し、これと同時に白地補充権をも取得したものと解すべきところ、控訴人は、被控訴人は本件各手形取得の際本件各手形が割引のため振出され辻に交付されていた事実を知つており、仮に知らなかつたとしても、辻が手形上の権利を有しないことを知らざるにつき重大な過失があつたと主張する。しかし被控訴人が本件各手形を取得する際辻正雄が本件各手形上の権利を(従つてその白地補充権を)有していないことを知つていたことを認めるに足る証拠はなく、又控訴人主張のように辻正雄が被控訴人に対し三五八、七五〇円の商品買掛代金の支払を遅滞していたからといつて、(当審証人辻正雄の証言によると当時同人はなお営業中であつたことが推認される)同人が本件各手形を所持していることに不審の念を抱くのが当然であるとはいいえないし、況んやその取得にあたり控訴人にその手形の振出につき照会しなかつたことをもつて重過失があつたものとはいいえないから、控訴人の右主張も採用しえない。

四、被控訴人が白地補充権を有しないとの主張について。

(一)  本件各手形が割引のため受取人欄を白地として割引をした者を受取人に補充せしめる趣旨で振出されたことは前示のとおりであるけれども、被控訴人が引渡により辻正雄から本件各手形を取得すると同時に、白地補充権をも取得したものと解すべきであることは前説示のとおりであり、従つて前認定のように右各手形の取得につき善意で重大な過失のない被控訴人は自己を受取人として補充しうるものであるから、控訴人の四の(一)の主張は理由がない。

(二)  被控訴人が辻正雄から本件各手形を取得する際白地補充の趣旨を知つていたことを認めるに足る証拠なく、本件各手形の取得につき被控訴人に重大な過失がなかつたことは前認定のとおりであるから、控訴人の四の(二)の主張も採用しえない。

(三)  原審及び当審での控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は本件各手形を辻より同人の被控訴人に対する商品買掛代金支払のため受取つた後、昭和三五年一月頃控訴人と面談し、本件手形振出の事情を告げられたことが認められるけれども、悪意又は重大な過失なくして白地手形を取得した所持人が、その手形取得後(それが白地補充前であつても)白地補充についての委託の趣旨を知つたとしても、既に取得した白地補充権に影響を及ぼすものでないことは、手形法第一〇条、第七条第二項に照しても、当然である。控訴人の四の(三)の主張も採用しえない。

五、本件手形の授受について原因関係がないとの主張について。

(一)  本件各手形においては控訴人が振出人被控訴人が受取人となつていて直接当事者のような外観を呈しているが、右各手形は受取人を白地として振出され、被控訴人がこれを取得するに至つた経緯は前認定のとおりであり、その間に辻正雄が被控訴人に対する譲渡人として介在しているのであるから、被控訴人が自己を受取人に補充しても、控訴人と被控訴人が手形授受の直接当事者となるものではなく、従つて控訴人と被控訴人との間に手形授受の原因関係がなくても、控訴人は被控訴人に対して手形金の支払を拒否することができない。

控訴人の五の①の主張は採用しえない。

(二)  受取人白地の約束手形が流通におかれた場合該手形の引渡によつてこれを譲渡しうるものと解すべきであるから、右は単に指名債権の譲渡に過ぎないとし、被控訴人を辻正雄の承継人であるとする控訴人の五の(二)の主張も理由がない。

六、いわゆる悪意の抗弁について。

(後略)

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