大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)248号 決定 1963年2月19日
理由
よつて按ずるに相手方が抗告人米谷に対し債権を有し、右債権担保のため抗告人会社所有の本件土地に抵当権を有するとなし、右債権の支払のないことを理由として、昭和三五年三月一六日神戸地方裁判所尼崎支部に任意競売の申立をなし、同裁判所がこれを容れて、同月二五日競売開始決定をなしたこと、抗告人米谷が昭和三一年八月、同人所有の建物に抵当権を設定し、岩井フミから金五〇万円を借受け、同年九月から毎月金三万円宛の割賦弁済、利息年一割八分と約定したこと、岩井フミが昭和三三年八月八日死亡し、岩井一郎、同正治、同周三が遺産相続をなしたことはいずれも当事者間に争がない。
(省略)
抗告人等は、岩井正治は登記義務者代表岩井正治名義で、債権を抵当権と共に千代田商事株式会社に譲渡した旨、抗告人米谷に通知し来つたが、右債権譲渡の事実なく、仮りにかかる事実があつたとしても、右譲渡は正治が単独でなしたものであるから、同人の持分についてのみ効力を生ずるに過ぎないと主張するけれども、(証拠)を綜合すると、岩井正治は共同相続人岩井一郎、同周三から本件債権の処分を一任されていたところ、昭和三三年一月一六日頃右両人の代理人兼本人として、千代田商事株式会社に取立のため本件債権及び抵当権を譲渡したことが認められる。
抗告人等は仮りに正治が一郎及び周三の持分をも処分する権限を有していたとしても、右債権譲渡の通知は正治一人からなされ、譲渡日付の記載を欠き且つ譲渡債権が特定されていないから、千代田商事株式会社は右債権譲渡をもつて抗告人米谷に対抗することができないと主張し、成立に争のない甲第四号証の一、二によると、右債権譲渡の通知書には通知人として「登記義務者代表岩井正治」と、譲渡債権として「昭和三三年一月一六日二月六日付にて登記受付第一四〇七号と第三七六号第三七七号」と記載され、岩井一郎及び岩井周三の氏名及び譲渡日付の記載がないことが認められるけれども、譲渡の日時は債権譲渡の通知の要件ではなく、(証拠)を綜合すると、本件土地の登記簿には昭和三三年一月一六日受付で、岩井一郎、同正治、同周三の昭和三二年八月八日の相続を原因とする抵当権移転の附記登記、昭和三三年一月一六日付譲渡を原因とし、千代田商事株式会社を権利者とする抵当権移転附記登記(受付番号第三七六号)、同日付譲渡を原因とし、前記会社を権利者とする代物弁済予約による所有権移転請求権保全仮登記の移転附記登記(受付番号第三七七号)がなされており、(なお抗告人米谷所有建物の登記簿には昭和三三年二月七日受付で、同月六日付譲渡を原因とし、権利者を前記会社とする代物弁済予約による所有権移転請求権保全仮登記の移転附記登記(受付番号第一四〇七号)がなされている。)抗告人米谷は昭和三三年三月頃尠とも本件土地の登記簿を閲覧して右登記事項を知つていたことが認められるから、抗告人米谷としては前記債権譲渡の通知は岩井正治が一郎及び周三の代理人兼本人としてなすものであり、また譲渡債権は右三名が岩井フミから相続し、抗告人会社所有の本件土地に対する抵当権によつて担保される債権であることを知り得べく、このような事情の下においては、前記債権譲渡の通知は、抗告人等の主張するような違法無効のものとすることはできない。