大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)109号 決定 1961年7月18日
抗告人 播州信用金庫
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告人は、「原決定を取り消す。」との決定を求め、その抗告の理由は別紙のとおりである。
原審記録によると、次の事実が認められる。
抗告人は、もと姫路相互信用組合と称し昭和二六年一〇月二〇日組織変更により播州信用金庫となつたものであるが、抗告人は昭和二四年一一月二八日南武男との間にその所有の別紙目録記載(イ)の土地について極度額二〇万円の根抵当権設定契約を締結し同月三〇日その旨登記を経由し、ついで昭和三〇年八月四日南武男との間に同目録記載(イ)の土地、(ロ)、(ハ)の各建物について極度額五一万円の根抵当権設定契約を締結し同月一八日その旨登記を経由した。
本丸広文は南武男から昭和三二年二月六日(イ)の土地を買い受け同月一九日その旨登記を経由し、同日(ロ)の建物を買い受けその旨登記し、同日株式会社三和相互銀行との間に(イ)の土地、(ロ)の建物等について極度額二五〇万円の根抵当権設定契約を締結しその旨登記を了した。抗告人は南武男に対する貸金債権元利金計五八万二四〇五円の弁済を受けるため、昭和三〇年八月四日付契約による前示根抵当権の実行として昭和三五年六月二〇日原裁判所に競売の申立をし、同日(イ)、(ロ)、(ハ)の各不動産について不動産競売手続開始決定が行われた。同年八月三〇日姫路市長から固定資産税等計四万六三五〇円の交付要求が行われた。その間(イ)の土地の最低競売価額は一〇八万四八六〇円、(ロ)、(ハ)の各建物のそれはそれぞれ二六万五〇〇〇円、七八万円として競売公告がなされたが競買を申し出る者なく、その後(イ)の土地のそれは九七万六三七四円、(ロ)、(ハ)の各建物のそれはそれぞれ二三万八五〇〇円、七〇万二〇〇〇円とされて競売の公告が行われ、昭和三六年四月一四日の競売期日に(イ)、(ロ)、(ハ)の各不動産についてそれぞれ競買価額の申出の催告が行われた結果、(ロ)の建物についてその最低競売価額二三万八五〇〇円で競買の申出がなされたが、(イ)の土地と(ハ)の建物とについては競買の申出をする者がなかつた。その結果原裁判所は同月二一日(ロ)の建物について競落許可決定を言い渡した。
以上の事実が認められる。
してみると、原裁判所は(イ)の土地とその地上にある(ロ)、(ハ)の各建物とを一括して競売する旨の売却条件を定めず、(ロ)の建物を個別に競売したものというべきである。およそ債権者が同一の債権の担保として数個の不動産の上に抵当権を有し、かつ後順位の抵当権者がある場合において、もし同時に配当がなされるときは、その各不動産の価格に準じて先順位の債権者の債権の負担を分つべく、その売得金を先順位の抵当権者に弁済して余分があるときは、これを後順位の抵当権者に弁済すべきである(民法三九二条一項)。したがつて後順位の抵当権者のある共同抵当の場合、共同抵当権者に弁済してその売得金に余分が生ずる見込のないときを除き、各不動産を個別に競売すべきである(大審院昭和七年二月五日決定民集一一巻三八七ページ参照)。抵当権の目的である土地とその地上の建物とを個別に競売するときは、通常その競売価額が低下し抵当権者に不利益な結果を生ずるであろうけれども(同法三八八条参照)、この場合とくに同法三九二条一項の規定の適用を排除することはできないと解するほかはない。してみると、原裁判所が(ロ)の建物を個別に競売したのは相当というべきであるばかりでなく、数個の不動産を一括して競売するか個別に競売するかは、法律上の売却条件ではないというべきであるから、原裁判所が(ロ)の建物だけを個別に競売したことをもつて抗告の理由(民訴法六八一条二項六七二条第三号)とすることはできない。
抗告人の主張は採用できない。
他に記録を調べてみても原決定を取り消すべき違法の点は認められないから、本件抗告を失当として棄却すべく、民訴法四一四条三八四条九五条八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判官 山崎寅之助 山内敏彦 日野達蔵)
目録
(イ)、姫路市恵美酒町参弐番
一、宅地四拾四坪弐合八勺
(ロ)、同所 参弐番
家屋番号 同所六六番
一、木造瓦葺平家建居宅 壱棟
建坪 拾参坪弐合五勺
(ハ)、姫路市恵美酒町参弐町
家屋番号 同所六壱番
一、木造瓦葺弐階建居宅 壱棟
建坪 拾九坪五合
外二階坪 拾九坪五合
抗告の理由
一、本件不動産競売事件に付き債権者なる抗告人は抵当不動産である姫路市恵美酒町三二番宅地四拾四坪二合八勺、同所三二番地上家屋番号同所六六番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十三坪二合五勺、同番家屋番号同所六一番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十九坪五合外二階坪十九坪五合に付き競売申立の当初一括競売の申立をしてゐたところ、競売実施に当り各個に分離して競売された為め右家屋番号六六番の建物のみが競買され他の物件に付いては競買の申出をする者がなかつたのであります。
二、本物件は表示されてある通り競売土地地上に競売建物があり之を一体してこそ適正な価格であり、且つ最も高価な価額となるも之を分離した場合当然法定地上権の問題を生じ宅地は地上権の負担あるもの建物は地上権を伴うもの又そうでない場合等複雑な紛争を後日に残す結果一挙に売却されないときは負担付きの物件は常識で判断出来ないやうな低廉なものとなる恐れが充分にあつたので特に一括競売実施を希望してゐたのに分離された為め債権者の最も嫌念してゐた建物の一部のみが競買されると云ふ結果を招いたのであり、此の儘競売事件を続行されては宅地は著しく価格が低下して申立人の債権の回収のみでさへおぼつかないと十二分に予想されるものであります。
三、本来不動産の競売に当りては総ての債権者のためひいては債務者及物件所有者に利益をもたらすためできる限り抵当物件を高価に処分することを基本として特に本件のやうに土地建物の所有者がことなり又不動産の一部に後順位抵当権がある場合一括した評価と分離した評価との二様に評価を命ぜられ、之を基準として最低競売価格を指定されるべきが相当でなかつたかと考えるものであります。事ここに出でずして申立人が債権者として当初一括競売の申立をしたのに之を容れられずして分割競売されたのは違法であり、更に競売申出のあつた前示六六番の建物につき競落を許されたのは違法につき之が取消を求める次第であります。