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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)283号 決定 1962年12月25日

抗告人 高山光一(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一、昭和三五年六月二三日東京都大田区長が、戸籍法第二四条に則り同年六月一六日附東京法務局長の許可をえて、

本籍東京都大田区田園調布町三丁目二〇番地筆頭者抗告人の戸籍中、夫抗告人ならびに妻典子の各身分事項欄の婚姻事項の記載を消除したことは、原審記録中の筆頭者抗告人の右戸籍謄本(写)ならびに昭和三五年六月一六日附東京法務局長より大田区長に対する戸籍訂正許可書(写)によつて明かである。

二、そこで、右大田区長のなした職権による戸籍訂正が適法か否かを考察する。

(一)  戸籍法第二四条は、「戸籍の記載が法律上許されないものである」場合に、市町村長が職権訂正をなしうることを規定しているが、戸籍の訂正は、当事者その他関係人からの申請に基き裁判所の関与のもとになされるのを原則とし、(同法第一一三条ないし第一一六条)右職権訂正は例外的に認められる簡易手続であり、右訂正方法の区分は、それぞれの訂正事項の重要性に照応して訂正手続を慎重ならしめる趣旨のものと解せられる。したがつて、職権訂正の方法により訂正さるべき事項の内容には一定の制限があることはいうまでもなく、その訂正事項が重大な身分関係に影響を及ぼすべき場合(これを例えば、本件の如き婚姻無効の場合)は、前記第一一六条により確定判決をえて訂正すべきでものであり、職権訂正によるべきではないとの見解は、一応原則的にはこれを是認できる。

しかしながら、職権訂正は例外的方法とはいえ、身分関係を公証する戸籍に不適法又は真実に反する記載がある場合に、当事者等の申請がないからといつて、これを放置できないとの公益的見地から認められたものであることに鑑みると、戸籍法第一一六条にいわゆる確定判決に匹敵すべき有権的資料によつて右事由が戸籍官吏に明白となつた場合でも、なお職権訂正を絶対に許さないものと、しかく厳格に解する必要はない。かかる場合には訂正事項が身分関係に重大な影響を及ぼすべきものにあつても、必ずしも右第一一六条の方法によることなく、監督庁の許可をえて職権訂正をなしうると解しても、裁判所の関与のもとになされるその他の訂正方法に比し、その手続的保障の点において、均衡を失することはなく、これが戸籍訂正制度の趣旨にもとるものとは考えられない。

そこで、本件についてみるに、抗告人と典子の前記婚姻事項の記載は抗告人が偽造した届書に基きなされたもので、右届書偽造につき抗告人有罪の刑事判決が確定したというのであるから、かかる不適法になされた戸籍の記載が前記戸籍法第二四条の戸籍の「記載が法律上許されない」場合に該当することは明かであるのみならず、前記有罪の確定判決は婚姻無効確認の判決と異なり、婚姻の無効を確定するものではないとしても、右判決によつて前記典子が抗告人と婚姻する意思のないこと、したがつて、右婚姻の無効なことが極めて強力に推定できるわけであるから、右有罪の確定判決の存在は、前記戸籍訂正事由を証するに足る有権的資料と考えて差支えない。しからば、本件戸籍の訂正は、前記説示にてらし、職権訂正によりうる場合に該当すると解するのが相当である。

(二)  しかして、戸籍法第二四条第一項によれば、職権訂正に先立ち、届出人又は届出事件の本人に訂正すべき戸籍の事由を通知すべきことになつているが、右規定は、戸籍の記載が当事者等の届出に基いてなされるのが原則であることに照応し、当事者等に右事由のあることを認識させたうえ、任意な訂正申請を促がす目的に出たものにほかならないから、本件の如く、届出人たる抗告人が、届書を偽造したものとして有罪判決が確定している場合には、届出人自身において、前記戸籍訂正事由の存することを十分知悉しているのであるから、かかる届出人に対しては、前記通知を要しないと解すべく、右届出人がその戸籍訂正申請をなさない以上、同法第二項の「通知をしても戸籍訂正の申請をする者がないとき」に該るものとして、戸籍官吏は直ちに監督庁の許可をえてその訂正をなしうると解するのが相当である。

もつとも、前掲東京法務局長より大田区長に対する戸籍訂正許可書ならびに抗告人提出の昭和三五年六月一日附右区長の右法務局長に対する戸籍訂正許可申請書写によると、右許可申請は戸籍法第二四条第二項の「通知をすることができないとき」に該当するものとしてなされ、これに対し前記法務局長の許可がなされていることが認められる。しかしながら、抗告人主張の如く右訂正許可当時、抗告人ならびに典子の住所がいずれも不明でなく、したがつて本件は前記「通知をすることができないとき」に該らないとしても、他方「通知をしても戸籍訂正を申請する者がないとき」に該当すると解すべきこと前記のとおりである以上、結局職権訂正前提たる要件を充足しているのであるから、前記法務局長の許可をもつて違法とすることはできない。

三、以上、判断したところによれば前記大田区長のなした本件戸籍の訂正は適法有効であるから、その無効を前提とする抗告人の本件戸籍訂正の申立は理由がない。抗告人の抗告理由は、前記判断と異なる立場にたつ見解であつて、採るをえない。

しからば、抗告人の本件申立を却下した原決定は正当であつて本件抗告は理由がないから、これを棄却する。よつて、家事審判法第七条、非訴事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 沢栄三 判事 斎藤平伍 判事 中平健吉)

(抗告理由省略)

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