大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)133号 決定 1963年7月09日
債権者 幸福相互銀行
理由
抗告人は原決定を取消すとの裁判を求め、その理由とするところは、
一、本件につき、鑑定人及び執行吏は宅地については賃貸借関係なしとし、建物の内、居宅については抗告人において使用占有しているものとしているが、右は事実に反するものである。即ち、抗告人は昭和三二年二月一九日、田村昌吉に宅地を賃貸し、同年一〇月二九日賃借権設定登記手続をなし、建物も同人に賃貸し、前同日賃借権設定登記手続をなしている。
また抗告人は昭和三二年三月一一日、大阪市天王寺区勝山通一丁目二四番地に転居している。
二、鑑定人は本件競売不動産の評価をなすに当り、登記簿上の構造、種類、坪数を基準としているが、本件建物は昭和二一年当時より殆んど原形を止めず、僅かに登記簿上、木造瓦葺二階建居宅、建坪一七坪三合六勺、二階坪六坪七合一勺と表示されている建物が現存建物と同一(この物件を著しく坪数、構造が相違している)ではないかと考えられる程度であつて、他はいずれの物件がいずれの物件であるか判然としない現状である。
抗告人が本件建物の所有権を取得して以来、建物の改築、修繕をしたのは僅少であり、構造、坪数、種類の変更はその以前になされたものである。
従つて本件につき鑑定人がなした鑑定には重大なる誤りがあり鑑定価格に著しき変動があるというにある。
よつて按ずるに(証拠)を綜合すると、抗告人が相手方に抵当権を設定した当時及びその後の本件抵当建物の状況は別紙目録記載のとおりであつて、その建坪は合計二七六坪六合八勺であることが認められる。然るに記録編綴の鑑定人清水久米治作成の鑑定書によると、右鑑定人は競売建物の建坪を登記簿の表示により計算し、合計一八二坪二合七勺なりとし、居宅は坪当り金二三、五〇〇円、鉄骨工場及び鉄骨倉庫は各坪当り金一六、三〇〇円、守衛室は坪当り金七、二〇〇円、その他の工場は坪当り金一〇、七〇〇円と評価し、合計金二、三八八、二〇〇円なる金額を算出したことが明らかである。すると右鑑定人の評価額は坪当り評価額においては妥当であるとしても、その総額において現に存する建物の評価額総額と大差があり、著しく低きに失することとなるから、これを基礎として最低競売価額を定め、手続を進行した本件競売手続は競売及び競落期日の公告に正当な最低競売価額の記載なきに帰し違法であるといわなければならない。
のみならず、前認定のとおり本件建物の現状は別紙目録記載のとおりであつて、登記簿上に表示されたところと著しく異なり、登記簿上に表示された建物と現実に存する建物との間に同一性が存すると認識することが困難であるから、登記簿上の表示に従つてなされた本件競売及競落期日の公告はこの点においても適法なものとは認め難い。
すると本件競売手続は違法であり、これに基いてなされた原決定も亦違法であるから、爾余の抗告理由に対する判断を省略し、原決定を取消。