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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)38号 決定 1962年5月31日

決   定

抗告人

藤原広明

抗告人

藤田和子

右両名代理人弁護士

陶山三郎

相手方

田村巧

右代理人弁護士

小林多計士

主文

別紙目録第二物件の競落許可決定に対する本件抗告を棄却する。

別紙目録第一、第三物件の競落許可決定を取消し、右物件の競落を許さない。

抗告費用は、これを二分し、その一を抗告人等の負担とし、その余を相手方の負担とする。

理由

抗告人等主張の抗告理由は別紙のとおりである。

相手方の答弁は別紙のとおりである。

抗告理由二について。

本件記録中の抗告人藤原広明に対する審尋調書、疎乙第一、二号証、田村巧の陳述書、株式会社大阪日勧の挨拶状、同会社株主代表者会議々事録、藤原広義の田村巧宛書面二通及び別紙目録記載物件の登記簿謄本を総合して考察すれば、抗告人藤原広明は日本勧業振興株式会社に対し金一、五四〇、〇〇〇円の貸金残債務を負担していたところ、昭和二八年一二月一五日株式会社大阪日勧がこの債権を譲受け、更に昭和二九年一〇月一八日株式会社大阪日勧より相手方田村巧がこの債権の譲渡を受け、同日、藤原広明はこれを承諾して、その弁済期日を昭和三〇年一〇月末日とし、利息を月一分五厘とすることを約し、同日、その支払を担保するため別紙第一ないし第五物件に順位第一番の抵当権が設定され、右物件に昭和二九年一〇月一九日受付第一〇九四一号を以て原因同年同月一八日契約債権額一、五四〇、〇〇〇円弁済期昭和三〇年一〇月末日利息年一割五分利息支払期弁済期に元金と同時に支払う旨の抵当権設定登記がなされた事実を認め得る。抗告人提出の資料をもつては右認定を左右できない。

したがつて、坑告理由二は採用できない。

抗告理由一について。

(一)  相手方の抗告人藤原広明に対する元金一、五四〇、〇〇〇円の本件債権の共同抵当物件である別紙第一ないし第五物件中、第五物件がまず競売金一、七六七、〇〇〇円を以て競売され、昭和三四年一〇月二九日相手方が(1)競売費用、金三二、〇四〇円(2)元金一、五四〇、〇〇〇円に対する年一割五分の割合の最後の二年分の損害金、金四六二、〇〇〇円(3)元金内金、金一、二七二、九六〇円(従つて元金残金、金二六七、〇四〇円となる。)の弁済を受けたこと。

右(一)の事実は一件記録中右物件に対する競落許可決定の確定及びその代金の配当実施にいたるまでの手続に関する部分により明かである。

(二)  原審が昭和三六年二月二八日

本件第一物件を金一八五、〇〇〇円

本件第二物件を金三一七、〇〇〇円

本件第三物件を金二二五、〇〇〇円

の各最高価競買人に対し競落許可決定をしたこと。

(三)  本件第一、第二、第四、第五物件にはこれを共同担保として昭和三一年三月七日受付第二五二四号を以て同年二月二四日金銭消費貸借に付ての抵当権設定契約抵当権者株式会社西川商店債権額四、〇〇〇、〇〇〇円の後順位抵当権設定登記がなされているが、第三物件には後順位抵当権が存在しないこと。

右(二)、(三)の事実は本件記録により明かである。

ところで、競売法による競売手続においても民事訴訟法第六七五条の準用あるものと解すべきところ、本件競売費用(前記(一)の(1)の競売費用を除く)が金四九、九六〇円以下であることは、本件記録上明かであるから、本件第二物件の競売代金三一七、〇〇〇円が、本件競売費用及び本件債権元金残額金二六七、〇四〇円を償うに足ることは、算数上明かである。

したがつて、本件第二物件の競落のみを許可すべく、本件第一、第三物件の競落を許可すべきものでない。

相手方は、「相手方は、昭和三四年一〇月二九日本件第五物件の競売代金より、(1)競売費用金三二、〇四〇円、(2)本件貸金元金金一、五四〇、〇〇〇円の内金一、二七二、九六〇円、(3)本件貸金元金に対する昭和二九年一〇月一八日より昭和三四年一〇二九日まで一割五分の割合による金額から支払済の金六〇、〇〇〇円を控除した額の利息損害金の内金として最後の二年分の損害金四六二、〇〇〇円の弁済を受けたのみであるから、後順位抵当権の存在しない本件第三物件の競売代金より、(3)の利息損害金の残金及び貸金残元金二六七、〇四〇円に対する昭和三四年一〇月二九日より支払済まで年一割五分の割合による損害金の合計金額(最後の二年分過の利息損害金)について優先弁済を受ける権利がある。したがつて、本件第三物件の競落を許可すべきである。」と主張する。

最後の二年超過の利息損害金についても、当事者間においては、有効な抵当権が存在し、ただその優先弁済権を第三者に対し対抗できないのみであり、一般に、第三者に対する対抗力のない抵当権であつても、当事者間においては、権利実行の要件を備える限り、競売法の規定するところに従い抵当権実行による競売手続を有効に行い得る。

しかし、第三者に対する対抗力のない抵当権の目的物件に関し第三者が正当の利益を有するときは、右抵当権に基いて抵当権実行による競売手続をなし得ないものと解するのを相当とする。

これを本件についてみるに、本件共同抵当物件の後順位抵当権者は民法第三九二条第二項により第三物件に対する共同抵当権者の一番抵当権を代位行使できるから、第三物件に関し正当の利益を有する第三者が存在する。したがつて、共同抵当権者は最後の二年超過の利息損害金について第三物件に対し抵当権実行の権利を有しない。

結局、共同抵当物件の一部の物件に後順位抵当権が設定され、共同抵当権者が右後順位抵当権の存在する物件の競売により最後の二年分の利息損害金の弁済を受けた場合、右後順位抵当権者が、後順位抵当権の存在しない他の共同抵当物件に対し民法第三九二条第二項による代位権を有する限り、共同抵当権者は、右後順位抵当権の存在しない物件に対し、最後の二年分超過の利息損害金を被担保債権とする抵当権にもとづいて、優先弁済権も競売権も有しないものと解すべきである。

したがつて、相手方の主張は採用できない。

よつて、本件第二物件の競落許可決定対する本件抗告を棄却し、本件第一、第三物件の競落許可を取消し、右物件の競落はこれを許さないこととすべく、民事訴訟法第九二条第九三条を準用し、主文のとおり決定する。

昭和三七年五月三一日

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西  勝

裁判官 中 島 孝 信

目録(省略)

抗告理由ならびに答弁(省略)

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